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9話 入国


 しばらくして、二人は目的地までたどり着いた。


 門をくぐり城下町に着いた二人は、同時に口を開けたままその光景を凝視する。

 端から端まで、一見しただけでは情報の処理が追い付かない程の壮大な規模の町並みに溢れ返る人の波。二人にとっては、まるでゲーム世界の国に来たような感覚であった。


 空はすでに日が落ち始め、薄暗くなる景色と共に、町中にいくつもの外灯が点灯し始める。

 この世界に電気を動力源にする技術は広まっておらず、町中に建つ柱の天辺から発せられる明かりは蛍光灯などではなく、自然界にある炎のマナを原料にし、ガラス細工の中で延々と燃ゆる灯火だった。

 暗がりになる街並み。それでも人々の足は途絶える事無く辺りは変わらず賑わいを見せている。


「すごいねコマちゃん! なんか異国の地に足を踏み入れた感じ」


「実際異国だからな。けど、なんだ、確かにこう……幻想的な景色だよな。中世ヨーロッパの時代を彷彿させるような町並みっていうか。……見たことないけど」


「いやいや、これは古代ローマ帝国のような雰囲気でしょ。……実際知らないけど」


 お互いイメージだけの浅い知識で城下町を見た感想を述べ、それが妙に面白かった二人は何となしに笑い合う。


 無事人のいる場所へたどり着いた事で安堵していたのだった。

 通りすがる人々の声を耳にすると、パルカの【オートスペル】の影響によりしっかりと日本語に翻訳されて聞こえる事もあり、心にゆとりを持てている。


「日も沈んできた事だし、メヴィカを探すのは明日にして、今夜はこの町の宿屋に泊まろう」


「いえーい賛成! やっぱ冒険に宿屋は付き物だよね」


 お互い同意し、二人は町にある宿屋を探す。

 しかし、ここで二人はある問題を抱える事になる。









「ご宿泊ですね。お二人様で銀貨六枚になります」


 笑顔で対応する宿屋の娘とは逆に、コマチは苦い顔を浮かべていた。


 パルカから貰った補助金は銅貨十枚と銀貨十枚。

 宿泊自体は可能だが、今後の食費や明日以降の宿泊金はなくなる。

 コマチはぎこちない笑顔を浮かべて「やっぱりもうちょっと考えます」とやんわり断り速やかに店を出た。


「ちょっと高いな……」


「そう? ゲームとかでも大体あれくらいじゃない」


「どのゲームと比較してるのか知らないけど、ここは現実だ。今でも夢を見ているようだがな。そして現在金が手に入る予定もない俺達にとってあの値段は正直キツイ。とりあえずは他の宿屋も見てから決めよう」


 と、安全策に興じるコマチだが、他三軒を見て回るがどれも相場は似たり寄ったり。


 この世界の金銭感覚は二人に分かるはずもない。当然パルカが与えた補助金が元々多いか少ないかも分からないが、様々な援助をしてもらった以上パルカに文句は言えない。

 仕方なく宿を探す前に食事を取る事にした二人。









 あれから数刻町中を回り、コマチは思う。


「この国の物価高くね?」


 現在町の広場にある屋台にて休憩をとるコマチとメルだが、そこで注文した謎肉の串焼きと野菜を酢漬けにしたピクルスも合わせて銅貨四枚。思わずコマチは愚痴を漏らす。


「この串一本で銅貨二枚、ここの通貨の価値はよく分からないが、これをあと三本食べればサイフにある銅貨は消えるわけだ。……しかし美味いな。これなんの肉だろ」


 と、物価に対して疑問を抱くも、コマチは初異世界飯を素直に称賛する。


「うんうん、たしかにワイルドな串焼きはいかにも冒険家って感じで見てるだけでも満足するけど、悪玉コレステロール高そうだからアタシはこの漬物のほうがいいや」


 肉全般が苦手なメルは、コマチが食べる姿を見ながらピクルスをかじる。


「悪玉コレステロール気にする異世界転移者とか初めて聞いたぞ……」


 謎肉を食らいながらメルにツッコみを入れるコマチは、「それにしても」とため息を漏らした。


「このままだと明日は野宿になるかもな」


「まあ、その時はその時で、今夜は深く考えずフカフカベッドで寝ようよ」


 メルも一人の女の子である。

 コマチとしてはあまりメルに過酷な旅をしてほしくないと思っているが、メルの、多くを気にしない性格のおかげでいくらかコマチも気が楽になる。


 ――と。

 二人の話を聞いていた店の店主は陽気に二人の前に立ち、カウンター越しにぬっと上体を近づけてきた。


「なんだ兄ちゃん達、今日の宿代に困ってんのかい?」


 大柄な体躯をした店主は客商売をしている者らしい声の張った喋り方で話かける。


「ええ、まあ。手持ちが寂しいもんで」


 急に距離を詰めてくる店主に畏縮しながら、コマチは当たり障りない返事で返した。


「たしかに他の国と比べるとここはちぃとばかし値段が張るわな」


「あ、やっぱりそうなんですか。マスター、どこか安い宿知りません?」


 どう見てもマスターっぽくはないと自分で思いながらも、無難な返事で会話をするコマチ。


「一軒だけあるぜ。一人一泊銀貨一枚。それも食事付きだ」


「えっ! マジっすか!」


 思わず素の反応になる自分を制御しながら店主の話を食い気味で聞き入る。


(その安さなら一日の食費を考えても二人で最低三日は凌げるな)


 と、コマチのざっくり脳内家計簿が今後の生活費をはじき出すが、当然デメリットも付加される。


「ただそこはいわく付きでな。内装も古くないし寝具も食事もちゃんとしてるらしいんだがよ、どうもそこに泊まった客は寝る前よりも疲労した様子で帰る奴ばっかりなんだ。最近じゃあまり人も寄り付かねえって話だ。隣の嬢ちゃんはちゃんとした場所に泊まらせて、ここは兄ちゃんが身体を張って節約するってのはどうだい?」


 それを聞いたコマチは考え込む。


(確かに安いが……なんか胡散臭い所だよな。火のない所に煙は立たぬとか言うし、寝てる最中に何か起きたら嫌だ……だが確かに金入りがない状況なら節約しないといけない。メルを野宿させるわけにもいかないし……)


 そんな思考をくり広げていると、ピクルスをポリポリかじりながら話を聞いていたメルは何の気なしに呟く。


「なら、二人でそこに泊まればいいんじゃない?」


 メルのツイートに男二人は「えっ?」と喉から自然と声が漏れた。


「いやでも得体の知れない宿屋だぞ? 心霊現場とかかもしれないし」


「そうだぜ嬢ちゃん。言っちゃあなんだが宿屋から出てくる客は皆正気を失ったような奴らばかりなんだ。まだ若えのにそんな危ないとこに泊まるなんておっさん見過ごせねえよ」


「おい、じゃあなんで俺には薦めたんだよ?」


 不機嫌になるコマチをよそに、なおもポリポリピクルスをかじりながら返答する。


「アタシ、ホラー映画見ても全然平気だし、どんな場所でもぐっすり眠れるから」


「…………」


 コマチと店主は押し黙る。

 結局二人は合意の末、いわく付きの宿屋へ向かう事となった。





ご覧頂き有難うございます。

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