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64話 圧倒的脅威


「イズリス……お前は……」


 ヴィクスは震えた声でイズリスに問う。


「最初から、騙していたのか? 俺はお前の目的の為に利用されただけなのか?」


『騙すだなんて人聞きの悪い……ちゃんと手伝ったでしょ? そしてあなたは叶えた、こうして平和な世界を創ったじゃない。だからもういいでしょ。今度は、私の目的の為に働いて頂戴』


 お互いの目的の為に協力関係を築いた二人。

 その契約に偽りはない。イズリスはしっかりヴィクスの悲願である、格差社会のない平等で平和な世界……その土台を創ったのだ。


 その過程で彼女はヴィクスに知識と力を与えた。本来人が持つべきではないアーティファクトの存在と、時空を操る魔術を。

 故に、これらの代償が命一つで賄えるのだから、破格の安さと言える。


 ――と、イズリスはそう思っていた。


『私はあなたの願いを叶えたの。だからあなたも、私の願いを叶えてよ』


「……待て、俺はまだ目的を果たしていない。人の移住が済んでいないぞ」


『それなら私が引き継ぐわ。どのみち私も必要な人族を厳選して呼び寄せるつもりなんだし、利害は一致しているでしょ?』


「それは…………」


 ヴィクスは自分の命に執着はない。しかし、自分の世界にいる人間の選別は、自分の目で判断したいと願う。

 だが、これ以上の望みは命一つでは足りないとイズリスは否定する。


『諦めなさい。あなたにはこれまで十分過ぎる程の夢を与えたの。これ以上は傲慢というものよ』


 彼女の言葉に、ヴィクスは押し黙った。

 そんなヴィクスを嘲笑うかのように、続けてイズリスは告げる。


『そうね、差し当たってはあなたの世界の住人、ざっくり見た感じ全員必要ないと思うの。だからこのまま放っておくより、あの世界ごと楽園の肥料になってもらってもらったほうがよほど有効活用出来るわ』


 と、彼女はヴィクス達の世界はただの養分でしかないと、軽んじた発言を述べた。


「どういうことだ?」


『あの世界は特に大気中のマナが多く、星を維持するには打ってつけの材料なのよ。それに、どうせあの世界も貧富の差、そしてカーストが偏った所だし、私の創る楽園には不必要かなって』


 それはつまり、自分の生まれ育った場所を消滅させるということ。

 未だ貧困に苦しむ人々を見捨てるということ。

 友が守りたかったものを、根こそぎ奪われるということ。


「……それは、許容出来ない」


『えっ、何故? あなたもあの世界に嫌気が差していたじゃない。王族が死ねと言えば死ななければいけない理不尽な世の中に、憤りを感じていたじゃない』


「確かに俺はあの世界が嫌いだった。どれだけ努力をしようと、生まれた時から弱肉強食の階級が決まっている理不尽な世界が憎かった」


 ヴィクスはゴーレムに杖を向け、魔力を高める。


「だが、それをお前の判断で必要の有無を決められる事が、何より腹立たしい!」


 そして、ヴィクスは燃え盛る業火をゴーレムの顔に浴びせる。


 ゴーレムは自身の持っている盾でその炎を防ぎ、呆れたようにヴィクスに返す。


『酷いわね、今まで従順に接してきた私に向かってこの仕打ち……。まあ、どうせあなた達全員この世界の贄にするつもりだったから、抵抗してくれても全然構わないけど』


 イズリスは『そうそう』と、思い出したようにヴィクスに手の平を向け。


『あなたの持っているアーティファクト『ユグドラシル』、返してもらうわね』


 その言葉と共に、ゴーレムの手の平から時空の歪みが発生する。

 すると、ヴィクスの懐に忍ばせていた苗木の形をしたアーティファクトがいつの間にかゴーレムの手中に収まっていた。


「っっ!」


 今まで無限のマナを生成していたアーティファクトの力により自身の魔力消費をゼロにしていたヴィクスだが、ゴーレムの空間転移能力によりその供給を断たれた。


『それと、これも私が所持していたほうがいいわね』


 と、もう片方の手は遥か遠く……自然の大地が広がる場所に、ポツンと建てられた時計塔へ向けられ。


 そして程なくして、懐中時計のような形をしたアーティファクトが手中に収まる。


「それは……時のアーティファクト」


 ヴィクスは青ざめた様子でゴーレムの手の平に吸い寄せられた物を見やる。


『そう、時を自在に操るアーティファクト『クロノス』。おそらく後ろにいる子達はこのアーティファクトを欲しているのでしょうね。これは時を巻き戻す魔法【タイムリウィンド】の完全なる上位互換だもの。これで世界中に広がる時空の歪みを無かった事にしようとしている。そうでしょ?』


 コマチ達の目的はイズリスに見通されていた。

 だからこそ、彼女は奪われないよう自身の手に収めたのだ。


 二つのアーティファクトを所持した事により、イズリスが操るゴーレムは次元を操るだけでなく、無限の魔力と時を支配する力を得た。


 そんな難攻不落の魔導兵器を前に、メルはゴーレム目がけて飛び上がる。


「【エリアルフェザー】」


 メルは諦めてはいなかった。どんな危機的状況だろうと、打開する手はある。そう信じて。



 だが、不屈のメンタルだけではどうにもならない時がある。


『ねえ、あなた達人間が急速に一年の時を食らうと、身体は一体どうなっちゃうのかしら?』


 近づくメルに向けて、愉快そうに問いかけた。

 その直後――。


 メルの身体に異変が起きる。


「うっ……」


 急なめまい、空腹、眠気、悪寒、その他諸々の体調不良が一気に押し寄せる感覚。


 衰弱した体は魔力を失い、メルに纏っていた大気の翼の効果が解け、そのまま垂直に落下した。





ご覧頂き有難うございます。

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