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47話 白黒つけるなら肉弾戦で


 そしてコマチが案内された場所は……。


「……ここどう見ても闘技場なんだけど?」


 リルテスタの屋敷に建てられた、円状の広間。

 ゲームなどでよく目にする造り。


 ここは本来来客をもてなす為、様々な催しがなされている場所である。


 しかし端と端の入場口にある鉄格子を見ると、逃げ場のない血みどろの戦いを繰り広げていたような雰囲気を彷彿させる。


「別に闘技会をする為だけに利用されとるわけではないぞ。演奏会や演舞などもたまに開催しておるわい」


「落ち着かねえ場所でよくやるな」


「まあ普段は腕試しで人と魔物を戦わせたりしとるが」


「そんな血生臭い場所で演奏会なんかするなよ!」


 この場にいるだけで、血と汗の匂いが漂ってきそうな雰囲気に飲まれていると。

 突然反対側の入場口が開き、フード付きローブを羽織った者が現れる。


 その人物は変わった形状をした剣を地面に突き立て堂々と構えていた。

 刃の中心部が空洞になっており、その真ん中にグリップが取り付けられた異質な両刃の大剣。


 そしてその人物は大剣を支えにしながら、右足を庇うように歩み寄り。


「……いや、あれメルだろ。なんでフード被ってんの?」


 そんな彼女をコマチは冷静にツッコむ。

 顔を隠していても分かるメルを呆然と眺めていると、急にメルはローブをバサリと脱ぎ捨て、何かのパフォーマンスのように片手を上げ人差し指を天に向け叫んだ。


「変幻自在の『ミミックナイト』、藤崎ふじさき 愛瑠める。推して参る!」


「何言ってんだあいつ……」


 いつもの、何かのキャラになりきっているのだと思い、緊迫した気持ちが一気に消沈するコマチだが、となりにいたリルテスタは微笑を浮かべ、肩の力を抜いているコマチの背中を叩いた。


「ほれっ、行ってこい。食事前の腹ごなしじゃ」


「はぁ?」


 意味が分からずリルテスタに聞き返すが。


「死んでしまわぬよう、わしが立ち会いを務めよう。じゃから遠慮なく力を振るえ」


 何故か戦う流れになっている事態を収束させる気もなく、コマチを煽り立てるのだ。


「だからなんでそうなる?」


「互いの気持ちをぶつけ合うには、互いの力を示すのが手っ取り早いからの」


「俺、そういう体育会系のノリ好きじゃないんだけど」


「煮え切らん奴じゃのう。メルのほうは俄然やる気じゃぞ?」


 そう言いながらメルを見つめると、支えにしていた大剣を構え、臨戦態勢をとっていた。

 そんな彼女を見ながら、渋々コマチもメルに近づき。


「あの、さっきはごめんな、勝手に出て行って。反省してるよ。だからこんな茶番もうやめね?」


 戦う前から白旗宣言をするコマチ。

 しかし、依然としてメルは構えた大剣を下ろさない。


「いいよ、その件に関してはもう。アタシもコマちゃんの傷口をえぐっちゃったみたいだし、これでお互いフラットにしよう」


「ああ、悪かったよ。だから――」


「それはそれとして!」


 今のメルに説得は通じない。完全に戦闘モードになっているのだ。


「この際だから力比べしようよ。どっちが強いか白黒つけようじゃないの」


「だからさ、なんでお前と戦わないといけないんだよ。理由が不毛過ぎるだろ」


 そんなメルを刺激しないようになだめるコマチだが。


「また逃げるの?」


「っっっ!」


 胸に刺さる言葉を吐かれ、コマチは押し黙った。


「コマちゃんがどんな人間だろうとアタシは構わない。ただね、知ってほしいんだ」


「……何を?」


「アタシは守られるだけの人間じゃないってこと」


 すると、突然メルから魔力の上昇を確認した。


「【ドラゴン・フォース】!」


 そしてメルは身体向上スキルを唱え、躊躇なくコマチに斬りかかった。


「おいおい……!」


 刃元と中心部、その二か所にグリップが付いた剣を両手で振り回し、コマチの胴体に風圧が襲い来る。


「本気かよっ!」


「そうだよ、けど安心して、ちゃんと鞘は付けたまま戦ってあげるから。これ見た目に反して軽いけど切れ味は抜群なの」


「巻き起こる風圧から安心出来ない重みを感じるんだがっ!」


 などと軽口をたたいているが、コマチも動きに余裕はなく、ギリギリでメルの攻撃を躱している。


「ってかなんだよそのスキル。お前、自分の足で走れるのか?」


「リルから教えてもらった技だよ。これで一定時間は思い通りに動けるんだ……よっ!」


 会話をしながらも、メルの攻撃は休みなく続く。


「それにその武器……」


 コマチはメルの得物を目で追いながら、初めて見るにも関わらず、どこか見慣れた形状であるその大剣に、今更ながら気がついた。


「松葉杖みたいな形じゃねえか」


 それはメルが外に出る際の必需品、足を庇いながら歩行する補助ストックに酷似していた。


「『マツバブレード零壱ゼロワン』だよ。やっぱりこの形が一番手に馴染むからね。メヴィーに作ってもらったわけよ」


「メヴィーって……メヴィカのことか? つーかネーミングセンスだせぇな!」


 いつの間に二人が接点を持ったのか疑問に思いながら、ふと上方にある観客席を見ると、コソコソ隠れるようにこちらを窺うメヴィカを見つけ、コマチは苦い顔をした。


「あいつ……余計なことを」


「コマちゃんだってその腕につけてるクロスボウ作ってもらったんでしょ? 抜け駆けは許さんよ」


 何も言い返せなくなるコマチだが、それでもメルにこれ以上のモチベーションを与えるのは気が引ける。


 この先アストやペストレシアのような強敵が現れた時、自分達の未熟な力では決して勝てない。

 にも関わらず、メルはきっと立ち向かうのだ。

 絶体絶命の状況でも、それを覆せると信じているのだ。


 だからこそコマチは、これ以上メルに冒険をさせたくない。そう思った。


「…………メル、お前は家に帰ることを拒否するんだな?」


「そうだよ、何も解決しないまま帰ったって、後悔するだけだもん!」


 ならばと、コマチは躱し続けていたメルの攻撃を短剣で受け止め。


「じゃあ俺も、力づくでお前を連れ帰るぞ!」


 ようやく、戦う覚悟を決めたのだった。





ご覧頂き有難うございます。

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