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46話 広大なる竜人の国


 ここは鋭く連なる山に囲まれた竜人の国。


 竜人ドラゴニュートやドラゴンは勿論、その他様々な種族が観光に訪れる名所であるが、決してクライミングで登れる山ではなく飛竜や翼を持つ種族がいなければ入国も出来ない自然の要塞でもある。


「…………勢いで出てきたはいいものの」


 そんな広大な国の隅で、リルテスタの屋敷を飛び出したコマチは悩んでいた。


「ダメだ、全然地理が分からねえ」


 出来るだけ遠くへ、いっそ国の外へ出たかったコマチだが、この国の外壁は、遠目から見ても分かるように山岳に囲まれた場所。


 どうやって出ればいいのか分からず、しかしノコノコ屋敷に帰るのも忍びない気持ちが相成り、仕方なく数キロ離れている城下町へと歩き出す。


 そして歩を進めながら思うのだ。


(俺はただ、あいつを危険な目に合わせたくないだけだ……)


 回答の存在しない、自問自答を。


(本当にそうか? 俺自身ビビッてるだけじゃないのか?)


(違う……もう吹っ切れたんだ。俺はあの狂戦士と渡り合えた、今更怖いものなんてない)


(勝ってないけどな……それに、怖いのは別の理由だろ?)


(違う……違う……)


(メルに知られたくなかったんだよな? 臆病で、情けない自分を)


「……違う!」


 もう一人の否定的な自分に向けて、必死に言い訳をしながら。


(震える体を押さえて、平静を装って、逃げ出したい気持ちを紛らせながら、メルに弱いとこを見せたくなくて格好つけてただけなんだよな? えぇ? おい)


「…………俺は」


(だけどお前も知ってるだろ、メルのほうがよっぽど行動力がある。俺みたいにグダグダ悩んだりしない。躊躇なく一歩を踏み出せるやつだ)


「知ってるよ……だからあの日、俺を庇って事故に遭ったんだろうが……」


(ああそうさ、なのに無事だった俺のほうがいつまでも気に病んでいる……おかしいだろ。メルのほうが辛いはずなのにだ)


「……ああ~うるせえなぁ……ごちゃごちゃとよぉ……」


(そんな後ろめたい自分を知られたから、メルに会わす顔がないんだよな。本当に俺は逃げてばかりのクソザコメンタルなガキだよ)



「うるせえって言ってんだろ――」



 と、自分自身に怒鳴りつける途中で、空を覆う程の巨大な影が近寄ってきた。

 コマチは我に返り、上空に浮遊する物体を見つめると。


『目が覚めたか、小僧』


 脳に直接語り掛ける、聴き慣れた声が流れた。


「あ…………ラジエ」


 その正体は、『強欲の巣』で出会った飛竜ワイバーン、ラジエの巨体だった。









 その後、ラジエの背に乗り竜人の国を一周飛び回るコマチ。


『どうじゃ? 鈍った体に新鮮な風を受けるのはなかなかに気持ち良いじゃろ?』


「いや怖いよっ! 手を離したら真っ逆さまに落下するだろうが! せめて速度落としてくれよ!」


『これでも落としておるわ。これ以上はバランスを保てぬのでな、慣れろ』


「くっそ! とんだ命がけの絶叫マシーンだな!」


 などとラジエに文句を垂れながらも。


「…………けど」


 沈んでゆく夕日を横目で眺めながら、一言。


「……ありがとう」


 気持ちを十分に切り替えられたコマチは、軽く笑みを浮かべラジエに感謝を述べる。


「おかげでモヤモヤした気分が晴れたよ」


『ふん、少しは落ち着いたか。ならば少し速度を上げてみるかの』


「いやそれはやめろっっっ!」







 コマチの静止も聞かず、ラジエはスピードを上げ急降下し、近場の殺風景な平地へ着陸した。

 その頃にはコマチの胃は逆流し、青ざめた表情で地面に突っ伏す。


「ああ……くそ、乗るんじゃなかった……」


『だらしないのう、その程度で吐物を晒すとは』


 晴れやかな気分が一転、最悪のコンデションへと変貌するコマチ。


 そんな戯れに興じている時だった。


「ようやっと見つけたわい。……なんじゃ、ラジエとおったのか」


 グロッキーなコマチを見やりながら、リルテスタが迎えに現れる。


「ああ……さっきの、えっと……」


「リルテスタじゃ。まあ好きに呼ぶがいい」


 名前を把握していなかったコマチを気にせず、彼女は話を続ける。


「もうすぐ夕食の支度が出来る。そろそろ帰ろうぞ」


 優しくかける言葉に、コマチは気まずさを感じた。


「その、悪いな、俺の治療もしてもらって飯まで。金は後日払うよ」


「気にするな、『強欲の巣』を壊滅させてくれた礼じゃ。そんなものに気を回すより、お前は先にやるべき事があるじゃろ?」


 と、諭すように問う。

 コマチ自身もそれは分かっていた。


「ああ、メルにちゃんと謝るよ」


 そう返答すると。


「謝るようなことをしたのかお前は? お前なりの考えがあって言い合いになったのじゃろう?」


 不思議そうに見つめて、リルテスタは軽く手招きする。


「来い、屋敷でメルが待っておるのでな」


 彼女に言われるがまま、コマチは再びラジエの背を借りてリルテスタの屋敷へ戻った。




ご覧頂き有難うございます。

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