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51話 変貌した二人の世界


 屋敷の扉を開けると、以前空間転移した、町を一望出来る坂の天辺、その近くのマンションの入り口に出てきた。


 二人の世界とリルテスタ達のいる世界で若干の時差があり、この世界ではまだ日は沈んでいなかった。


 差し込む日差しの中で、久しぶりの帰省に二人は懐かしい空気に包まれる。

 しかし、目に映る光景は以前とは違い、向こうの世界と同じく異様な光景。


 点々と空中に浮かぶブラックホールのような時空の歪みと、そこに時計塔があったであろう場所に、一部分だけ切り取られたような巨大なクレーター。


「……やっぱりこっちも状況は同じか」


 コマチは変わった町を眺めながら呟いた。

 人の気配はない。皆どこかへ避難したか、あるいは……。


「……メル?」


 ふと、コマチの隣では、メルが寂しそうに町を眺める。


「コマちゃん、アタシ達の家族は無事かな?」


「見に行ってみる?」


 コマチの問いに、メルは首を横に振った。


「全部終わらせて、世界が元に戻ったら、会いに行く。コマちゃんはどうする?」


「俺も後にするよ。きっと親も生きていると信じてるから」


 コマチの言葉にメルは静かに頷き、しばし沈黙しながら自分達の住んだ街並みを見つめる。

 お互い何も声を発さず、沈黙が続く。


 数分間を置いた後、メルのほうから口を開いた。


「アタシ、学校に良い思い出ってあまりないんだ」


 唐突に、懐かしむように、近くの学校を見つめながらメルは昔を語る。


「トレンドに疎いと、少数派な考えを持つと、同世代の勝手に決めたカーストから除外されるらしいよ」


 それが、メルが学校に行かなくなった理由である。

 年頃の女子にとって趣味の共感は何より重要であり、メルの感性は疎外された。

 尖った個性を受け入れない環境だった。


「クラスの相性が悪かったんだな。けど、探せば話の合う奴がいたかもしれないだろ?」


「かもね。でも、アタシに割り当てられた場所にはいなかった。……それだけ」


「………………」


 笑いながら過去を話すメルの顔を、コマチはまともに見れなかった。

 それは、メルがそんな目に遭うのは元を辿れば自分のせいではないのかと、コマチは胸が締め付けられるような痛みを感じたからだ。


 事故に遭ってからメルはあまり外に出なくなり、代わりに室内で遊ぶ事を覚えた。


 それは今の環境を忘れさせてくれる物にすがっていたのから?

 何かに夢中になっている時だけ現実から目を背けられるから?


 と、コマチは自分の感性を重ねて一瞬思うが、しかしすぐにその考えは違うと否定する自分が出てくる。


 きっとメルはそんなネガティブな思考は持っていない。


 自分が正しいと思った道をゆくのだ。どこまでも真っ直ぐに。

 周りに合わせて、興味もない趣味を強要されるくらいならば、団体の輪は必要ないと自ら切り捨てて来たのではないか、コマチはそう思った。


「まあそれで、色々あったから高校に入学しても同級生と上手く話せなくなって……アタシ自身煩わしくなって……それで学校行くのやめた」


 色々、と、割愛された話の中にはきっと耐え難い闇があった事を、コマチは知らない。


 いつも自分の前で明るく振る舞うその影で、メルは何を思ったか。

 そんな事すら知らない自分が、許せなかった。

 ずっと近くにいたはずなのに、と。

 守りたかった。支えたかった。

 そんなやるせない思いがコマチの胸を刺す。


「メル、俺はな……」


「コマちゃん」


 と、コマチの言葉を遮り、メルが口を開いた。


「ありがとね、今まで。アタシ、幼馴染がコマちゃんで良かったよ」


 そして急に、最期の別れのようなセリフを告げる。


「フラグ立てんなよ。これが最期みたいじゃねえか」


「いや一応ね、今言っとかないと、もし開戦早々ワンキルされたら言いたいことも言えないし」


「縁起でもねえんだって、やめろよ」


 めずらしく弱気なメルに、コマチは溜息混じりに言った。


「……しかしさ、たったの数日だけど、俺達だいぶ冒険したと思わないか?」


 これまでのことをしみじみと。


「なんか訳わからんまま異世界に飛ばされて、流れるままにクエストこなして、デカい悪の組織の陰謀に巻き込まれて…………それで、気づけば世界の命運とか背負っちまう戦いに向かおうとしてるんだぜ? ただの高校生である俺達がだ」


「あっしはただの引きこもりでござんすが?」


「いちいちマウントとらなくていいんだよ!」


 思い返せば短い日々を、されど人生で一番濃い日々を、ただ懐かしむようにコマチは語った。

 そしてその先は未来の話。


「でさ、そんな俺達が世界を元に戻したら、またいつもみたいにお前の部屋でグダグダ過ごしたい。何気ない日常を取り戻したい……そう思ってるよ俺は」


 メルは微笑を浮かべ、軽くコマチの胸板を叩いた。


「その前に、やらなきゃいけない事があるけどね」


 ヴィクスとの避けられない戦い。最後の一仕事を終えなければ日常は戻っては来ない。


「うん、絶対に生きて帰るぞ」


 決意を新たに、メルも静かに頷く。


 今だから繋がる、二人の気持ち。

 喧嘩を経て、トラウマを乗り越えて。

 互いの気持ちを打ち明けた二人の間に、ボーダーラインが掻き消えた。

 今までよりもほんの少しだけ、二人の世界は澄んで見えた。


「アタシ、この戦いが終わったら……」


「だからフラグ立てんなって言ってんだろ! 死にたいの?」


 そんな中、余計な言葉を残そうとするメルに向かってツッコミを加えるコマチだが。


 メルは真っ直ぐ自分達の町を見つめて言うのだ。

 彼女の決心を。


「学校行こうと思うんだ。今度はちゃんと」


 その揺るぎない決意を聞いたコマチは、迷いなき瞳をした彼女を呆然と見つめ、その後、遅れて湧き上がる感情で「そうか」と、内心嬉しそうに答える。


「じゃあおちおち死んでられないよな。さっさと終わらせようぜ」


「うんっ!」


 どことなくスッキリした顔で、二人は屋敷の入り口へと歩く。





ご覧頂き有り難うございます。

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