5話 二人の適正能力
横一列に並び、何をされるのか緊張するコマチと、今か今かと心待ちにするメル。
すると、急にコマチとメルの体が光り出し、それと同時に二人は頭の中をかき回されるような感覚に陥り、脳内は新たな知識を得ようと急速な情報処理を始めるのだった。
パルカの詠唱が終わる頃、二人は脱力したようにぐったりその場に膝をついた。
「うえ……気持ち悪い」
脳をいじくられたような感覚が残る中、「お疲れ様でした」とパルカは労いの言葉を加え、二人の体調を確認する。
「どうやら問題なく成功したようです。何か身体に変化はありますか?」
パルカの問いに、コマチとメルは自身の体を触り変化を確かめると。
「んん~そういえば体が軽くなったような……あ、あと裸眼でも近くの物が見える! パルカさんの素顔初めて見れたよ。美人さんだね~」
「お褒めにあずかり光栄です。コマチさんはいかがでしょう?」
「なんか……至る所から気配を感じる……」
二人の様子にパルカは「ふむ」と、口に手をあて考える。
そして、パルカは再び分厚い本に目を通し、何度もうなずく素振りを見せた。
「解析が完了しました。まずコマチさんは、『シャドウ・オブ・ラーカー』という職業に適正があるようです」
「シャドウ・オブ・ラーカー?」
コマチは聞き慣れない名前の職業に首を傾げる。
「主に隠密行動を得意とし、物陰に隠れながらの遠距離射撃や人目につかない場所での暗殺を得意とする職業ですね」
「へえ、地味なうえに物騒な戦い方だけど便利だな」
パルカの職業説明にまんざらでもないコマチ。
「ただし素早い身のこなしを得意とする分、正面からの肉弾戦には不向きですので、考えなしに特攻しない事をおススメします」
「あ……はい」
要はコソコソ隠れながら虎視眈々と敵を仕留めるいやらしい戦法で戦えと……そんな認識をするコマチは口には出さないが、それも踏まえてやはりこの職は自分のスタンスに合っていると密かに思うのだった。
「続いてメルさんですが……」
そしてメルの番になり、彼女はワクワクしながらパルカの結果を心待ちにすると。
「適正能力を見るに、職業は『ミミックナイト』となります」
「え……何それ?」
荒ぶる好奇心を全面に出していた反動で、想像していた職業とは違うパルカの言葉に思わず素の反応で返すメル。
「ミミックはご存知ですか?」
「迷宮とかにいる、宝箱に化けて冒険者を襲うモンスターっていう認識だけど……」
メルがよくプレイするファンタジーもののロールプレイングゲームにおいて、魔物の棲むダンジョンなどで見かけるメジャーな魔物な為、メルも名前は知っていた。
「その通りです。宝箱に限らず、生息する世界によって様々な種類が観測されていますが、どれも共通して【擬態】するという性質を持った生物です。そしてメルさんに適正があった『ミミックナイト』は、他の方が使う様々な技能……スキルを瞬時に吸収し真似る技【スキルコピー】が主な戦闘スタイルになります。特徴が魔物であるミミックに似ている事からその名が付いたとか」
「ネーミングがダサいんだがっ!」
言い渡された役職に不満を漏らすが、ふと「ん? 待てよ……」と呟きパルカに尋ねる。
「その【スキルコピー】ってのがあれば、アタシでも強力な魔法が使えるようになるんですか?」
「ええ、勿論です」
「おお! 名前に反して意外とエグイ能力じゃない? 敵の技を吸収して強くなるって、昨今の主人公ポジじゃん!」
魔法に強いこだわりを見せるメルは、場合によっては様々な職業のスキルが使える美味しい役なのではと考えを改める、……が。
「ただデメリットと致しましては、『ミミックナイト』のステータス自体そこまで高くはなく、相手のスキルを吸収しても本家に劣る性能ですので、多種多様な引出しを持っていても器用貧乏になる可能性があります」
「チェンジ! やっぱり別のにして!」
「無理です」
笑顔で即答された。
こうして二人は、当たりなのかハズレなのかはっきりとしない戦闘技能を手に入れ、暗雲漂う中、先行き不安な冒険が幕を開けるのだった。
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