63話 イズリスの真意
メンバーの中で最強の火力を誇るリルテスタがやられ、状況はたちまち不利になる。
スティオラを凌ぐ魔導士ヴィクスと、背後に立つ巨大なゴーレム。
いくらダメージを与えても、身体の時を戻す魔法で全てを無かった事にされる理不尽な力に、コマチ達は成す術がない。
「お前は…………」
そんな中、コマチはヴィクスに多大なる怒りを感じていた。文句の一つでも言わなければ我慢出来ないのだ。
コマチは奥歯を噛み締め、そして。
「俺達はヴィクスを止めてくれと、外ならぬお前に言われたからここまで来たんだ……。なのに、そもそもヴィクスの正体がお前で、お前自身が世界を滅ぼす敵だった。……俺達みたいな無知なガキを騙して、影で笑っていたんだろ、なあ? おい。全部……全部お前の自作自演じゃねえか!」
怒号と共に、コマチはヴィクス目がけて殴りかかった。
自分とメルが異世界に来たのは、結局ヴィクスという男に踊らされていただけなのだと、かつてない程の憤りを拳に乗せて。
ヴィクスは避ける事無く、そのままコマチの拳を頬に食らう。
「……気は済んだか?」
「済むわけねえだろ畜生! お前のせいで、メルがどれだけ危険な目に遭ったと思って――」
しかし、話しの途中でコマチは身体の異変に気付く。
足元を見ると、自身の身体が石化しかけていたのだ。
「なっ……お前っ!」
「悪いな、俺に攻撃すると石化の呪いがかかるカウンター魔法を付与しておいた」
ヴィクスは徐々に石化するコマチを通り過ぎながら、メル達の元へ近づく。
「だが安心しろ、仲間もすぐ同じようになる」
その言葉と共にヴィクスは杖を構え、他のメンバーに灰色の霧を散布した。
「【ミストコカトリス】」
その霧を受けたメルとメヴィカはたちまち身体が石化してゆく。
「身体が……動かない?」
メルは必死にもがくが、みるみるうちに固くなる身体を止める術はなかった。
「さて、記憶に齟齬があるようだから訂正しておくが、俺はお前達に何かを頼んだ覚えはない」
ヴィクスはコマチとメルに目を向けながら否定をする。
「どういう事情で世界を越えて来たのかは知らないし興味もないが、お前達が一方的に俺を知っているというのも気に入らない」
ヴィクスはメルに顔を近づけ宣告する。
「パルカ……あの女の根回しなのか知らないが、いずれにしろ、お前達の冒険ごっこはここで終わりだ」
石化する恐怖に震えながら、メルはコマチを見つめ最後に手を伸ばす。
「コマちゃん……」
「…………メ……ル」
お互い見つめ合い、そして、逃げる事も許されない停止した体だけがその場に残った。
そんな中、唯一影響を受けなかったスティオラはヴィクスに問う。
「兄さん、どうして僕にだけその魔法をかけなかったのです?」
それはヴィクスが与える最後の選択肢。
「選ばせてやる。ここにいる者達と共に死ぬか、俺の創った世界で生きるか。……俺はな、出来る事ならお前には生きていてほしいんだ」
弟を思う兄の情。
「貴族に家族と仲間を殺され、俺は一度全てを失った。その中で唯一お前を救えた事が何より嬉しく、生きる支えになった。俺は、お前だけはこんな場所で死んでほしくはない。命を無駄にしてほしくはない。だが前にも言ったが、どう生きるかはお前の自由だ。だから、選べ」
スティオラは俯き無言のまま立ちすくむ。
少し考えながら、しかし迷いはなく。
スティオラは口を開いた。
「兄さん、僕は兄さんが蘇生してくれなかったらこの命はなかった。僕がこうして生きているのも全部兄さん達のおかげだ」
後悔はない。あるのは吹っ切れたような清々しさ。
「本当に感謝しているよ。ありがとう、兄さん」
スティオラは持っていた杖を強く地面に突き刺し。
「だけど僕は、仲間を見捨てて生き永らえるくらいなら死を選ぶよ!」
そして、皆にかかった時の魔法を打ち消した。
「【カース・リジェクト】」
そう唱えると同時に、停止していた皆の体が動き出した。
スティオラの判断にヴィクスは寂しそうな表情を浮かべ、静かに目を瞑った。
「そうか……」
一言だけ呟き、ヴィクスは杖を構える。
だがその時、今まで黙っていたイズリスがヴィクスに向けて声を発した。
『ちょっといいかしら? ヴィクス、盛り上がっているところ悪いけど、そろそろ時間なの』
その言葉にヴィクスは眉をひそめる。
「……時間?」
『そう、今を以て、ようやくアーティファクトがこの星を完全に形成したのよ。ということで、あなた達の茶番は中断して最終段階に移行しようと思うの』
さらにヴィクスに疑問符が浮かび上がる。
「その話は聞いてないぞ。一体何に対しての最終段階だ?」
『あなたには話してなかったものね。私の永久楽園計画を』
彼女の言葉に、ヴィクスは不信感を抱いた。
元々イズリスに信頼はしていなかったヴィクスだが、しかし、今まで鼻につく言葉を吐く事はあっても、一度たりとも自分を裏切った事はなく、悲願を叶える為に尽力してくれた。
そんな彼女に、ヴィクスはいつしか警戒心が緩んでいた事に、今になって気づく。
「…………エリュシオン?」
『そうよ、私の目的は全ての世界を繋げて、私が厳選した人族だけを集めた楽園を創る事。そして不必要な人族は楽園維持の材料として贄になるの』
ゴーレムの身体である為表情は窺えない。
しかしヴィクスは、彼女が楽し気に話していると直感で分かった。
「何を言っているんだ?」
それは得体の知れない不気味さがあり、ヴィクスはその場で戦慄した。
『だから手始めにね、あなた達が人柱となってこの星の糧になってもらえるかしら?』
穏やかなトーンで、無慈悲な言葉を皆に投げかけた。
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