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百ある世界の片隅で〜幼馴染みと共に世界を救う物語〜  作者: 若取キエフ
動乱の大監獄編 (メルルート)
35/72

35話 黒幕の青年


 スティオラの問いには答えず、ヴィクスは彼に聞き返した。


「お前こそ、何故こんな監獄にいる? ここの奴らにはお前に手を出さないよう言っていたはずだが」


「……それは」


 スティオラは言い辛そうに口ごもる。


「お前が仕えているエルマラントの現王に売られたか?」


「違う! あの人はそんな事は絶対にしない。僕が王の身代わりを買って出たんです。最近王族貴族を狙った輩がいると噂を聞いていたから」


 スティオラはヴィクスに強く反論する。

 その様子にヴィクスは深い溜息を吐き、諭すように言った。


「好きに生きろとは言ったが、王族に仕えて良いとは言っていない。ましてやお前を含めた家族や友人を殺したエルマラント王の血族など……。五年前、俺が蘇生してやらなければ、お前は今も魂を縛られたまま深い眠りについていた。せっかく拾った命を無駄な事に使うな」


 スティオラはグッと歯を食いしばり、ヴィクスと向き合う。


「兄さんには感謝している。勿論アストさんやペストレシアさんにも。家族を失った苦しみも痛い程分かるよ。僕も同じだから。……だけど、今は過去に愚行を働いた人達はもういない、兄さん達がみんな殺したから。なのに、何故兄さん達は未だに恨むのですか? 今の王族や貴族は関係ないじゃないか!」


 ヴィクスは首を横に振った。


「この世界に住む者が平等でない限り、支配する者がいる限り、争い、略奪は決して絶えないぞ。この大監獄を見てもそうだ。弱い者は強欲な支配者によってすべてを奪われる。そんな世界を変える為に、今はこんな場所でも利用しているんだ」


 スティオラは俯きながら、ヴィクスに告げる。


「今の兄さん達をシュゼルシュタさんが見たら……きっと悲しむだろうね」


 弟からの一言に、ヴィクスはピクリと反応した。


「……この件にシュシュは関係ない。結果的にシュシュの願いを叶えられるなら、その過程でいくら手を汚そうとも構わない」


 そう言って、ヴィクスは静かに去ってゆく。


「スティオラ、俺の邪魔だけはするなよ。たった一人の家族を、俺は殺したくない」


 去り際にスティオラに忠告し、そのまま上の階へ姿を消した。

 兄の後ろ姿を目で追った後、スティオラは未だ倒れたままのメルを見やる。


「メルさん、立てそうですか?」

「平気……ありがと」


 傷は治ったが、必要以上に体力を奪われたメルは四つん這いになりながら必死に立とうとするものの、力が入らずその場に倒れる。


 見かねたスティオラは肩を貸してメルを担ぐように立ち上がる。


「一旦保管庫に戻りましょう。テルミラちゃんもいますし、僕の杖も探さないと」


 そんなスティオラにメルは問いかける。


「あの人、スティ男君のお兄さんだったんだ」


「ええ、まだ小さい頃、体の弱かった僕をいつも気にかけて守ってくれる、とても優しい兄でした。……あのような冷たい目をする人じゃなかったんです」


 ひどく落ち込んだように呟く。


「たしかに、以前会った時はあそこまで敵意を向けるような人じゃなかったような……表情は変わらなかったけど、もっと正義感に満ちたような感じだったかな~」


 メルも数日前の事を思い出し、ヴィクスの反応を不思議に思う。


「そういえば兄さんに一度会ったと言ってましたね。それはコマチさんと同じ世界での話ですか?」


 スティオラは先程のメルとヴィクスの会話を聞き、どういう経緯で知り合ったのか気になっていた。

 同じくスティオラとヴィクスの関係を知りたかったメルは。


「それじゃあ、歩きながら話そうか。スティ男君の事も色々聞きたいし」


 保管庫に向かう間、二人はお互いの情報交換しながらヴィクスに関する記憶をまとめた。









「そうですか……兄さんがこの世界へ来るよう促したのですね……」


 無事保管庫まで戻った二人は、各々準備を整えながら馴れ初めを語る。


「けど、さっき会った時はまるで初対面みたいな態度取られたンゴ」


 スティオラは「ふむ……」と口に手を当てながら考え。


「どうしてお二人の前に現れ別世界へ飛ばしたのかは分かりませんが、兄さんが世界を変える革命家として動いているのは、かつての仲間の為なんだと思います」


「……仲間?」


「昔、この世界を魔王が支配していた時代、魔王討伐部隊だったシュゼルシュタ・ミュゼットという英雄がいたんです」


 忌まわしき過去を振り返り、その重い口を開きメルに伝える。


「彼は兄さんと共に見事魔王を討ち、世界に安息をもたらしました。……けれど」


 しかし、続きを話す彼の表情は沈んでいた。

 

「平民の出だった彼が栄誉を得る事に、一部の王族、貴族が良く思わなかったんです。そして、シュゼルシュタさんは魔王討伐の翌日、暗殺されました。毒を盛られて」


「そんなっ、みんなの為に世界を救ったのに、なんでその人が殺されなきゃならないの?」


「家名を重んじる人は少なくないですからね、どこの馬の骨とも分からぬ者より、名の知れた貴族を表に出すほうが政治的に都合が良かったのでしょう」


「そんな勝手なっ…………」


「ええ、勝手です。そのせいで彼だけでなく、共に戦った仲間、そして、その家族……皆殺されました。こうして立っている僕も、一度は命を奪われているんですよ」


 するとメルは首を傾げた。


「死んだってこと? じゃあここにいるスティ男君はなんなの?」


「大虐殺があった頃、僕の魂だけは先程の女性、ペストレシアさんに回収されていたんです。その後長い年月を経て、兄さんが世界を移動する力を手に入れてから、どこかで死者蘇生のアイテムを見つけてきてくれたそうです。そのおかげで僕は――」


 と、話しの途中だった。


 突然保管庫内へ警備兵がぞろぞろと集まり、メル達を取り囲む。


「長居し過ぎましたか……」


「こんにゃろー、次々とアタシらの邪魔しよってからに」


 メルは拳をコキコキ鳴らし、戦闘態勢に入る。


「スキル持ちなら、せいぜいアタシの糧になってもらうぞモブキャラ共!」


 そして、メルは錆びたレイピアを抜き、真っ向から兵士に突撃した。




 この『強欲の巣』を壊滅させる為、コマチと再会する為。

 大監獄で巻き起こる騒動は、終局へ向けて動き出す。




ご覧頂き有難うございます。

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