38話 再戦
メヴィカとペストレシアが対峙している時、コマチは大砲の如くアストに斬りかかる。
しかしその高速移動スキルを以てしても、アストは両手剣でコマチの猛進を受け流した。
受け流された勢いで地面に砂煙が立つ程ブーツを擦りながら後退するコマチ。
食いしばりながらその勢いを止めると、再びアストに接近し、全身のバネを駆使して曲芸の如き動きを見せる。
回転しながら斬り上げ、回し蹴り、振り下ろし、刺突、高速の連撃を振るいアストに食らいつく。
アストもまた、コマチと比べてリーチが長く至近距離では不利な両手剣を最小限の動きで抑え、受け流す。
「……この間よりスマートな動きになったじゃねえか。たった数日でこうも変わるもんかよ。それとも前に戦った時はわざと弱いフリをしてたのか?」
コマチの鋭い体術をさばきながらアストは思う。
急激な成長を遂げたのか、はたまた元から持っていた力なのか。いずれにせよ、以前とはまるで別人の動きをするこの男は、自分にとって厄介な敵だと認めるには十分だった。
「くく……おもしれえ」
それと同時に、アストの闘争本能が刺激される。
「前回醜態を晒した事は忘れてやる。だから、俺をもっと楽しませろ!」
死闘こそが己の生き甲斐。窮地の緊張感こそが至福。
この斬り合いの最中でさえ、徐々に動きが研ぎ澄まされてゆくコマチの目まぐるしい成長に興奮が止まない。
「悪いがお前を楽しませる程時間に余裕はねえんだ。だから……さっさと倒れろ!」
一瞬の隙を突いてコマチはアストの脇腹に蹴りを加え、よろめくアストに短剣を斬り付ける。
するとアストの傷口から焼けたような煙が噴き出した。
「ふっ……くく」
神聖属性の刃で斬られた箇所をさすり、なおもアストは笑う。
その不気味さに、以前なら恐怖していたであろうコマチの心は、今は自然と落ち着いていた。
「ようやく一太刀浴びせたぞ。やっぱりお前の体も不死化してるんだな」
「ああ、俺は一度死んでるからな。あっちにいるペストレシアの術で、体と精神を括り付けてるだけだ」
ペストレシアの【ネクロマンサー】としての能力、【レイズデッド】。
その体には血が通っておらず、物理的な攻撃による痛覚もない。さらに酸素がなくとも活動出来る為呼吸も睡眠も必要なく、魂が器を拠り所にしている限り常に再生し続ける。
それは人間とは程遠く、魔導生物であるゴーレムに近い存在だった。
「神聖術にめっぽう弱いのが欠点だが、これはこれでいいもんだ。何せいくら動いても疲れないからな」
アストは目の前で息切れを起こしているコマチを見ながら自分の優位性を自負する。
「さて、そろそろ俺も剣技を使うか。お前は本気を出すに値する」
突如、アストが両手剣を構えると周囲に重い空気がほとばしる。
時を同じくして、メヴィカとペストレシアも終局を迎えようとしていた。
「そろそろ弾切れかしら?」
幾度となく召喚された魔物を立て続けに撃ち抜いてきたメヴィカの銃弾はすでに底を尽きていた。
唯一ペストレシアに対抗出来る武器が使えない以上、メヴィカに勝機はない。
「それじゃあ、終わりにしましょうか。【デモンズアーム】」
ペストレシアが呪文を唱えると、彼女の真横から黒い空間が浮き出し、そして巨大な怪物の腕が飛び出る。
同時にアストもコマチに向けて強力な剣技を振るった。
「凌いでみろよ。【アロゲント・グリムリーパー】」
アストが唱えると、手に持っていた両手剣から黒い霧が溢れ出し、やがてその霧は百メートル程の刃渡りを模った長剣となりコマチの首元目掛けて振るわれる。
コマチとメヴィカは互いに反応出来ず、回避が遅れた。
圧倒的な力の前に、二人の命が潰える――。
その瞬間だった。
「【ブレイク・ストリーム】!」
上空からの叫びと共に、声の主は両手から水流を生み出し、コマチとメヴィカ双方の眼前に激流の水柱を落とした。
その威力によってアストとペストレシアが放った両方のスキルを相殺する。
そして、水魔法を放った声の主は背中の翼を畳み垂直に地面に着地した。
「危ないところじゃったのう。人間の子らよ」
幼い外見の竜人はニヤリと笑みを浮かべて双方を窺う。
「え……誰?」
コマチは首を傾げながら命の恩人を不思議そうに見つめた。
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