71話 終わりの始まり
その後、全てのアーティファクトがパルカの元に集められた。
「確かに、全て確認致しました。後はこの、時を操るアーティファクト『クロノス』を使い世界を元に戻せば今回の件は全て丸く収まるはずです。皆様、この度は本当にお世話になりました」
パルカは深く頭を下げ、皆に労いと感謝を贈る。
そんな時、ヴィクスは彼女に告げた。
「一つだけいいか? 最後に頼みがある」
真っ直ぐパルカを見つめるヴィクスの目は、確固たる意志を訴えていた。
「何でしょう?」
「そのアーティファクトで、俺を過去に飛ばしてほしい。彼らのいる世界に」
ヴィクスはコマチとメルに視線を移した。
「コマチさんとメルさんの……。理由をお聞きしても?」
「時間軸を守る為、俺は彼らが別世界へ渡った日へ行く必要がある」
コマチとメルは互いに首を傾げる。
「えっと……なんでヴィクスが俺達の世界へ行く必要があるの?」
コマチの問いに、ヴィクスは無表情ながらに答えた。
「俺が『強欲の巣』以前に君達と会った記憶はない。しかしメル、君は言った。俺に一度助けられたと」
先程ヴィクスに言った事を思い出したメルは、「あっ」と、自然に声が漏れる。
「あの時アタシ達の前に現れたヴィクスって……」
「ああ、おそらくはこれから向かう俺だ」
ようやくコマチも合致した。あの時出会ったヴィクスは、未来から来たヴィクスなのだと。
「俺が撒いた種なのに、君達を巻き込んで本当にすまない。だが、こうしなければ世界が完全に修復されない。そうだろ? 世界の管理者」
ヴィクスはパルカに回答を仰ぐと、彼女は静かに頷いた。
後ろめたさが残るヴィクスに、メルは笑いながら返す。
「アタシ、あなたが導いてくれて良かったって思ってる」
ヴィクスは僅かながらに目を見開き、メルを見つめた。
「最終的に時間とか戻したりして全部丸く収まったとしても、ヴィクスのした事はきっと許されない。時空の歪みがどうこうってのはアタシには良く分からないけど、それによって多くの犠牲が出た事は事実だから」
「ああ、言い訳のしようもない」
「だけど、アタシにとってこの数日間はかけがえのない大切な時間だった。それだけは忘れたくないんだ」
「…………」
「アタシは幼い頃に事故で右足を負傷して、それ以来満足に歩けない体なの。で、他の人に嫉妬した事もあったし、周りに気を遣われるのも嫌だった」
メルは身の内を恥じる事なくさらけ出す。
「だから家に籠ってゲームばかりしてたら、同世代の女の子達と話しが合わなくなって、疎外されて、イジメられたりもしたわけだ」
横で聞いていたコマチは俯きながら、何も言わずメルの話しを聞いていた。
「本格的に学校へ行かなくなった辺りから、毎日思ってた。アタシがこの世界にいる意味ってなんだろうって」
来る日も来る日も、日を追うごとに思っていた、孤独。
抜け殻の自分。空っぽの自分。
分かっていても何も出来なかった、色の無い日常。
「そんな時にね、ヴィクスは言ったんだ。『君じゃなきゃダメなんだ。君達にしか出来ない事なんだ』って。……町が壊されて家族を失って、とうとう自分に何も残るものがなくなった時に言ったんだよ。あなたが」
「……俺が?」
それはメルにとって何より勇気が出た言葉。活力が溢れた言葉。
「こんなアタシでも、何か出来る事があるんだって……そう思えたから、アタシはあなたに出会えて良かった」
瞳を滲ませながら言うメルの言葉は、ヴィクスの胸に強く刺さった。
彼女の言葉を深く噛みしめたヴィクスは、そんなメルに新たな選択を提案する。
「……もし君が自分の世界に嫌気がさして虚無感に陥るようなら、別の世界で暮らす事も出来るんじゃないか? 君を必要とする世界はいくらでもあるだろう」
と、ヴィクスはパルカのほうに視線を移し。
パルカは微笑を浮かべゆっくり頷く。
「転生という事で処理すれば確かに可能です。何より世界を救った英雄ですから、それくらいの事でしたらなんなりと……ですが、メルさんはそれを望むでしょうか?」
パルカとヴィクスの言葉に内心コマチは同様していた。
(なんでこんな話になった? もしメルが異世界転生の話を承諾したらどうしよう、俺はどうすればいい? 一緒に行くか元の世界に戻るか……くそ、なんで急にこんな事に……)
パルカとメルを交互に見ながら、焦りを隠せないコマチ。
だが、メルの気持ちは変わらなかった。
「たしかに剣と魔法でファンタジーする世界も魅力溢れる……」
「えっ!」
自然とコマチは声が漏れる。
「だけど、やっぱりアタシは、アタシが生まれた世界で生きていきたい」
が、その言葉を聞いてコマチは安堵した。
「家族がいて、コマちゃんがいて、当たり前のように過ごす日常が好きだから。それに、来年から学校に復帰しなくちゃいけないし、将来の事も考えなきゃならんのよ。……だからアタシは自分の世界でいい」
パルカは分かっていたように「そうですか」と一言加え、ヴィクスも何も言わずただ頷いた。
過去へ向かうヴィクスの為に、パルカはアーティファクトを用いて即興で魔法陣を描く。
時を操るアーティファクトと、時空を操る魔法を駆使して、過去のコマチとメルがいる世界へ渡る門を作成する為に。
そして――。
「それではヴィクスさん。そろそろよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
そして、強大な時空転移の魔法陣は青白く輝き、ヴィクスを包む。
転移する直前、スティオラはヴィクスの元へ駆け寄った。
「兄さん……僕、兄さんの弟で良かったよ」
光に包まれながら、ヴィクスは瞳を閉じて。
「……ああ、元気でな」
それだけ言い残し、ヴィクスは彼方へと飛び立った。
向かう先はマナの存在しない世界。
つまり過去に行けば二度と戻っては来れない。
それは承知の上、ヴィクスは向かった。
そのままコマチとメルのいる世界で一生を終えるか、はたまた時間軸を正常に戻す過程で世界から抹消されるか……。
いずれにせよ、マナの存在しない世界でヴィクスは長くは生きられない。
それでも、不思議とヴィクスの心に迷いはなかった。
(シュシュ、アスト、ペストレシア、俺もすぐにそっちへ向かう。だから、もう少しだけ待っていてくれ)
旧友を思いながら、流れる時空に逆らい、かつてのコマチとメルの元へと向かった。
ご覧頂き有難うございます。
次回で最終話となります。宜しければ最後までお付き合い下さい。




