王都に入るとやっぱりいろいろあるフラグP-4
今日も朝日は昇る
「エル様…エル様……朝ですよ?」
「ん…ん〜」
「おはようございますっエル様!」
「…おはよう、クイナ」
俺が目を覚ますとすでにクイナは起きていた。
そして俺は無事に理性を保ちきったのだ
「エル様お疲れだったんですね。とてもぐっすりお眠りでした」
「まぁね」
ごめんなさい!嘘吐きました!
実は悶々として眠れなかったので鎮静剤と睡眠薬を飲んで寝ました!
とは言えず
「今日から王太子の本格的な治療を開始だから頑張ろう!」
「はい!頑張りましょう、私も精一杯お手伝いします!」
その後、メイドさんが用意してくれた朝食を食べ、まず医師団長の元を訪ねてから王太子の部屋に向かう。そして、目を覚ました王太子に医師団長が経緯を説明し自己紹介してから治療を始める。三日目にはベッドの上で上半身を起こせるまで回復した
そして、今日も王太子の部屋に治療にいく、クイナには治療用の薬草の分別を頼んだので一人である
「失礼します、殿下治療に来ました」
「入れ」
「失礼します」
許可を得て部屋に入ると
「あ、おはようございますっ陛下、宰相殿」
「うむ、おはよう」
陛下が宰相と一緒に様子を見に来ていた
「カーマインも最初に比べだいぶ良くなっているようじゃな」
「毎日あの不味い茶を飲んでいますので、父上」
ベッドの上の王太子が陛下に愚痴っていた
「でも、その不味い茶で調子が良くなっているでしょ王太子殿下」
「だから私の事はカーマインと呼べと言っているだろう、敬語も要らん命の恩人殿」
「いや、さすがに陛下の前ではまずいでしょ」
「本人がいいと言っているなら余は構わん、ただ公的なとこではしっかりするように」
「だそうだ、エルフィン」
「了解したよ、カーマイン」
そう言って王太子もといカーマインは上機嫌である
「エルフィンよ、余の方からも頼むカーマインと仲良くしてやってくれ、身分の事もあり友人が少ないからな」
「はい、かしこまりました」
カーマインには聞こえないように小声で伝えてくる
「何を喋ってるんだ?」
「さっそくお茶を飲んでもらおうと」
「そのお茶…味はどうにかならんのか?」
「なりません」
「諦めるな、お前の知識で味を良くしよう」
「良薬口に苦し、この苦いのが身体にいいんだ。前にも言ったろ?聖なる葉の成分を残した状態で乾燥させ純水につけてお茶にする事で吸収しやすくしているんだ、苦いのがカーマインの身体の毒を中和してるんだからな」
「わかってるけどさぁ」
「カーマインよ、観念してお茶を飲むしかないな」
「父上も飲んだら分かりますよ」
「陛下も飲みますか?体内の老廃物も取ってくれるので健康にもいいんですよ」
そう言って陛下にお茶を勧める
「うっ、やぶ蛇だったか!」
「さぁ父上もどうぞ」
カーマインが意地の悪そうな顔をしている
「仕方ない」
手渡されたお茶を陛下が飲む
「こ、これは!」
「どうですか?父上」
ニヤニヤと陛下に問いかける
「意外と悪くない!」
「マジですか!」
予想外の言葉にカーマインはガックリきている
「宰相もどうだ?」
「では私も頂戴します」
宰相さんにもお茶を渡す
「確かにこれで健康に繋がるならいいかもしれませんね」
「そうであろう」
陛下も宰相さんも気に入ったようだ
「グラント、近場に薬草園でも作るか?」
「そうしますか、医師団長にも相談してみましょう」
なんか別の方向にすごい事になってきた
「どうするんだよカーマイン」
「私は知らん」
実際、薬草園ができたら治療に役立つしいいんだけど…
とりあえず今日の分の薬湯をカーマインに飲ませて部屋に戻る
「エル様お帰りなさい!」
「ただいまクイナ、なんか大変だった」
カーマインの部屋でのやり取りをクイナに話すと、あははって笑ってた
そしてさらに三日経つ頃にはカーマインもベッドから起き上がれるようになっていた
「筋力が落ちてるからあまり無理するなよ」
「わかってるよ!だからお前のいる時にやってるんだろ」
今日は、長い期間のベッド生活で落ちた体力と筋力を取り戻すための運動をしていて俺とクイナはお目付け兼指導の為にカーマインの部屋に来ていた
「一度落ちた体力と筋力はなかなか戻らないから焦ってやる必要は無いからな怪我をする元だし、と言う理由で一旦休憩」
カーマインがベッドの横の椅子に腰掛ける
「身体全体が重たい感じがするな、戻すのに時間がかかるな」
「半月ぐらい頑張れば日常生活は普通に過ごせるぐらいにはなると思うぞ」
そこにクイナが飲み物を持ってくる
「どうぞ殿下、エル様」
「ありがとうクイナ」
「おお、すまん」
もらった飲み物を一口飲む
「エルフィンはいいな、こんな気の利く美人な助手がいて」
「やらんぞ!」
「お前はクイナの事になると怖ぇぞ」
そして二人で笑い出す、クイナもクスクスと笑ってた
そんな時扉がノックされる、カーマインが許可を出すと
「カーマイン体調は大丈夫?」
「母上!」
入って来たのは王妃様だった
「あら、エルフィンくんにクイナちゃん来てたのね!」
「失礼しています王妃様」
「もう私の事はマーガレットって呼んでもいいのよ?」
「いえ、さすがに陛下に怒られます」
怒られるだけで済めばいいが……最悪不敬罪になるかも
「それならしょうがないわね」
「母上、今日はどうしたのですか?」
「ちょっと様子を見に来ただけよ、あなたの仕事は私が処理しているからゆっくり休みなさい、ちゃんとエルフィンくんの言う事聞くのよ!」
「分かりました母上」
「うん、いい返事。エルフィンくんクイナちゃんあとよろしくね」
「はい、かしこまりました」
バイバーイと言って部屋を出ていった
「にしても王妃様って美魔女だよな」
「なんだよ美魔女って?」
「いやいや40才こえているのにあの外見はすごいだろ」
そう王妃様はすでに40才前半の年齢なのに外見はどう見ても20才ぐらいにしか見えないのだ、カーマインと並べたら姉と弟にしか見えない
初めて会った時も最初カーマインのお姉さんですかと聞いてしまった程だ
「そういえば父上も20歳から外見が変わらないと前に言っていたな」
「すげぇなおい!」
まぁこんな感じでカーマインの治療とリハビリに付き合いだして10日目の事、いつもの様にカーマインの部屋でリハビリをしていると陛下に宰相、医師団長、ワールさんがやって来た
「今日は皆さん勢揃いでどうしたんですか?」
「うむ、今回の王太子暗殺未遂の全容がわかってきたのでエルフィンとカーマインにも聞いてもらおうと思ってな、では宰相」
「はい、以前エルフィン殿の助言で盗賊団の根城を捜索したところ森の奥で発見しました。そして貴族との取引を記した証書が見つかりました」
「そんなものよくありましたね」
「おそらく盗賊団が何か困った時の脅しに使えると思ったのでしょう」
「なるほど」
「これにより王太子暗殺の主犯格である貴族を特定し捕縛いたしました」
「暗殺の動機は何だったんですか?」
「王太子を亡き者にした後、残された姫様と派閥の者を結婚させ王国を乗っ取るのが目的だったようです」
「姫?」
「私の妹だ、今は貴族の女子として水龍様の神殿で務めを果たしている」
なんでもこの国の貴族は13才を迎えると男子は王城で女子は神殿で修練を三年間行うらしく精神的に肉体的と貴族として恥ずかしくない教養を受けるのだそうだ
「今回関わった貴族は全員反逆罪で捕縛いたしました」
「捕縛したらその後どうなるんです?」
「細かい部分を聞いたら爵位は剥奪、お家取り潰し、主だった者は皆極刑になります」
次期国王である王太子を暗殺しようとしたんだから当然か、そういえば
「実際にカーマインに毒を飲ませてた者は?確か医師団の人でしたよね?」
すると医師団長が前に出て
「はい、医師団でも優秀な女医でした」
「そんな人がなんでまた」
「どうやら家族を人質に取られていたようです。彼女の旦那と娘を殺すと脅されて仕方なく犯行に及んだとのことです」
「その人は今は?」
「地下の牢に入っています。私はいまだに信じられません、彼女は1番王太子を救おうとしていたので、毒を盛りながらも救いを求めていたのでしょう」
そこで大人しく聞いていたカーマインが口を開く
「その家族は無事だったのか?」
「貴族の地下室に閉じ込められていたのを無事に保護しました。多少衰弱していましたが大丈夫です」
「旦那と娘は普段何をしているのだ?」
「旦那さんは王城の兵士食堂で料理を作っていて味は評判が良いそうです。娘さんは現在医学院で勉強する学生で優秀な生徒との事です」
「私に毒を使い始めた時期を考えるとかなり前に拉致されていたのではないか?」
「どちらも病気という事で休んでいたそうです。」
そこまで聞いていたカーマインが静かに考え込む。そして
「父上、私の暗殺の事はどこまで広まっているのですか」
「ここにいる者を除けば上層部と医師団のみだ、他には病気という事になっておる」
「女医の処罰は決まっているのですか?」
すると宰相さんが
「家族を人質されていても王太子殿下に毒を飲ませてたのは間違いないので普通なら死刑ですね」
「つまりまだ確定してないと?」
「はい、まだ審議中です」
「父上、その判決は私が決めてもよろしいですか?」
「被害を受けたのはカーマインだ、好きにしなさい」
「ありがとうございます」
そう言うと宰相さんに問題の女医をここに連れて来るように指示すると宰相さんは部屋から出ていった、そしてしばらくすると
「失礼します、殿下連れてまいりました」
後ろ手にされ手を縛られた女性が近衛兵に連れられて入ってくる、そしてカーマインの前に両膝を床に付けさせられた状態で座らされる
「お前が私に毒を盛ったものか?」
「はい、私が殿下の水差しに毒を混ぜました」
「お前は何をしでかしたのか理解しているのか?」
すると女医は頭を床につけ
「罪は毒を混ぜた私にあります!夫と娘は人質にされただけなのです!罰は全て私が受けます、どうか家族にはお慈悲をお願い致します!」
必死に頭を床につけ懇願している
「宰相、この場合どのような罰を受けるのだ?」
「たとえ家族を人質されていてもこの国の次期国王である王太子に毒を飲ませたのは重罪になります、一族全てに責任がございます」
「という事だ」
それを聞いた女医さんは泣き崩れてしまった。
可哀想な気はするが俺が口出ししていい事ではないので黙って成り行きを見守る。クイナも悲しそうな顔をしていたがどうしようもない
「それでは処罰を言い渡す」
カーマインが女医の前に立つ
「まずお前の娘、医学院を卒業後医師団長の弟子となりこの国のトップクラスの医師になってもらう!」
「………え?」
女医さんは訳が分からない感じになっている
「続いて夫、これからも兵士食堂にて兵士が満足いく料理を作り、やる気を出させること」
女医さんの混乱をよそにカーマインは続ける
「そして一番罪の重いお前はエルフィンよりもたらされた知識を全て覚え医師を目指す者達の模範となりこの国に生涯貢献する事」
「ですがそれでは私のしでかした罪の罰には……」
「宰相!このままこの者達を極刑にしたらどうなる?」
女医さんが困惑しながらの問いかけに対し、それを遮りカーマインが続ける
「夫と娘を処罰した場合その処罰の原因を調べ出す者が出るでしょう。対外的に王太子は病気という事になっていますがこれが毒による暗殺未遂であったとなると王家の威信に関わります」
宰相さんがもっともらしいことを言っている、俺にはカーマインに合わせているようにも見えるが…
「わかったか!お前達家族を処罰すると王家のマイナスになる、かと言って無罪という訳にもいかん!よって死んで楽になるより生きて生涯王家に尽くしてもらうゆえ覚悟するがよい!」
女医さんは再び泣き出した、そして宰相さんが近衛兵に合図を出すと手を縛っていた縄を解く
「私達家族は生涯王国のため、王家のために身を粉にして尽くさせて頂きます」
女医さんはそのまま平服して忠誠を誓っていた。その後、近衛兵に連れられて部屋を出ていった
「おい…エルフィン、何笑いを堪えた顔してんだよ…」
全てが終わった部屋で俺は必死に笑いを堪えていた
「いや、だってお前…自分を殺そうとしていた相手に…ぷッ」
「うるせえ!自分の家族より王族を取るやつなど信用できるか!」
確かに身内の事より利益を得る方を取る者はいつ裏切るか分からない
「だからって、ぷッあははっ」
「いいんだよ!甘いのはわかってる!でもこれが私なんだよ!」
甘い、大甘だ!だが嫌いじゃない、むしろ気にいった!
「いいんじゃねえの、それでカーマインが墓穴をほったら俺が助けてやるよ」
「言ったなエルフィン!こき使ってやる」
「おう!その度に大笑いしてやる!」
俺とカーマインのやり取りを陛下や宰相さん達が微笑ましく眺めていた
そしてさらに数日たちカーマインも自由に動けるようになったある日、陛下に呼ばれたのでメイドさんの案内で陛下の執務室にクイナと訪れる
「おお、来たかエルフィンにクイナ。まぁ座りなさい」
そこにはカーマインを初めとしたいつものメンバー、宰相さんに医師団長さんそしてワールさんがいた
「急に呼び出してすまんな、今回の件も一段落しカーマインの体調も良くなったのでな、そろそろお主の褒美関して話そうと思ってな」
「俺はただお世話になっているワールさんの頼みでやったので気にしなくていいですよ」
「そうであっても治したのはエルフィンなのだから褒美をやらん訳にはいかんのだよ。仮にも王太子の命を救ったのだからな」
う〜ん、まぁ貰えるものは貰っとくか
「とりあえず今回の件は対外的に王太子は病気だった事になっている、暗殺未遂の事は伏せておかねばならないがここにギルドマスター宛の手紙を書いておる、この件はワールからお主への依頼という事にしてあるのでこれを持っていけば実績とみなされランクの昇格ができるだろう」
ランクが上がるのは助かるな、というか俺まだまともに依頼やってない気がするんだけど
「それとは別に何か望みはあるか?なんなら貴族にしてやる事もできるが」
「ランクの昇格だけでもいいですけど」
「これは長い事王城に拘束してしまった詫びだ、何か欲しい物があれば言ってみよ」
急に言われてもな〜欲しい物…欲しい物っと考えているとふとクイナと目が合う。そうだ!
「だったら家が欲しいです。錬金術の設備がある家」
「ふむ、家か」
陛下が少し思案すると
「そういえばちょうどいいのがあったな、確かあの家は医師団長が管理していたな?」
「はい、私の方で管理しております」
「あの家?」
「ああ!そこそこ大きい家でな錬金術の設備もあり部屋も複数ある。その家をお主にやろう」
「いいんですか?ありがとうございます!」
「構わんよ、ただ建物自体は保存魔法が付与されているが中の家具は古くなっているだろうからワールに言って新しい物にして貰え、代金はこちらが負担する。それと当面の生活費も渡すゆえ住みやすいようにしなさい」
「何から何までありがとうございます」
「礼を言うのはこちらの方だ、息子を助けてくれてありがとう」
「私からも改めて礼を言う困った時はなんでも言ってくれエルフィン」
陛下とカーマインが頭を下げてきてさすがに俺も慌てる
「そんな!頭を上げてください!俺みたいな一般人に王族が頭下げちゃダメですって!」
「かまわん、ここは非公式の場じゃ、家族を救われた感謝は伝えねばならん」
「わかりました。また何かありましたら言ってください。できる限りお力になります」
「ああその時は頼む」
そう言って陛下とカーマイン二人と握手をした
その後、今後の予定を話し合い二日後に頂いた家に行くことになった
とりあえず寝床は欲しいのでワールさんにベッドを二つほど手配して貰い残りは実際に家を見て決める事となった
「そういえばエルフィン殿」
「なんですかワールさん?」
「以前教えていただいた髪を洗う石鹸ですが」
「あぁシャンプーとリンスですか」
「はい、それです。とりあえず特許を取りまして販売したところ大人気商品となりましてこの分の印税も新居への移住の時にお渡ししますので」
「あれか!王妃もかなり気に入っておったな」
「私の妻も髪がサラサラになったと喜んでおりました」
ワールさんの話に陛下と宰相さんが参戦してくる。
どこの世界もこの手の商品は女性に人気だね〜
元々はクイナのサラサラヘアーを見た王妃様がどうしたらそんな髪になるの?と言い出したのが始まりでワールさんに材料と作り方を教えて作って貰い王妃さんに渡した、そして王妃さんが絶賛したのを見たワールさんが売ってみてはどうですかと言うのでワールさんにお任せしていた
「わかりました。ではその時に受け取ります」
家具とかは揃えてくれるらしいけど、錬金術の材料は自分で買わないと、さすがに全部お世話になるわけにはいかない
まぁこんな話をしていたらあっという間に二日が過ぎた…
「皆さんお世話になりました」
陛下やカーマイン、宰相さんに挨拶をして最後に知識交換した医師達がいる部屋に来ていた
「こちらこそ大変有意義な時間でした、ありがとうございます」
医師団長のマリアロスさんが代表して挨拶してくれる
「何かお手伝いできる事があったら言ってくださいっと言ってもエルフィンさんの方が知識が凄いですが」
「そんなことないですよ、医療魔法具とか俺では発想できなかった物とかありましたしできたらまた知識交換したいです」
「こちらこそお願いしたいです。またしましょう」
マリアロスさんと握手した後、ワールさんが待っている広場まで向かう。
広場には馬車がいてすぐ近くにワールさんともう一人いた
「カーマインも来てたのか」
「あぁ、まぁな」
なんか端切れが悪いなと思っていると
「エルフィン、改めて助けてくれてありがとう」
「…変な物でも食べたか?」
「違うわい!」
「ナイスツッコミ!」
「ったく!生活に困ったらいつでも言ってこい、私の側近にしてやる」
「はは、俺みたいなのを側近にしたらカーマインが大変だぞ」
「それはそれで退屈しなさそうだ」
そう言いながらカーマインが拳を突き出してくる
「またな…」
その拳に俺もコツンっと拳を当て
「あぁまた会おう」
そう言った後、馬車に乗り込む。クイナもカーマインに一礼してから乗り込む
「いつでも来てくれ!お前なら大歓迎だ!」
「おう!じゃぁな!」
カーマインと別れ、これから住むことになる住処へと向かう。そこは以前来た生産通りの道から湖方面に入って行った所にあった。あったんだけど…
「デカっ!」「ふぁ〜」
予想よりも遥かに大きい家だった。俺もクイナも驚きびっくりしていた
「実はですね、こちらの家はミハエル様達がお住まいになっていた家になります」
「じいちゃん達が!」
びっくりお代わり追加である
「はい、王都にいる時に生活されていた家がこちらになります」
だから医師団長さんが管理していたのか
「こちらが家の鍵になります、これも魔法具になっています」
予備を含めてふたつあるらしい鍵を受け取り家の中に入る
「こちら側は錬金術で作った物を売れる様に小さめのお店の様になっています」
さらに中に入って行くと工房のような場所になる
「こちらは錬金術の作業場になっていて周りの壁は強化魔法が付与されています」
そうなんだよ錬金術ってたまに失敗すると爆発するから大変なんだよあの大人気ゲームの様に。
そしてリビングルームやキッチンがあり、なんとここにはお風呂場が完備されていた
「お風呂があるんですね」
「はい、ただ温かい湯に入る為には一度水を熱してから入れないといけないのでかなり時間がかかります」
「あぁそれなら大丈夫ですよ」
そう言ってアイテム鞄から少し大きめの桶、鉄と魔石の粉末を合わせたパイプを取り出す
「エルフィン殿それはなんですか?」
「これをですね…」
近くにあった台を持ってきてその上に桶を置く、側面に空いている穴にパイプをセットし出口を風呂桶に向けておく
「これでよし!まずパイプのコルクをオンにして台の上の桶に水を流すと」
水魔法で桶に水を入れていくするとパイプを通して風呂桶に流れていく
風呂桶からは湯気が出始める
「これは水がお湯になっているのですか!」
「えぇそうです、このパイプには加熱と劣化防止の付与がされていてここを水が通ると温められて出てきます。クイナこれでいつでもお風呂に入れるよ!」
クイナはヤッターと喜んでいた、そしてワールさんは
「エルフィン殿!」
「はい!」
「これも商品にして売りましょう!是非とも私に任せて下さい!」
あかん、ワールさん完全に商売人の目になっている…
結局圧に負けてワールさんに任せることにした、次に二階に上がる
「二階は主に寝室や書庫になっております」
「結構部屋がありますね」
ざっと見ただけで7つ部屋がある
「今ほど医療体制が充実してない頃、動かせない患者を寝かせる病室に使っていたそうです」
そのうちの一つの部屋に入る、確かに病院の個室ぐらいの広さはあるかな
「それじゃぁ俺は階段に近いこの部屋にするかな、クイナも好きな部屋を選んでいいよ」
「でしたらエル様の隣の部屋がいいです」
「うん、いいよ」
「やったぁっありがとうございます!」
一応クイナの部屋も見てみる
「大体同じ間取りですね」
「はい、なんでもミハエル様が部屋に差をつけるのがあまり好きではなかったらしく」
「あぁ確かにじいちゃんらしいや」
じいちゃんの事を思い出し思わず苦笑する
「とりあえず何がいるかな?ベッドは頼んだし、服を入れる衣装棚と机と椅子とかか?あとはなんだろ、クイナなんか欲しいものある?」
クイナは少し考えた後
「エル様、私、料理道具が欲しいです!故郷ではいつも作っていたのでまた作りたいです」
「クイナの手料理か〜それは楽しみだ!だったら明日見に行こう、実際に見て選んだ方がいいだろ?」
「はい!お願いします!」
そして一階のリビングルームに行きひとまず要りそうな家具を紙に書いてワールさんに渡す
「これでしたら今日中に用意できますね。ではさっそく手配しましょう。そうそうエルフィン殿こちら陛下から預かっていた報酬です」
そう言ってワールさんが持っているアイテム鞄から袋を取り出し机に置く
「どうぞご確認ください」
袋の紐を解き中を確認する、クイナも興味があるのか覗く…すると
「わぁ〜おっ!金キラ」「ひぁ〜〜」
俺もクイナも中身を見て思わず固まる
「じゃなくてっ!ワールさんこれいくら入ってるんですか!?」
「確か大金貨百枚だったはずです」
「は?」
大金貨1枚が100万円位だから………1億円!!!
「これ多くないですか!」
「そんなことないと思いますよ、エルフィン殿は次期国王の王太子の命を助けたのですから妥当な報酬だと思いますよ」
「それにしても百枚って……」
「…まぁおそらく今回の件の口止め料と先行投資も含まれていると思いますよ」
「口止め料と先行投資?」
「はい、まず今回の王太子の事は知っているのはごく一部ですので言いふらさないでねというのとエルフィン殿の医療知識と魔法具の開発などが進めば王国の発展にもなりますから」
「あぁなるほどね、このお金でまたいい物作ってという事ね」
「そんな感じだと思いますよ?ただ単にお礼の割合の方が多いでしょうけど」
これは深く考えない方がいいかな…あって困るものではないし…
「でっこちらがシャンプーとリンスの印税による代金です」
ワールさんが追加で袋をだす
「ちなみにいくら入ってます?」
「大金貨50枚ほどです」
プラスで5000万円追加されました…もう宝くじが当たったと思おう
「というか大金貨なんてそうそう使えないですよ!」
「そう言われると思いまして大金貨5枚分程金貨と銀貨に分けて持ってきています」
さすがワールさん、ちょっとした買い物で大金貨なんて出したら大騒ぎになる
「では私はご注文頂いた家具を揃えてきますね」
「お願いします、俺たちはその間に中を掃除しときます」
「わかりました、そうそうここの庭も素晴らしいので是非見てください」
そう告げてからワールさんは家から出ていった、気になったのでクイナと一緒に庭に行ってみる、そこには
「すごい景色!」
「エル様!とてもいい眺めです!」
家の裏手は庭になっていて王国が誇る湖が一望でき遠目に湖の中央にある神殿も見ることが出来た
「ここからだと城もよく見えるな」
「はい!とても綺麗です」
じいちゃん達むちゃくちゃいい位置に家を建てたな…俺もこの家貰ってよかった
「よ〜し!クイナ、住みやすくするために掃除しようか!」
「はい!家の中も綺麗にしちゃいましょう!」
家には保存魔法が付与されているがそれでもホコリは溜まる、なので窓を開け空気を入れ替え箒で履いて雑巾で拭いて綺麗にしていく
お昼頃にワールさんが戻ってきた
「お疲れ様ですエルフィン殿、ひとまず以前言われたベッドをパーツに分けて持ってきていますので部屋で組み立てさせていただきますね。あとこれをどうぞ」
ワールさんが大きめのカゴを机に置く
「昼食がまだでしょうからこちらをお食べ下さい。前にお泊まりいただいた宿の料理人に作らせました。」
中には色んな具材の入ったサンドイッチがあった
「うわぁ美味しそう!ありがとうございます、いだたきます!クイナも一緒に食べよう」
「はい!エル様、とっても美味しそうです!」
クイナはサンドイッチを見て目をキラキラさせていた
「それでは作業の方に取り掛からせますね、残りの家具も随時届きますので位置だけ言っていただければあとは職人がやりますから」
「はい、わかりました」
「私はこの後別の仕事がありますので失礼します、何かありましたら遠慮なく言ってください」
「ありがとうございました、ワールさん」
ワールさんは軽く会釈して帰って行った、その後ワールさんが言ったように頼んだ家具が届き夕方頃には全て設置することが出来た
「どうにか部屋らしくなったかな?あとは小物類を揃えて、料理器具も買わないとね」
「エル様に喜んでいただける料理を頑張って作ります」
「あぁ楽しみにしているよ」
クイナが気合いの入った顔になっている
「楽しみは明日に取っとくことにして夕飯は外に食べに行こうか」
ワールさんに紹介してもらった食堂で今日の夕食を済ますことにした
食堂に向かう道中のこと
「おい!もしかしてエルフィンか?」
呼ばれたので声のした方に振り向く、この声は確か
「ガラムさん?」
「おお!覚えててくれたか」
以前熱中症を治したの鍛冶屋の親方、ドワーフのガラムさんと奥さんでエルフのフリスさんが立っていた
「ずっと姿が見えんから別の街に行ったのかと思ったぞ」
「ちょっと期間の長い依頼を受けましてそれをこなしていました」
「なるほどそれでか!んで今日はどうした?こんな日が落ちてから二人でどっか行くのか?」
「今日この近くに引っ越して来たんですけどまだ料理器具を買ってないのでこれから夕食を食べに行くところです、この先に美味しい料理を出す食堂があると聞いたので」
「おおそうか!俺達も今そこで食べて来たとこだ、それにしてもこの近くに家があるって事はご近所さんになるのか」
「親方さんの家もこの近くなんですか?」
「すぐそこだ、よし!引っ越し祝いに包丁を2、3種類作ってやるからまた店に顔出しにこい」
「本当ですか!ありがとうございます、よかったなクイナ、いい包丁が手に入るぞ」
「はい、今から使うのが楽しみです」
親方と話しているとフリスさんがお願いをしてきた
「エルフィンくんお願いがあるんだけど来た時でいいからこの間の野菜にかける調味料の作り方を教えてくれる?あれをかけるとこの人でも野菜を食べてくれるから助かるのよ」
調味料ってドレッシングの事だな、この様子だと効果あったみたいだな
「いいですよ、作り方は材料さえ揃えば簡単ですので教えます」
「えぇありがとう、よろしくね」
「あれをかけたら食えたな、特に辛い方はうま……食えてな」
そのやり取りに笑いながら明日店に訪れる約束をし親方さん達と別れ食堂に食べに行き美味しい料理に舌ずつみして家に帰った
「あの食堂美味かったな」
「とても美味しかったです」
「また食べに行こうか」
クイナとまた一緒に食べに行くのを約束し明日の予定を確認する
「明日はまず親方の所に顔を出して包丁を頼むのとギルドマスターに陛下の手紙を渡しに行く、それと料理器具などの買い物に食料品かな?」
「明日も忙しくなりそうですね」
「数日は大変だと思うけど許してね」
「いえ!そんな!獣人は体力がありますから大丈夫です!」
「うん、ありがとう」
その後、お風呂の湯を入れ掃除の汚れを落とした後、軽く荷物整理をして
「さて明日もやる事あるし今日は寝ようか」
「あっ」
「ん?どうしたクイナ?」
クイナが若干不安そうな顔をしている
「俺の能力で家を守っているから泥棒なんて入ったりしないよ?」
「その…、なんでもないです、お休みなさいエル様」
「?お休み、何かあったらいつでも部屋に来な、俺が寝ててもいいから」
「……はい、わかりました」
クイナは自分の部屋に入って行った、まぁ家に何かあったら能力がすぐ教えてくれるし、クイナにもかけてるからすぐに駆けつけられる
にしても元気なかったけどどうした?さっきまであんなに機嫌良かったのに
俺も自分の部屋に入った、ただすぐに寝る事はしないで明日買っとく必要があるものを紙に書いていた
「俺が起きてるとクイナもずっと起きてるからなぁ…」
王城の時も俺が薬を夜遅くまで作っている時も眠いの我慢して起きてたもんな…作業を始めて30分ぐらいたった頃だった
「……?なんだ?何か聞こえる」
何か聞こえてきた…俺の固有能力は反応してないから泥棒ではない、風か?音の聞こえる方へ耳を澄ますと
「クイナの部屋か?」
クイナの部屋に耳を澄ますと呻き声のような音が聞こえる
急いでクイナの部屋の前に行き問いかける
「クイナ?呻き声みたいなのが聞こえるが大丈夫か?」
クイナからの反応がない
「おい!クイナ?」
返事はない
「クイナ!入るぞ!」
何かあったのかと部屋に入る、するとクイナはベッドの上で寝ている、だがその表情は苦悶を浮かべ|額には汗を浮かべている
「クイナ!クイナ!!」
左手でクイナの頬に触れ右手で肩を叩く
「……う、………エル様?」
「あぁ俺だ」
「……あれ……私……森に?」
「ここは俺たちの家だ、君がうなされてたから心配で来たんだよ」
クイナがゆっくり上半身を起こす、俺は机にある魔法具のランプを発動させ灯りをつける
「大丈夫か?って汗びっしょりじゃないか!」
灯りをつけて気づいたが汗で服が透けて見える、普段なら色っぽいと思うだろうがさすがに心配だ、収納スキルからタオルを取り出し
「とりあえず汗を拭いて着替えな、その間に飲み物を持ってくるから」
「いえ、大丈夫です」
「全然大丈夫じゃない!そのままだと風邪ひくぞ!今は言う事を聞いて」
「……はい」
声を強めてしまったがこればっかりは俺も引けない、クイナはシュンっとしてしまったがクイナの体調の方が大事なので言う事を聞いてもらう
俺は部屋を出て調理場に行きじいちゃんに作っていた特製フルーツジュースを作ってやる栄養があるし美味しいしとても身体にいいから、フルーツジュースを持って部屋に戻るとクイナは着替えを終えてベッドに座っていた
「大丈夫か?」
そう言いながらジュースを手渡す
「はい、すみませんご迷惑をおかけして」
「迷惑なんて思ってないよ、それ飲んで落ち着きな」
クイナは申し訳わけなさそうにしながらジュースを飲む
「……美味しい…」
クイナの表情が緩む
「それは良かった、それでどうしたんだい?だいぶうなされていたが?」
クイナが下を向き
「夢を見ていました」
「夢?」
「はい、故郷の村の事そしてその後の魔物氾濫を…」
思い出すようにクイナが語る
「エル様とお会いしてからは近くにエル様がいたので見なかったのですが今日1人で寝るのを考えたら不安になって…それでも頑張って部屋に入って寝たのですが…」
ジュースを一口飲む…がその手は少し震えている
「夢の中であの日の事…魔物に追われ森の中に逃げたけど炎が迫って来て必死に逃げたけど火に巻かれて…熱くて痛くて…正直その後のことはほとんど覚えていません。気づいたら奴隷になっていて…でも火傷の痕で買い手がつかず処分寸前でワール様に引き取られました」
残っていたジュースを飲み干しコップを机に置く、だがその手はまだ震えている、その手にそっと手を添える
「全てを諦めて死ぬのを待つだけと思っていた私の前にエル様は来てくれました」
俺が添えていた手を握り返し顔を見つめてくる
「…私、エル様が好きです!」
いきなりの告白にびっくりしたがクイナは真剣そのもの
「エル様は誰も治せなかった火傷を治してくれました。エル様の奴隷になっても奴隷の扱いではなく普通に接して頂きました。エル様に優しくしてもらい毎日が楽しくて生きる気力で出てきました」
そこまで言ってまた顔が下がる
「でも今日暗い部屋で1人になったらあの頃を思い出して凄く不安になって…」
沈んだ顔のクイナの頭に手を持っていき優しくなでる、その瞬間クイナが俺の胸に抱きついてくる。そして潤んだ瞳で見上げてくる
「私はあなたの傍にいたい!たとえ一生奴隷でもあなたに他の女の人ができても……一緒にいたいです!だから……」
俺を見つめたまま
「……だから私の身も心もあなたの物にしてください!」
そう言ったクイナの頬に優しく触れ
「俺でいいのか?」
「エル様がいいんです」
目を細めたクイナに優しくキスをする、頬を一筋の涙が流れ落ちそしてお互いの体温を確かめるように触れ合い夜は静かに過ぎていった




