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8話 能力確認



 二人の前には広大な大平原が広がっていた。

 ここは商業が盛んな国、エルマラントの領地である。


 扉を閉めると、そこにはすでにパルカの屋敷は消え、大平原の一角にポツンと建つ小さなコテージがあるだけだった。

 この先は二人の知らない未開の地。

 コマチとメルはようやく旅のスタートを切ったのだった。


 自然豊かで広大な大地を目の当たりにし、ここに来てようやく日本ではなく、異世界へ来たのだと実感していた。


「見てコマちゃん、遠くにおっきいお城があるよ。アタシファンタジーものの映画で見た事ある!」


「ああ、嫌でも目に留まるよ。けど、こっからだと地味に距離があるな」


 目に見える距離とはいえ、徒歩だと城門まではなかなかに離れている。コマチはメルの足を気にしながら、先程メヴィカを目の前にして扉を閉めてしまった事を後悔する。


「あ~メル、悪い、少し歩くけどいいか?」


「なんで謝るの? せっかく見晴らしの良い景色だしゆっくり歩こうよ」


 しかしメルは気にするどころか、自分の足で未開の地を踏みしめる事に楽しみを覚えていた。

 そんなメルを見てコマチは少し気が楽になる。


「どうせならさ、お互いの能力を確認しながら行かない? ファンタジーものの世界には魔物が付き物じゃん。いざエンカウントしたときコマちゃんがどんな技が使えるのか知っておいたほうがいいと思うんだよね」


 なるほど、一理ある。と、コマチも同意し、城門まで続く地ならしされた道を歩きながら、自身の脳内に浮かび上がるスキルの名称と効果を確認していた。


「じゃあまず俺から」


 と、コマチは身に付けた覚えのないスキルを頭の記憶からほじくり返し、隣りを歩くメルに披露した。


「【インビジブル】」


 コマチがそう言い放つと、直後、コマチの姿が一瞬にしてその場から消えた。


「えっ、コマちゃん? どこ行ったの?」


 急に姿が見えなくなったコマチに驚き辺りをキョロキョロと見渡す。


『これは一定時間自分の姿を消すスキルだ』


 と、コマチの声だけがメルの隣りで存在を主張していた。


『鍛えれば数分透明化出来るらしいけど――』


 コマチが説明している途中、徐々にコマチの姿がぼんやり視界に浮かび上がり。


「今は頑張って二十秒くらいが限界だな」


 やがてメルの隣りには完全に元に戻ったコマチの姿が現れた。


「すごいじゃん! 敵に気づかれずに攻撃出来るとか無敵じゃん」


 メルは手品を見た子供のように、興奮気味にコマチに擦り寄る。


「だけどこのスキル、ゲームのルールみたいに制約があって、相手に敵意を持って攻撃したり、他のスキルを使うと時間に限らず強制的に透明化が解除されるらしい。だから一撃で仕留めるか、もしくは逃走用のスキルとして使うしかないな」


 結局の所、如何なる能力においてもデメリットのない便利スキルはないのだとコマチは認識する。


「いや、十分良スキルだって。……おっ? あれ?」


 その時、コマチのスキルを見たメルは脳内に新たな記憶が書き足される感覚に陥った。


「メル、どうした?」


「なんか、コマちゃんが使ったスキルの効果が頭の中でビャーって説明文みたいに書き記されるような……」


 メルは興奮しながら身振り手振りで今の状況を説明する。


「多分今のがアタシの【スキルコピー】ってやつだと思う。コマちゃん、どんどんスキルを使ってみて下され。そしてアタシにパクらせて下され」


「堂々とパクるのかよ。別にいいけどさ」


 渋々ながらも、メルの自己防衛手段が増えるならばと思い、コマチは現在使用出来るスキルを惜しみなく披露した。


「【バインドチェイン】」

「ふむふむ、手から魔法の鎖を出して相手を拘束するスキルか。補助系だね」


「【サーチ】」

「自身の感覚を研ぎ澄まし周囲の物体や生体反応を感知するスキルである、と」

「説明ご苦労さん」


 メルは頭に流れる文字のテロップを朗読しながら次々とコマチのスキルを吸収していった。


「なあ、もういいだろ。そろそろ魔力が限界……ん?」


 ふと、コマチは周囲から嫌な気配を感じる。

 コマチは【サーチ】の能力により、すぐ近くにモンスター反応を感知した。


 二人の目の前にある巨大な花から、コマチの視野にだけ観測出来る赤色に光るモンスター反応。

 コマチがじっと見ていると、突如その花はうねるように動き出した。


「うっ、キモっ! こいつ魔物だ」


 人間サイズ程あるその花は、種子の部分から生物のような大口をパクパクさせ、根っこにあたる無数のツタをウネウネ動かし二人にゆっくり近づいてくる。

 そしてひと際太めな二本のツルが触手のように伸び、今にも二人を捕らえようとするのだ。


 花の近くには他の動物と思われる骸が散乱していた。


「え、怖っ。完全に俺達を襲う気だよな……メル、俺におぶされ。全速力で逃げるそ……って、メル?」


 初の魔物を前に危機感を感じたコマチはその場を離れようと試みるが、メルは笑みを浮かべ魔物の眼前に立つ。


「ふっはっはっ、ちょうどチュートリアルイベントが発生した事だし、アタシの力を見せてやろうじゃないか」


「いや、お前、アレはヤバそうだからやめろって!」


 必死に止めようとするが、メルのどこからか来る自信によりコマチの願いは掻き消える。


「【インビジブル】」


 と、ここでコマチのスキルをコピーしたメルが姿を消し魔物に飛びかかるが。


「メル! 透けて見えてんぞ!」

「何っ!」


 完全に姿を消す事は出来ず、半透明の状態で接近した為、魔物はメルに標準を構え、太い触手でメルを地面へ叩きつけた。


「ぐえっ!」


「メル待ってろ! 今助ける!」


 攻撃を受けたメルに向かってコマチが走り出すが、メルは手の平を向け。


「手出しは無用! こいつはアタシが狩る!」


 勇敢なるセリフを吐きながら、メルは再びコピースキルを使用した。


「【バインドチェイン】」


 魔物に向かって掌を向けると、魔法で生成された鎖が放たれ目の前の魔物を雁字搦めにする。


「これで動けなくなったところを木刀で滅多打ちに……めった、打ち、あれ? なんか上手い具合に拘束されない……っていうか逆にアタシが触手に……拘束」


 しかし、鎖の締め付けが甘かったメルのスキルは容易く解かれ、反撃とばかりに魔物は二本の触手でメルを巻き付け、大口を開けたままメルを丸呑みにしようとしていた。


「なんでだよおおお!」


 叫びながら魔物に飲み込まれる直前、コマチは弓を構え、魔物に向かって狙撃した。


「【ペネトレイト・ショット】!」


 自身の魔力を矢に込めた一撃で魔物の頭部に風穴を空け、魔物はメルと共に地面に倒れた。


「メル、大丈夫か?」


 魔物が行動不能になった事を確認し、急いでメルの元へ駆け寄る。


「どこか怪我してないか? おい、立てる?」


「ううくううう……」


 怪我はないが、メルは下を向いたまま動かない。

 そして……。



「ああああ異世界チート出来ねええええええ!」



 地面に突っ伏し項垂れながら、悲壮感に駆られていた。


「…………とりあえず、町、行こっか。背中乗れよ」

「……うん」


 落ち込むメルをなだめながら、コマチはメルを背負い遠くに見える城門を目指した。





ご覧頂き有難うございます。

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