60話 神の反逆者イズリス
以前パルカと同じく世界を管理していたと告げるイズリス。
リルテスタは半信半疑だったが、彼女から感じる気配はパルカ、そしてシュシュのそれと酷似していた。
つまりはこの人型のシルエットも、人の領域を超えた超常的な存在であると、リルテスタは戦慄する。
「そうか、パルカ殿と同じ……。しかし、ならば何故今貴様はここにおる? その姿は幻影じゃろう。本体はどこじゃ?」
『質問の多い人ね。……解雇されたのよ私は、万物を創った創造主に。私達が今いるこの場所のように、世界を自分の手で創ったら創造主に怒られてね。それで私の本体は暗い暗い闇の中、奈落の底に幽閉されちゃったのよ』
以前パルカと同じ位にいた彼女が、今回のヴィクスのように世界を自作したが為に罪を負い、今や彼女は地の底に捕らえられている。
しかしそのような状況でも彼女は神の意に逆らい続け、地上の人間に協力を仰ぎ理を覆さんとしていた。
そして彼女の言葉に釣られたのが、同じ思想を持ったヴィクスである。
「貴様を危険視したうえでの処置じゃろう? 正しい方法で世界を創らなければ、時空の歪みが生じてしまうとパルカ殿は言うておった。貴様の行いが招いた結果ではないのか?」
『地上の小娘が私に説法を説くつもり? 反吐が出るわね』
小馬鹿にしながら、イズリスはリルテスタの言葉を聞き流す。
『世界中の格差社会、種族間の争いから人々を救う為の楽園を作る。それが私の理念よ。邪魔立てするのなら、たとえ神だろうと滅ぼすわ』
「……ヴィクスよ、お前、悪い女に引っかかったのう。こやつと出会わなければ、ここまで事態は肥大しなかったものを」
と、ヴィクスに同情するように投げかけると。
「たまたま目的が合致しただけだ。俺はシュシュの描いた平和な世界を創る為、イズリスは種族差別のない世界を創る為、思念体の彼女の話しに乗っただけです……」
そう吐き捨て、這いずりながら杖を持ち、彼は魔法を唱えた。
「【タイムリウィンド】」
すると、突如ヴィクスの体は瞬く間に傷が治り、土で汚れたローブまでも新品のように修復され、倒れていた身体は瞬時に直立する。
「……なんじゃ、その魔法は? 治癒魔法……とは違うようじゃが」
驚くリルテスタに、ヴィクスは残念そうに返す。
「治癒じゃない、時を戻す魔法です。本当はイズリスから教わった魔法を使わずにあなたに勝ちたかったが、そうも言っていられないからな」
こだわりを捨ててでも、自分の敵対者を葬る。
人が許される領域を飛び越え世界創造を成し遂げた彼は、今更引き返す事は出来ないのだ。
そんな彼の様子を見たイズリスは、嬉々として彼に指示を出す。
『やる気になってくれて嬉しいわ。さあヴィクス、次元自動騎兵を召喚しなさい。あの器に私の思念を送るの』
イズリスを見ながら「俺に命令するな」と辛辣に返すが、ヴィクスは彼女の望むまま、巨大な魔導生物を召喚する。
「【オールドサモン・ディメンションゴーレム】」
そして現れ出でる白き巨体。
リルテスタが屠った三体の巨人に匹敵する程の体躯。それに加え、イズリスの思念が入り込み、彼女の意思で自在に操作が出来る。
それはこの世界で最大級の、強力無比な殺戮兵器と化した。
「……先程の巨人とは違うようじゃな」
先程と同じ巨人の召喚に、若干芸の無さを感じ軽く溜息を吐くリルテスタ。
しかし、そんな態度の彼女をイズリスは笑った。
『あんな脳筋共と一緒にしないで。この子は私が作った自信作なんだから』
そして突如、ゴーレムは両手を大きく広げると、手先から時空の歪みが生じ、その片方から巨大な鉄槌、もう片方から巨大な盾が吸い寄せられてきた。
『このゴーレムの長所は、時空を掌握し、物体を自在に移動させる力。だからこんなふうに、他の世界から神話級の武器を取り寄せる事だって出来ちゃうの』
山の如き巨漢に加え、両手に武装したゴーレム。
圧倒的な存在感を発揮するその巨体をバックに控えさせ、ヴィクスはリルテスタに向けて言う。
「これが最後の警告です。リルテスタ様、まだ戦いますか?」
力も、知識も、度量も、そして血筋も、全てを兼ね備えた万能の竜人。
何より彼女は自分を育てた恩師である。そんな彼女に向ける牙は、他者からもらった偽りの力。
こんな幕引きはヴィクス自身望んではいない……、いないが、彼女が向かって来るのならばやるしかない。
だからこそヴィクスは、無駄とは知りつつ最後に確認を取りたかった。
案の定リルテスタは微笑を浮かべ、ヴィクスに返す。
「生憎と、この地に足を踏み入れた時点で逃げる選択肢はなくてな」
そして先程の強化魔法【エンシェントフォース】を唱え、無機質な巨体へ飛び掛かった。
「せいぜい抗ってみせるわいっ!」
血走る眼光にイズリスを捉え、絶対的不利な戦いに彼女は挑む。
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