40話 決着の後に……
戦意喪失したペストレシアの体が徐々に朽ちてゆく。
「アスト……今まで付き合わせて悪かったわね」
ペストレシアの言葉を理解したアストは、静かに眼を瞑る。
「出来れば、ヴィクスの創る世界をこの目で見たかったがな……お前、もう魔力が残ってないんだろ?」
灰のように崩れゆく己の体を見ながらペストレシアに返答した。
「ええ、もう体を修復する力もないみたい」
彼女の使った器と魂を括る呪術は、自身の持つ魔力供給によって繋がっていた。
その供給がなくなった時点で、彼女達はただの人形と化す。
アストはコマチに向き直り、最期の言葉を告げる。
「おい小僧、勝負はお前の勝ちだ。良かったな」
その言葉に、コマチは眉間にシワを寄せながら反論した。
「ふざけんな! まだ俺は何もしてねえだろ、勝手に終わらせるんじゃねえ!」
苛立つコマチを見ながら、アストは今までにない穏やかな笑顔を向ける。
「お前は昔の俺によく似ている。自分の力量も分からず、気だけが急く馬鹿な小僧だ。俺はただ、お前に同族嫌悪してたんだよ」
体が半分以上崩れ、地面に顔を落としながら、それでもアストは口を止めず、コマチに年長者のアドバイスさながらの皮肉を言う。
「臆病なお前じゃ長生きは出来ねえだろうが、もし本当に守りたいものがあるなら強くなれ。……俺のようにはなるなよ、クソガキ」
それだけ言い残し、アストは完全に灰となり掻き消えた。
「………………」
コマチは何も言わず、アストがいた場所をただ見つめていた。
程なくペストレシアも消える直前、リルテスタに向け遺言を残す。
「リルテスタ様、私はあなたを慕っておりました」
「……そうか」
「最期に一つだけ。どうか、種族性別階級に囚われず、全ての人々に平等な未来を……」
リルテスタは溜息を吐いた。
「もとよりわしはそのように接してきたつもりじゃがのう。如何せん、人の業によって醜い争いが絶えぬ世の中じゃ。この『強欲の巣』のように、わしも輪廻の渦に飲まれていたのやも知れんな」
すでに顔だけが残った状態のペストレシアは。
「ならば、ヴィクスに協力して下さい。彼の創る新しい世界を……あなたも」
その言葉を最期に、彼女もまた灰となって消えた。
リルテスタはその場で物思いにふける。
「……ヴィクスよ、そなた一体何をしようとしておる」
弟子の最期を見届け、感傷に浸るリルテスタ。
しかしそんな中。
「素晴らしい、さすがは世界に名高い知恵と力をお持ちのティアマト様ですな」
フロアの端からリルテスタに一人拍手喝采を浴びせながらその男は現れた。
「貴様か……この忌々しい場所を作った張本人は」
堂々とした様、身なりから、この道化の男が黒幕だと推測するリルテスタ。
その男は、以前エルマラントでメルを連れ去った男だった。
「あいつは!」
その姿を見た瞬間、コマチは脳天から怒りが沸き上がる。
「ネクレゾンと申します。どうぞお見知りおきを、ティアマト様」
丁寧な辞儀を済ませると、男はリルテスタに近づく。
「ペストレシア様とアスト様には大変お世話になりまして、私としても惜しい人材をなくしたと、嘆き悲しむ所存でございます」
ネクレゾンはわざとらしく泣き真似を見せながら、「ですが……」と数秒後にはケロッと不敵な笑みを浮かべる。
「彼らのおかげで強大な力を手に入れる事が出来ましたので、役目を終えたお二方には申し訳ないのですが、正直邪魔者が消えティアマト公には感謝の言葉もございません」
そのじっとりとしたニヤつきにリルテスタは不快に思う。
「その目をやめよ。全身を舐め回されているようで実に不愉快じゃ」
「これは失礼。潔癖な竜人の公爵様にとんだご無礼を」
と、思ってもない謝罪を述べるネクレゾンを威圧するように殺気を放つ。
「おっと、【アンチ・フィアー】」
リルテスタの殺気を込めた威圧は、並みの者ならば失神するほどの恐怖を植え付けるものであるが、ネクレゾンは恐怖無効の魔法を唱えそれを拒絶した。
あまりにも緊張感のないその男を怪しく思い、リルテスタは探りを入れる。
「貴様随分と余裕じゃが、何か策があるのかのう? 貴様程度、その気になれば片腕で首をへし折れるぞ」
「あなたにその気がないからですよ。お優しいティアマト様ですから」
すべてを知ったように、ネクレゾンは語った。
「私から何も情報を聞き出さずして、私を殺すメリットはあなたにはありませんよね?」
リルテスタは舌打ちをしながらネクレゾンを睨む。
「賢いあなたは感情のまま動く事はしない。私を生け捕りにして各国に散らばる私の仲間の情報を吐かせたいのでしょう?」
溜息を吐きながら、リルテスタは開き直った様子で自身に魔力を集めると、ネクレゾンの周囲に水流を発生させた。
「なら話は早い。これから貴様をわしの国へ連行する。抵抗しないよう【アクアプリズン】で拘束させてもらうぞ」
水流の壁によって脱出不可能な檻に入れられたネクレゾン。
しかし、彼は笑っていた。
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