72話 エピローグ
その後、パルカは時のアーティファクトを使い、ヴィクスが世界を創造する少し前、メル達と出会った日まで世界を戻した。
その事実を知る者はごくわずか。
ほとんどの世界に生きる者は、ある場所で、全世界の命運を賭けた戦いを繰り広げていた事など知る由もない。
それぞれ自分の世界の、自分の帰るべき場所へ戻った後の事。
エルマラントに戻ったスティオラは、早急に国の安全性の改善を訴えた。
再び『強欲の巣』のような闇取引きをする連中から国民を守る為、国の自給率を上げ、警備を強化する方針を掲げる。
そんなスティオラを、メヴィカは薬屋を経営しながら影で支える。
すぐには無理である事は承知していた。
だがスティオラに迷いはない。兄と、兄の友人が夢見た平和を自分なりに近づける事こそが、先立った者への手向けであると考えていた。
自分が胸を張って生きれる、この上ない理由なのだから、と。
そんな二人と連絡を取り合うリルテスタもまた、竜人の国を守る為、エルマラントと協力し合い『強欲の巣』から逃げ延びた残党を追って、世界的脅威となるものを減らそうと動いている。
彼ら彼女らの世界は、今後どう変わってゆくのか。
その先の未来は、今を生きる者達によって大きく動くだろう。
場所は大きく変わり、コマチとメルのその後はというと……。
「コマちゃん! いよいよ来月プレ6の発売だよ。いや~もうマジでソフト何からやろうか決めかねますな~」
「お前来年から学校復帰するんだよな? マジで行く気ある?」
相変わらずといった様子で、最新家庭用ゲーム機の話で盛り上がるメルを心配するコマチの姿があった。
「まだ猶予はある。大丈夫だ、問題ない」
「お前それ、半年後も同じ事言い続けてそうで不安なんだけど……」
コマチとメルが戻った後、町の時計塔は崩れる以前の状態のまま建っていた。
一時的にあの場所は何もなくなっていた為、未だ騒ぎになっていないか近隣住民の反応が気になる二人であったが、特に驚いている人間はおらず、何事もなく過ごしている。
それは普通の人間には認識出来ない神の遺物、アーティファクトだからこそ。
周囲に自然と溶け込むように創られ、人もまたそれが当たり前のように認識する為。
この事実を知っているのは世界でも二人だけだった。
そして現在、メルのリハビリとして外に出歩く事に慣れる為町中を散歩していた。
「しかしコマちゃん、今夏休み中なのにアタシに構ってていいの? 友達とボウリング行ったりカラオケ行ったり、そういうパリピな休日過ごすのがマストなんじゃないの?」
「それがパリピの定義なのか知らんけど……一応来週友達と会う予定はあるさ。なんか他校の知り合いと合コン開くって話になってな」
「なにをおおおおおお!」
「なんだよ急に……なんで『マツバブレード零壱』鞘から出してんの?」
コマチの発言に、メルは無意識にメヴィカからもらった剣を抜いていた。
「合コンとかっ! なんでリア充みたいな行事に参加すんだよ! コマちゃんのくせに!」
「くせに……えっ、俺が行っちゃダメなもんなの? 皆でワイワイ遊ぶだけだろ」
「そうだけどっ! そう……だけど、いいよじゃあ行ってくればいいじゃん!」
「どっちだよ、とりあえず銃刀法違反で捕まるから刃をしまいな」
複雑な気持ちになるメルは、モヤモヤしながらも渋々剣を鞘に納めた。
そして。
「……ねえコマちゃん、疲れたからおんぶして」
「珍しいな、お前からせがむなんて」
言いながら、コマチはメルを背負いどこか休憩出来る場所を探す。
「この後どうする? 疲れてるようなら家帰るか? 暑いし」
しかしメルは首を横に振った。
「じゃあさ、合コンでワンチャン女ゲットした時の予行演習って事で、これから色々下見しに行こう……デート的な感じで」
しばし沈黙になる。メルの口からデートという言葉が出てくるとは想像していなかった。
「……まあいいけど。じゃあとりあえずカフェでも行く? 暑いし」
とにかく涼みたい気持ちが現れるコマチにメルは言った。
「ゲーセン行こう。デートっぽく」
「結局ゲームかよ! お前が言うとデート要素が限りなくゼロになるんだけど!」
それでも、コマチはメルの要望で近くのゲームセンターへ向かうのだった。
二人の関係は相変わらず、しかしわずかながら二人の距離は縮まった。
この世界で誰も知らない、二人だけが経験した冒険。
真新しく開放的で、常に全力で挑んだ日々がかけがえのない思い出となり、二人の間にあったしがらみを払った。
それは、この世界でたった二人だけの秘密。
百ある世界の片隅で、彼らの物語はこの先も紡がれてゆく。
再び場所は大きく変わり、とある屋敷の話。
ここは世界を繋ぐ空間。または世界の管理所。
古風な屋敷を彷彿させるこの空間には、番号で振り分けられた扉が幾つも連なっていた。
そしてその扉一つ一つが別の空間、いわゆる異世界へ繋がっている。
夢か幻か、神の領域に近しいこの場所へ来る者は極めて稀である。
この屋敷を管理する女性、パルカは途方もない時間をその屋敷の中で過ごしていた。
神に近い存在である彼女でも、永遠とも言える孤独は、たまに退屈と感じる事がある。
だからこそ、稀に現れる扉の向こう側の住人、その者達の物語を見る事が楽しみなのだ。
そしてまた一人、この屋敷へ足を踏み入れる者が現れる。
「あら、306号室からだわ」
パルカは足早にその者の元へ駆け付けた。
今回はどのような結末を迎えるのか。
秘かに期待を膨らませ、彼女は客人の元へ歩み寄る。
「いらっしゃいませ。世界の管理所へようこそ」
あわよくば、この者の最後は悔いの無い結末である事を願い。
「私はパルカ・ウルスラグナ。この屋敷の管理者でございます。どうぞお見知りおきを」
これは、幾多の世界を見続ける彼女の、ほんのひと時の暇つぶし。
ご覧頂き有難うございます。
今回で完結になります。本作をご覧になった方、そして今までブックマークして頂いた方には大変感謝しております。モチベーションの維持がはかどりました。
当初は50話くらいで完結させる予定でしたが、あれよあれよと書いてくうちに20話ほど長くなってしまいました……。
機会があればコマチとメルの冒険の続編を書きたいと思っておりますが、しばらくは温めておく事に致します。
今後の予定としては、一旦ファンタジーから逸れて、奇怪だけれどやや現実味のある、そんな物語を投稿しようと思います。
バトル要素、異世界要素を求めている方にはあまり向かないかもしれませんが、もし気が向いた時にでもご覧頂けると嬉しいです。
11月30日くらいに投稿予定ですので、もしでしたら【若取キエフ】のマイページから飛んで頂けたら大変喜びます。
改めまして、今までご覧頂き本当に有難うございます。




