41話 対峙する闇市の支配者
「まるで子供騙しのようですね~」
そう言うと、ネクレゾンを覆っていた水の壁は、彼が懐から出した盆栽の如き小型の苗木にみるみると吸い込まれていった。
「なんじゃと!」
予想外の事態にリルテスタはたじろぐ。
「この世界に二つとない至宝、『ユグドラシル』です。ヴィクス様はこれを『アーティファクト』と呼んでおりました」
それは数ある世界に必ず一つだけある伝説級のアイテム。世界の基盤とも言える重要な要。それを手にした者は世界そのものを動かせる、貴重で、それ故危険なアイテムだった。
「これがあれば魔力の源、マナを無限に生み出す事が出来るのです。同時にマナの吸収、そして魔力の向上も容易い。……こんな風にねっ!」
突如、ネクレゾンから発せられた強力な波動を受けたリルテスタは力が抜けたようにひざをついた。
「魔素封印でございます。強化された【マジック・シール】は効くでしょう?」
「おのれ……小僧が!」
「【インフェルノ】」
そして続け様に、ネクレゾンは強力な業火の魔法を直撃させ、その勢いによってリルテスタは壁淵まで吹き飛ばされた。
「素晴らしい! これこそ神が与えたもうた無限の力」
自身の放った魔法の威力に光悦な表情を浮かべている隙を突き、コマチはネクレゾン目掛けて矢を放つ。
「……何か?」
しかしその矢はネクレゾンの前で壁に当たったように弾かれ地面に落ちた。
「お前、この間うちの連れをさらった奴だよな?」
ネクレゾンはコマチを凝視する。
「おお~あの時の勇敢な少年ではないですか。まさかこんな所まで追って来るとは」
「御託はいい。メルはどこだ?」
コマチは再びボウガンをセットしネクレゾンに標準を合わせると、男はニヤリと笑みを浮かべコマチを見つめた。
「あの子でしたら、先ほど下の階で暴れ回っていたようですので、何人か兵を送りました。間もなく捕らえられるかと」
「そうか……生きてるんだな」
それを聞いたコマチは先ほどよりも力を込めた【ペネトレイト・ショット】を放つ。
「無駄ですよ。私の魔障壁は今や無限。マナがある限り決して破れません」
言葉通り、コマチの放った矢はまたもや弾かれる。
「魔力を込める時間が不要で、かつ、無限に魔法が使える今の私にあなた方が抗う事は叶わぬと知りなさい」
ネクレゾンは『ユグドラシル』を天に掲げる。すると、天井から次々と巨大な氷柱が生成された。
「後悔なさい。神の力を手に入れたこの私に矢を向けた事をねえええ!」
掲げた両手を振り下ろすと同時に、巨大な氷柱は勢い良く落下した。
が、しかし。
落下した先はすべてネクレゾンの元へと終着する。
「がっ……ふ……?」
何が起きたのか分からず、魔障壁をすり抜けくし刺しとなった自分の体をただ見つめるネクレゾン。
「勝手に俺が集めた物を盗るな。それはお前ごときが易々と触れていい物じゃない」
背後からの声に震えながら振り向くと、そこには杖を構えたヴィクスが立っていた。
「ヴィ……クス……様?」
「【ディスペル】」
そして、ヴィクスはネクレゾンに向けて解呪の魔法を唱えると、全身に刺さっていた巨大な氷柱が消滅し、同時に貫通した風穴から惨たらしく血が噴き出す。
「お前こそ後悔するんだな。俺の邪魔をした事を」
恐怖の目をしたネクレゾンは、そのまま血の海となった地面に倒れ、絶命した。
汚物を見るような目で死体を眺め、そしてヴィクスは周囲を見渡す。
「アスト……ペストレシア……」
灰となったかつての仲間の気配を感じとり、コマチとメヴィカを見つめた。
「お前達がやったのか?」
それは静かな殺気。しかし悪寒がする程の冷たい殺気だった。
コマチはそんなヴィクスに気圧されながらも、しかし、この男は以前自分とメルを助けてくれた青年だと気づき、武器をしまい返答した。
「待ってくれ。あんた、前に俺とメルを助けてくれた人だろ? どうしてこんな場所に?」
コマチがゆっくり近づくと、突如、ヴィクスは風の魔法を唱えコマチを壁際に叩き付けた。
「があっ……」
強い衝撃に打たれながら、コマチはその場に倒れる。
「質問に答えろ。それと、俺はお前を知らない。慣れ慣れしく近づくな」
実に淡々としていながら、それでいて高圧的だった。
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