57話 小さき最強の矛
異様で巨大な姿をした化け物に、一同は言葉を失う。
今まで見た魔物の中でも、飛びぬけて化け物らしい見た目をしていたのだ。
一方で、一人冷静にヴィクスの元へと歩き出すリルテスタ。
「皆、後を頼むぞ。先陣はわしが切る」
リルテスタの前に立ちはだかるは、雲にも届きそうな体躯をした百本腕の巨人が三体。
加えて、ヴィクスはさらに召喚魔法で次々と魔物を沸かせてゆく。
「オーガ、グリフォン、シャドウウルフ、敵を打ち払え」
筋骨隆々の大柄な鬼、オーガ。鷲の上半身と獅子の下半身を合わせた巨大な怪鳥、グリフォン。そして影から生まれた人食い狼、シャドウウルフ。それらのモンスターが百程、コマチ達を囲うように召喚された。
「リルテスタ様、一国の軍隊に匹敵するあなたでも、この数を相手に出来ますか?」
ヴィクスは挑発するようにリルテスタに問う。
「俺は貴族の中でもあなただけはこの世界に迎えようと思った。だから、出来れば争いたくはないのです。降伏する気はありませんか?」
ヴィクスの提案をリルテスタは鼻で笑った。
「見くびるなよヴィクス。わしも……わしの仲間もな」
リルテスタは体から赤く光る気のようなものを発した。
「お前の召喚魔法、見た事はないが、古代に封じられた禁術に匹敵するものじゃろう。ならばわしも使わせてもらおうかの」
突如、リルテスタは体中から気を爆発させるような気を放出させ、叫ぶ。
「【エンシェントフォース】!」
それは自身の身体能力を極限まで増大させる強化魔法。
明らかな臨戦態勢に気づいた三体の巨人は、足元のリルテスタに向け、百もの腕をもって掴みかかる。
が、身体強化したリルテスタにとって、巨人の動きは止まって見えた。
足元を高速で動き回り巨人達を翻弄するリルテスタ。
巨人も必死になり、伸ばした手で羽虫を潰すように地面を叩き、また、足で何度も踏みつけるなど試行錯誤するものの、リルテスタはそのすべてを躱す。
巨人の動作一つ一つで大地が揺れる程の地震が起き、離れた場所にいるコマチ達は体のバランスをとるだけで精一杯だった。
「リルテスタのやつ、よくあんな修羅場で平然と動けるな……。メル、お前の【スキルコピー】であの技も習得出来るか?」
コマチはふと、リルテスタの戦いを遠目で見ながらメルに尋ねるが。
「スキルの効果は分かったよ。……でも」
メルの【スキルコピー】の効果で頭の中に新たな記憶が刻まれたが、それは到底メルが扱えるスキルではなかった。
「あれはアタシには無理。リルじゃなきゃ出来ないチート技だね」
首を傾げるコマチに、苦笑いを浮かべる。
「あれ、自分の寿命を削って身体強化するスキルだから、不死身のリル以外は一発限りの捨て身技なんよ」
リルテスタの呪われた体を利用した禁術、おかげでリルテスタは死を伴うリスクなく大幅な身体強化を得られるのだった。
その力を以て、巨人を凌ぐ戦闘力を発揮する。
「図体だけの巨人如きがわしの前に立つでない!」
彼女は地面が割れる程大地を踏みしめ、巨人の眼前まで高く跳躍した。
「【プロミネンスファイア】!」
そしてリルテスタは掌を巨人の一体に向け、燃え盛る深紅の炎を放射線状に放つ。
顔面に灼熱の炎を浴びた巨人はたまらず態勢を崩し、大地を揺らしながら砂塵を撒き散らしその場に倒れた。
「鬱陶しい砂煙じゃ。自分で掃除せんか!」
今度は辺りに舞う砂塵を魔法で目の前の一点に集め、巨大な竜巻を生む。
「【グランド・デンダイン】!」
倒れた巨人に指を向けると同時に、竜巻と化した砂塵は一直線に巨人の半身を消滅させた。
「あと二体」
笑みを浮かべながら、リルテスタは上空へ飛翔し、天に向けて人差し指を突き立てる。
「【エレクトロ・オリジンランス】!」
呪文を唱えると、突如巨人の頭上に黒雲が生み出され、巨大な落雷が槍のように突き刺さる。
強力な雷に直撃した巨人の一体は、黒墨となって崩れ落ちた。
「あと…………一体」
先程から連続で超上位魔法を使い続け、リルテスタの体はブチブチと筋繊維が切れる程に限界を超えていた。
常人ならば超上位魔法を一度使用しただけで死に至る命懸けのドーピングスキル。
リルテスタに死のリスクはないとはいえ、決して無傷ではない。
不死身の体は何度も再生を繰り返すものの、悶える程の激痛が絶え間なく彼女を襲う。
それでも尚、彼女は死ぬ事が許されないのだ。
それが、彼女に与えられた呪いである。
歯を食いしばりながら、リルテスタは最後の一体に向け魔法を放った。
「【メイルシュトローム】!」
リルテスタが呪文を唱えると、巨人の周りを囲う無数の水流が現れ、巨人を徐々に抑え込み締め付けるように圧迫する。
最後は一本の巨大な水柱となり、巨人は水圧の力で跡形もなく消し飛んだ。
三体の巨人を沈めたリルテスタは、強化魔法が解けるとその場に膝をつき、身体の修復を待つ。
主力を失ったヴィクスは変わらず無表情で、浮遊魔法を使いリルテスタの元へ近づいた。
「圧倒的だな。あなた程の力を持った者が世界にどれだけいるか」
リルテスタは弱々しく笑みを浮かべながらヴィクスに返す。
「いくらでもおるわい。わしの強さはただの経験。じゃが、歳を取ると保守的になってしまってのう。無茶をする事に怯えてしまう。お前の行動力が羨ましく感じるぞ」
ヴィクスは無反応で、ただ彼女の言葉を聞いていた。
「しかしヴィクス、今回お前の行いは度を過ぎた。師としては見過ごせん状況でな、せめて今一時くらいは無茶をしてでも、弟子の過ちを正す事がわしに出来る償いじゃ」
リルテスタは重い体をゆっくり起こし、
「じゃからのうヴィクス。……お前も本気でかかって来い!」
拳を握り、大地を蹴り、ヴィクスの元へ飛び込んだ。
「言われるまでもない!」
リルテスタの威圧に当てられ、ヴィクスも眼孔を見開き杖を構える。
そして二人は互いに魔法と拳をぶつけ合った。
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