49話 食事の後で
コマチとメルが仲を戻した後、コマチの傷をスティオラが治療し、一同は円卓にて夕食を共にした。
「おお~テルちゃんのメイド服やばっ! いやもうホント悶え狂い必至のビジュアルを永久保存したい気持ち高鳴る想い馳せる!」
メルは恍惚と顔を蕩けさせながら、不慣れに給仕の仕事をするテルミラにからむ。
「ありがとう……ござ、います。お姉……お客様」
習いたての言葉遣いを駆使しながらメルに対応するが。
「くあ~初々しっ! 抱こっ!」
「ちょ、あ、お姉ちゃん! 食器落としちゃう!」
食べ終わりの食器を運ぶ際にメルに捕まり、テルミラは両手の塞がった状態でなすがままになっていた。
「おいメル、あんまり仕事の邪魔すんなよ」
隣にいたコマチはメルを静止させながら、大人びた様子で食事を進める。
が、会食の作法など知らないコマチもまたガチガチに緊張しており、メディアの受け売りで、慣れないナイフとフォークを震わせながら食べていた。
その様子を眺めるリルテスタは微笑を浮かべコマチに言う。
「コマチよ、ここは貴族同士の接待の場でもなく、王宮の会食でもない。背伸びせずとも、食べ易いやり方で食事を楽しむがよい」
葡萄酒をグラスに踊らせながら、食べ辛そうにしているコマチをリラックスさせる。
「あと、カリカリに焼いたパンはナイフでは切り辛いじゃろう。手でちぎれ」
「えっ……?」
なんでもナイフとフォークで食べるものだと思っていたコマチは、メヴィカとスティオラが素手でパンを食べているのを見て赤面した。
「別に知らぬことは恥ではない。お前はまだ若いのじゃ、これも一つの経験として、今は純粋に腹を満たせ」
動揺するコマチの反応に笑みを浮かべるリルテスタ。
そんなコマチにメルは助け船を出す。
「コマちゃんは思春期だから、何食わぬ顔で大人っぽく振る舞いたい年頃なのだよ」
泥船ではあるが…………。
「メル、これ以上は俺の自尊心が危ういから何も言うな……」
「……?」
キョトンとするメルをそのままに、コマチは軽く息を吐くと。
突然、何か吹っ切れたように両手の銀食器を置き、手づかみで肉にかぶりつき、パンをかじる。
ガツガツと。
「え……コマチさん?」
勢い良くがっつく姿にメヴィカは困惑するが、コマチは気にせず、スープを豪快に飲み干し、取り分け用のスプーンで大皿の炒め野菜をかき込む。
ガツガツと、ガツガツと。
「ほっほ、良い食いっぷりじゃ、それでよい。過度な気遣いは時に己の成長を鈍らせる。恥を捨てよ、戦士であるならいかなる時も強気でいろ。それが強さの秘訣じゃ」
ヤケを起こしたわけではない。自身の殻を破ろうとしているのだ。
恥を捨てよ。その言葉を噛みしめながら、コマチは周りの目を気にせず、あるがままに食卓を片付けてゆく。
きっと自分に足りないものは、慎重になり過ぎるあまりに新たな一歩を踏み出せない決断力。
そう思い、それをすでに持っているメルを見ながら、少しでも彼女に追いつこうと心に決めた。
長く続いた食事の後。
「リルテスタ、どこでもいいんだけど、鍵付きの扉を貸してもらえるか?」
コマチは例の、パルカのいる場所へ繋がる鍵を使う為リルテスタに扉の許可を取る。
そして一同は客室の扉の前に集まった。
パルカの元へ繋がる鍵を挿し込むと、種類も大きさも違う鍵穴にすっぽりはまり、そしてゆっくりと扉を開ける。
そこには二人が初めて世界を渡った部屋の空間が広がり、そんなに時間は経っていないはずだが、二人はこの場所を懐かしく思った。
「ほお、空間を転移させる魔道具か。えらい代物を持っておるのう」
リルテスタは関心しながら見慣れない部屋を見渡す。
ありふれた造りの部屋であるにもかかわらず、部屋一帯から見慣れない魔力の存在を感知したリルテスタは己の琴線を刺激する空間に夢中になる。
そんな中、まるで自宅のような感覚で帰還報告を告げるメル。
「パルカさーん! 帰ったよー!」
すると、ヒールの音と共に、黒衣装を纏ったパルカが奥から出迎えた。
「お帰りなさいませ、メルさんコマチさん。それと……お久しぶりです、メヴィカさん」
「あ、お久しぶりですパルカさん。その節はお世話になりました」
久方ぶりの再開に、メヴィカはやや緊張気味に挨拶を交わす。
「さて、事情は概ね把握しております。そちらの世界に時空の歪みが生じたのでしょう?」
挨拶も早々に、パルカは皆が来た意図を把握していた。
「知っているんですか?」
コマチが尋ねると、パルカは微妙な表情で返した。
「こちらも色々対処はしておりますが、そちらだけでなく、すべての世界に同じく時空の歪みが生じているのです。勿論、お二人の世界にも」
「えっっ!」
コマチとメルは声をそろえて驚愕した。
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