50話 伝染する時空の歪み
世界に蔓延する渦、時空の歪み。
それは一つの世界だけでなく、屋敷にある全ての、何百と存在する世界が同じように侵食されていた。
「あまりにも範囲が広すぎるので私の手も追いつかず、多少歪みを抑える事は出来ても、完全に取り除くことは出来ない状況です」
「そんな……何が原因なんですか?」
コマチが問うと、パルカは複雑そうな表情で答えた。
「先日、コマチさんとメルさんが追っていた魔導士、ヴィクスさんとお会いしました」
二人は同時に目を見開く。
「あの方は皆さんのいた世界から空間転移の魔法を使い、別の世界へと移動したようです」
「別の世界?」
「自ら創造した世界へ……。世界中から集めた『アーティファクト』を使い、一から星を創ったのです。その影響で時空が歪み、みるみる他の世界へ侵食し、そして伝染してゆくのです。……支障が出て当然です、ヴィクスさんは本来神にしか許されない世界創造を、人の身で創ってしまったのですから」
パルカの言葉に、スティオラは思い当たる節があった。
兄ならば可能だと、薄々気づいていたのだ。
彼の並々ならぬ意志、手段を択ばぬ行動力、身内への思い。
それらが雑じり合って、今の彼を突き動かしているのだと。
「…………兄さん」
優れた魔術の才能に加え、どこで覚えたのか、世界を渡る力を手にした兄。
個の実力でも自分を遥かに凌ぐ魔道士。
そんな兄が、神器とも呼ばれる『アーティファクト』を複数所有しているならば、世界を創る事くらい出来てしまうのだろうとスティオラは思う。
しかし、優しかった兄が世界を崩壊させるような暴挙に出るなど、信じたくはなかった。
「兄さん? もしかしてヴィクスって、スティオラの兄貴なのか?」
と、大監獄での事情を知らないコマチは今更ながらに問いただすが……。
「コマちゃん、後で説明するから今は空気読んで」
メルに静止され、蚊帳の外に追いやられたコマチはシュンとしながらフェードアウトした。
「パルカさん、と仰いましたね? 何か、止める方法はありませんか?」
スティオラは解決策を求める。
「コマチさんとメルさんの世界にあった『アーティファクト』ならあるいは……」
と、パルカは予め用意していた打開策を講じる。
「お二人の世界に本来あるはずの『アーティファクト』は、各世界にある『アーティファクト』の中でも特別強力です。自在に時を止め、自在に時を戻す、時間の概念を掌握出来る規格外の効果があるのです。それを取り戻し、時空が歪む以前まで時を戻せれば全ての世界は元に戻れるでしょう」
まだ元に戻せる。可能性はある。
その話を聞いたメルは身を起こし、パルカに尋ねる。
「パルカさん、アタシ達もヴィクスのところに行くことは出来る?」
するとパルカは上方を指差す。
「ここより上の階に新しく生み出された扉、ヴィクスさんが創られた世界がございます。その気があればいつでも向かえますよ」
「ならすぐ行こう! パルカさん、案内して」
メルはパルカを急かすように煽り立てるが。
「待たんかメル」
リルテスタはそれを止める。
「一人で突っ走るでない。準備を怠れば、途端に状況が瓦解することもあろう」
「でも時間がないよ!」
「急くなと言うておる。時を戻すのじゃろう? ここまで来たら一日も二日も変わらんわ。そうじゃろう? パルカ殿」
リルテスタはパルカに視線を向け、確認をとった。
「そうですね。『アーティファクト』の力を用いれば、多少の時間の経過は問題ないかと」
その言葉に、彼女は安心した様子で息を吐く。
「とは言え、ゆっくりしているわけにもいかんじゃろうがの。時を戻せると言うても、時空の歪み……じゃったか? それに苦しめられている者達を無視も出来ぬしの」
そしてリルテスタは最終確認をとる。
「皆、今ならまだ引き返せる。降りる者は降り、乗るならば二日後に再び集まる、それでどうじゃ? わしも女王に事情を伝えねばならんからのう」
リルテスタの言葉に一同は賛成した。
「アタシとコマちゃんは元々そのつもりだし、望むところだよ」
メルに続いて、スティオラも。
「勿論僕も行きますよ。身内の問題ですから、僕が行かなければ」
そしてメヴィカも。
「当然私も行きます。成り行きですし、ヴィクスさんと直接関係はないかもですけど、世界の危機にただ指をくわえて見ているだけなんて嫌ですから」
皆の話が纏まると、パルカは再び話を進める。
「それでは皆様、ご準備が済みましたら私にお声がけ下さいませ。それまでご自身の世界へ帰るなりここで装備を整えるなりと、ご自由になさって下さい」
そして、皆は二日後にまた落ち合う事となった。
リルテスタは一度国に戻り、女王に事の経緯を伝えに。
メヴィカとスティオラも各々準備を整える為エルマラントに帰国する。
そして残った二人は――。
「ねえコマちゃん、せっかくだからアタシ達も一度帰ってみない?」
メルの要望により、自分達の世界、自分達の町へ向かった。
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