42話 冷たい瞳
ヴィクスが再びコマチに杖を構えた時、別の場所で瓦礫に埋もれていたリルテスタが起き上がり、焦げ付いた体でヴィクスに歩み寄る。
「わしじゃよヴィクス。わしが二人を縛っていた魂を終わらせた」
「……リルテスタ様」
リルテスタの言葉に、複雑そうに俯くヴィクス。
「ヴィクスよ。そなたは何故力を求める? このような場所に赴いてまで成し遂げたい事とはなんじゃ?」
杖を下ろし、ネクレゾンが手に持っていた苗木を回収すると、ヴィクスは何もない空間から別の場所へ繋がるゲートを開いた。
「皆が苦しむ事のない、平等な世界を創る為……」
リルテスタに返答すると、ヴィクスはそのままゲートの向こうへ踏み入れる。
「もう基盤は出来ている。間もなく完成するんですよ。俺の世界が」
閉じられてゆくゲートの向こうで、最後にそれだけ言い残し、ヴィクスは消えた。
「ヴィクス……そなたには、もうわしの言葉は届かんのじゃな」
もはやヴィクスに説得は通じない。リルテスタは悲壮感に包まれた。
そんな時だった。
「おっしゃあ! 次だ次。今度はどいつが相手だモブキャラ共!」
ボロボロの体で敵から奪った剣をブンブン振り回しながら、メルが勢いよく階段を上がって来た。
「メ……ル?」
重傷を負いながらも、ようやく再会を果たしたその見慣れた顔に安堵したコマチは、メルと目が合うと同時にそのまま気を失った。
「コマちゃん? コマちゃん!」
メルは壁に背を預けたまま倒れているコマチに駆け寄り体を揺するも、依然として目覚める気配はない。
「目を開けてよ! やっと会えたのに……コマちゃん!」
コマチを抱きしめながら叫ぶメル。その様子を見つめるリルテスタは一呼吸置くと。
「今から応援を呼ぶ。皆、ひとまずはわしらの国に来てもらおう。色々と話したい事もあるからのう」
そう言いながら、リルテスタは青白く光る球体を魔法で生成すると、それを地上へ向けて解き放った。
「救難信号を飛ばした。半日もすれば竜人国の兵が駆け付けるじゃろう。『強欲の巣』の元締めがいなくなった以上、ここが壊滅するのも時間の問題じゃ。お主らのおかげじゃよ」
と、メル達に向けて礼を述べるが、とても喜べる雰囲気ではないのは明白。
複雑な心境の中、皆は逃げ出す残党をそのままに、地上へ向けて歩を進める。
その後、リルテスタの救難信号を受けた竜人の兵士が駆け付け辺りは騒然。
他国の法を掻い潜っていた『強欲の巣』、その闇市は一斉に摘発され、裏で関わっていた貴族達ものちに明るみとなり、まとめて捕らえられる事となる。
これにより竜人国を逆恨みし、いずれ対立する国が現れるとリルテスタは推測するが、圧倒的武力を持つ竜人国が優勢であるこの世界においては、国際会議で味方する国のほうが多い。よって対立は彼女にとって左程の脅威とならない。
しかし、のちに起こる世界を揺るがす問題は、そのような甘い事ではなかった。
一人の魔導士によって、世界は政治的な問題が安く思える程に、事態は深刻に悪化し始める。
それは、コマチとメルが彼女の祖国に身を置いて、程なくした頃に起きた。
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