70話 消えゆく思念体
二人の間に流れる時間は緩やかで、風の抵抗を受けながら下へ落ちてゆく。
ボロボロの体を支え合い、重力に従い真っ直ぐに。
「コマちゃん……アタシ倒したよ」
「ああ、すごいよお前は」
互いに笑い合いながら、絵も言えぬ達成感を噛み締めて。
そんな二人の元に、治療が完了したリルテスタが近づき、翼をはためかせながら空中で優しく受け止めた。
「よくやったの、お前達」
「リル……」
そして三人は草木生い茂る大地へと着地した。
メルが振り返ると、遠目からゴーレムが徐々に粒子となって消えゆく姿。
その粒子に混じって、イズリスの思念体も宙を漂いながらパルカの元へ向かって行った。
「あの人……まだ戦うつもりなのかな?」
リルテスタは横に首を振った。
「あれはただの思念の塊。単体で何か出来るものではない」
と、メルの不安を払拭させながら、彼女はコマチを見つめ。
「お前、肩が外れておるな。遠心力に引っ張られながら二人分の身体を支えていたのじゃ。筋線維もいくつか切れておる」
無茶をするコマチに飽きれ笑いを浮かべた。
「咄嗟だったからつい……いててっ、気が緩んだ瞬間めっちゃ痛い!」
「痛っっっ! アタシもアバラやられてるの忘れてた……リル、助けて」
と、安堵した二人に襲う、酷使した体の代償。
軽く溜息を吐きながら、リルテスタはスティオラ達の元へ二人を運んだ。
皆の元へ戻ると、パルカとイズリスが皮肉混じりに最後の言葉を残し合う姿が。
『やってくれたわねパルカ、あなたのせいで計画が台無しよ』
「それはそれは、私達にとっては大変喜ばしい限りです」
『憎たらしい笑顔しちゃって。……まあ、今回は負けを認めるわ、思念体じゃこれ以上何も出来ないしね』
言いながら、『でもこれで終わりじゃない』とパルカに宣戦布告をする。
『幾多の世界に散らばった部下達が、私の代わりに必ず願いを成し遂げてくれる。私の意思は不滅なの』
パルカは静かに頷くと。
「いいえ、させませんよ。あなたが一人でないように、私にも頼れる協力者がいるのですから。ここにいる方々のようにね」
望むところだと彼女はイズリスに言い返し。
そしてパルカは手の平をイズリスに向けると、静かに思念体は粒子となって消えゆく。
『あ~あ、これで終わりかぁ。また嫌っていうくらいの暗闇で体を縛られたまま過ごさなきゃならないのね……すごく退屈』
「何万年という時を経て、もしもあなたが心変わりしたその時は、きっと奈落から解放してもらえますよ」
その言葉に、イズリスは吐き捨てるように笑った。
『はっ! 心を入れ替えるくらいなら最初から神に反逆なんて企てないわよ』
そして消えゆく粒子が最後に告げるのは、ヴィクスに向けて。
『ヴィクス、あなたと過ごした時間はなかなか楽しかったわ。また世界を変えたいと思ったなら、いつでも私を呼んでちょうだい。いくらでも力になるわ』
どこまで本心なのか分からない彼女の言葉に、ヴィクスはばっさり切り捨てる。
「俺はもうご免だよ。どうやら、力や知恵が無くても世界は変えられるらしいからな」
と、メルとコマチを横目に見ながらイズリスの勧誘を断る。
『そう……これは残念ね。それじゃあ、さよなら』
イズリスは微笑を浮かべながら、粒子となって完全に消滅した。
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