44話 目覚めた後の世界
一方、『強欲の巣』から生還した一行。
「コマちゃん? コマちゃん! アタシだよ? 分かる?」
先の戦いから二日経った頃、コマチはようやく意識を取り戻した。
「……メル?」
竜人の国へ入国し、今はリルテスタの屋敷にて皆、コマチの回復を待っていた。
長い間ベッドで眠り続けていたコマチは、節々の痛みを感じながら身を上げる。
「メル……俺、どれくらい眠ってた?」
「ちょうど二日くらい。結構無茶したらしいね」
そう言いながら、隣りの椅子に座るメルはそっとコマチの腕に両手を添えた。
「もう起きないかと思った」
俯きながら涙ぐむ顔を隠し。
「すごく心配した」
不満を漏らすように、その腕をギュッと抱きしめ身を預ける。
一応メルを救出する為に負った名誉の負傷なわけで、感謝こそされ、怒られる言われはないと内心思うコマチだが、メルの態度が主人の帰りを待ちわびた飼い猫のように見えた為、己の言い分は脳内で削除した。
「うん、心配かけたな。もう大丈夫だ」
代わりにコマチは穏やかな微笑を浮かべ、周りを見渡す。
「そう言えばここはどこなんだ? やたらと豪華な部屋だけど」
「リルの家だよ。みんなここに泊めてもらってるの」
と、メルは思い出したように立ち上がる。
「そうだ、コマちゃん。ちょっと外見て」
と言って、メルはカーテンを開け、夕焼けの空が映る窓を指差した。
「……なんだ、あれ?」
外の異様な風景を見て、コマチは苦笑いを浮かべる。
それは至る場所に同時発生した、ブラックホールのような黒い渦。
海も陸も空も、何もない空間に現れる不規則な渦。
次元の歪みから生じた、不安定な異常気象だった。
「わかんない。国の兵士さんが言うには、ここだけじゃなくて世界中に発生してるんだって」
言葉もない。ただでさえこの世界の常識を知らないコマチとメルが、世界の住人も知らない異常事態を理解することが出来なかった。
唖然とした表情で外を見ていた時、部屋の扉が開かれる。
「目が覚めたか。体の具合はどうじゃ?」
様子を見に来たリルテスタは、コマチの元へ近寄ると、おもむろに身体中をペタペタと弄り出す。
「えっ……ちょ、何?」
「ふむ、傷も塞がり痛みもなし。後遺症はなさそうじゃな」
彼女流のメディカルチェックを済ませると、二人が見ていた窓の外を溜息交じりでリルテスタも覗いた。
「まあ、目覚めて早々こんな有様じゃ」
「ああ、見晴らしの悪さに思わず二度寝したくなるよ」
「ほっほっ、ならば良い夢が見れるよう淫夢の魔法でもかけてやろうかの」
「お前サキュバスか何かか?」
「この立派な鱗が生えそろった翼と尻尾を見て、性欲を貪る淫魔に見えるか?」
冗談を言いながら、外の景色にやや不快に思ったリルテスタはそっとカーテンを閉めた。
「さて、どうしたものかの……」
世界中で起きている異様な現象に打開策は未だ見つからず。
「あれは空間を移動するゲートと似ておる。近くにいた何人かの者が渦に巻き込まれたそうじゃが、どこに通じておるのかも分からず今も行方不明だと言うておった」
リルテスタの話では、正体不明の黒い渦は常に周囲の物体を吸い込み徐々に肥大しているという。
魔法で作られた空間移動のゲートならば術者が解除すれば済む話だが、世界規模で現れた黒い渦は発生源が不明。人の手でこの規模のゲートを作るのは不可能とされている。
よって、自然発生した渦には対処の仕様がないのだ。
と、そんな時だった。
「ねえコマちゃん、パルカさんなら何か知ってるんじゃないかな?」
ふと、メルが身を乗り出しコマチに伝える。
「アタシ達も元々、パルカさんに空間転移してもらってこの世界に来たわけじゃん。そもそもあの屋敷自体が世界を繋ぐゲートみたいなものだし」
コマチはメルの憶測に納得した。
「いつでも帰れるように親切な、文字通りキーアイテムをもらったしな」
コマチは自分の荷物からパルカの屋敷に通じる鍵を取り出し、寝たきりだった体を無理やり起こす。
「それじゃあ帰るか」
「うん、そんでもって原因を突き止めたら、もう一度ここに戻ってあのブラックホールを消し飛ばしてやんよ!」
「いや…………そうじゃなくて」
やる気に満ちたメルとは対照的に、コマチは決意を固めた様子で否定する。
帰るという意味合いが、メルとは違ったのだ。
「もう帰ろう、俺達の世界に。これ以上は危険過ぎる」
コマチの言葉に、メルはその場で静止した。
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