48話 互いの気持ち
大剣と短剣のつばぜり合いが起きる中、コマチはメルに予告する。
「後ろに下がったほうがいいぞ。直撃するとお前の腕くらい簡単にぶち折れる」
「へえ……やれるもんならやってみ――」
「【コンプレッション・エッジ】」
メルが言いかける途中で、コマチは空気を圧縮した刃で大剣を押し返す。
爆風を浴びたような風圧に弾かれたメルは空中で弧を描きながら。
「【エリアルフェザー】!」
大気の翼を両足に纏い、反動を相殺しながら上空へ駆け上がった。
「あいつ、空も飛べるのかよ……」
などと驚くコマチだが、上空にいるメルの大剣の構えから次に来るであろう一撃を予感すると、青ざめながら回避の一手に回る。
「【グラビティレイド】!」
大剣を地面に向けて急降下するメルから距離を取るコマチだが、メルが着地した瞬間、足場に痺れるような重圧がかかりその場で転倒した。
「なんだこれ……急に身体が重くなった?」
メルは巨大なクレーターを残しながら、身体の不調に困惑しているコマチの元へ歩み寄る。
「重力負荷をかける魔法だよ。ちょこまか動くコマちゃんには効果てきめんだね」
肩に大剣を乗せ、一撃を食らわそうと近づくメル。
すると、コマチは立てない身体を諦め、上空に向かって矢を放った。
「【ミリアドコメット】!」
そして無数の光弾が辺りに降り注ぎ、メルを襲う。
もっとも、その光弾はメルに当たらないよう位置をわざと逸らしていた。
「おっ? うおっ!」
そうとは知らずメルは突然の奇襲に驚き、コマチに近づくことが出来ず、仕方なく距離をとる。
「いいね、その容赦ない感じ。やっと戦いっぽくなってきたじゃん」
ようやくその気になってくれたと、メルは興奮しながら笑みを浮かべるが。
「……なに面白そうにしてんだよ。こっちはお前をケガさせないよう、ヒヤヒヤしながら戦ってんのに」
しかし、コマチの言葉にメルのやる気は一気に消沈し。
「まだ……そんなこと言うの?」
それは殺気へと変わる。
「アタシに手加減するなっ!」
メルは大剣を振り被りコマチに斬りかかるが、コマチはそれを寸前で回避する。
「どうして手を抜くんだよ! アタシはこんなに本気なのに!」
文句を交えながら、何度も何度も剣を振り回す。
高ぶる感情をそのままに。
「家族には同情の目を向けられて、友達だった子には変人扱いされて、アタシをいじめてた奴は女らしくないってバカにして!」
そんなメルの猛攻に、コマチは受け身を取り切れず腹部に大剣を食らってしまう。
「ごふっ! いってえ……」
だがコマチは、もはや避けようとはしなかった。
「みんなアタシを不幸な奴だって、イタイ奴だって一線おくんだ!」
幾度となく激痛走る一撃を、コマチは直に受け続ける。
避けるつもりはない。自分よりも、剣をぶつけるメルのほうが、あまりにも辛そうであったから。
「それでもアタシは気にしないようにしてたんだよ……周りにどう見られてもいい、どんな風に思われたって構わないって」
コマチにこれ以上抵抗する気はない。
ただすべてを、メルの溜めに溜めた感情を吐き出させるつもりで、コマチはその場で立ち続ける。
ここで倒れてはいけないと。逃げてはいけないと。
やがてメルは手に持っていた剣を投げ捨て、コマチの懐目がけてダイブする。
「だけどっ! コマちゃんには同情されたくない! 後ろめたい気持ちになってほしくない! 他がなんて言っても、コマちゃんだけにはそんな風に情で接してもらいたくない!」
コマチの胸の中で泣きながら、今まで言えなかった不満を、メルはさらけ出した。
「アタシ、あの日事故に遭ったこと、全然後悔してないよ。だって、コマちゃんが無事でいてくれたんだから……こんなに元気に育ってくれたんだから」
大好きな幼馴染は、優しい少年。
だからこそ罪悪感に苛まれ、こんな自分に気を遣う。
そんなコマチが許せなくて、自分を特別扱いしてくる事に不満を抱いていた。
「アタシに縛られないで。アタシのせいで苦しむコマちゃんを見るのは、耐えられない」
自分に縛られて生きてほしくないと、ずっと思っていた。
自由に生きてほしいと、ずっと願っていた。
それがメルの、長年押し止めていたわだかまり。
コマチは寄りかかるメルの頭に手を添えながら。
「たしかにお前の言う通り、罪悪感はあったし、罪滅ぼしの意識はあったよ」
今まで口にする事を躊躇っていた言葉をメルに包み隠さず伝える。
「正直怖かったんだ。お前に本当の事を言ったら嫌われるんじゃないかって……」
恥ずかしくて、情けなくて、ずっと言えなかった事。
「ガキの頃は、いっそ俺を恨んでくれたほうが気が楽になるなんじゃないかって、そう思っていた。……でも、それでもお前といるの楽しくて、他愛もない話で盛り上がる何気ない日常が好きで、そんな日々が壊れるのが嫌で、ずっと黙ってた。臆病者なんだ俺は」
見ないようにしていた真実。
現実逃避をする事で、大事なものから目を背けていた日常。
以前アストに言われた事が正しくて、それを否定出来ない自分が悔しくて。
しかしそれを今、包み隠さず明かした。紛れもない本心を。
「だけどこれだけは言っておく。お前のせいで苦しいとか、そんな気持ちはこれっぽっちもないんだ」
そして芽生えるは、戒めではない使命感。
「メル、俺はお前を守る」
「まだ、そんなこと……」
「けどそれは罪滅ぼしじゃなく、一人の友人として」
「………………」
身軽になった心で、コマチは新たに約束する。
「俺がメルを守る。だからメルも俺を守ってくれ。それで足りない部分はきっと補える」
その言葉に、メルは高揚感と共に晴れやかな表情へと変わった。
「……うん!」
と、メルはがしりと抱擁するが、コマチはメルに散々ぶたれた傷が痛み悶絶する。
「あ……ごめん」
脂汗をかきながら「大丈夫」とやせ我慢するコマチを見やり、メルは尋ねる。
「ってことは、コマちゃんもこの世界に残るの?」
「うん、この世界にも世話になった人がいるし、もう逃げないって決めたから。それに、力比べはお前の勝ちだ。敗者は勝者に従うよ」
あのまま続けてもおそらくメルには勝てなかった。スキルの多さもさることながら、気持ちの面でもメルに軍配が上がっていただろうと、コマチはそう思う。
しかし、敗北したにもかかわらず、不思議と気分は晴れやかだった。
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