31話 別行動
中で正座をしながら待機していた魔導士風の少年はゆっくりと立ち上がり、鉄格子の前で手をかざす。そして――。
「【ディストラクション】」
少年がそう唱えると、破裂音と共に目の前の鉄格子が粒子となって消滅した。
そして落ち着いた足取りで、リルテスタの元へと近寄る。
「僕の事、ご存じだったのですか? ティアマト公」
「リルテスタでよい。こうして顔を合わせるのは初めてじゃな。『大魔導士』スティオラ・メギオ。そなたの兄から多少話は聞いておる」
見た目はまだ幼さが残る少年、スティオラはリルテスタに一礼すると。
「ではリルテスタ様、僕はあなたに協力しましょう。丁度、僕の協力者もこの大監獄へ来たようですし」
スティオラは一瞬メルと目を合わせながら、リルテスタと共に戦う決意をする。
「良い判断じゃ。ではわしは、ここの敵将を討つ。その間、そなたらは可能ならば地上へ脱出するのじゃ。仕事を終えたら戻って来る故」
メルとテルミラを見ながら、一番の戦力であるスティオラに二人を託す。
「承りました。それでは……」
「うむ。……テルミラ」
寂しそうに見つめるテルミラを、リルテスタはそっと抱いた。
「大丈夫じゃ。一仕事終えたら必ず戻ってくる。わしが戻ったら、我が友の飛竜に乗って竜人の国へゆこう。帰る場所がないのなら、わしの家に住むがよい。お前をメイドとして雇ってやろうぞ」
それはテルミラにとって、何よりも嬉しい言葉だった。
安心できる誰かと共にいられる。それだけで身寄りのない少女の心は歓喜に満ちていた。
「うん! 約束!」
「ああ、約束じゃ」
そう言いながら、ゆっくりとテルミラから離れる。
「というわけじゃ。スティオラ、そしてメルよ、わしの使用人となる者を何としてでも守り抜け。無事完遂したら後で望む褒美をくれてやろう」
二人に念を押し、「それではな」と、上の階へ走り去った。
「さて、リルテスタ様に重役を任されましたので、僕達も安全な場所へ向かいましょうか」
スティオラに促されるメル。と、メルはスティオラをじぃっと見つめていた。
「あ、あの、メルさん? 僕に何か?」
「いや~なんかね、ロリババアのリルに純正ロリのテルちゃん、そして美少年ショタっ子のスティ男君と……こう、次々アタシの前に幼き子達が現れると、新たに年下趣味が開花しそうな予感がしないでもないんだよね」
すごくどうでもいい感想を述べるメル。
「いや、年齢はあなたとそんなに変わらないと思うのですが……」
「その知的な雰囲気もグッドだね。ハグしていい?」
「嫌ですよ! ……コマチさんも変わったご友人をお持ちで」
ボソッと呟くスティオラの言葉に、メルは目を丸くした。
「えっ、えっ? なんでスティ男君がコマちゃんのこと知ってんの?」
驚くメルに、スティオラは微笑を浮かべながら答える。
「あなたのこと、ずっと心配していましたよ。この大監獄まで乗り込んで来ちゃうくらいにね」
予想しなかった事実に、メルはポカンと口を開けたまま静止した。
「コ、コマちゃんが……こんなところまで?」
「ええ、大事にされているのですね」
ふと、自分の瞳から流れる涙を隠そうと、ふいっとメルはそっぽを向いた。
「も、もう、心配性だなぁコマちゃんは……ホントに昔から変わらんのだから……」
などと言いながらも、内心メルは嬉しく思うのだった。
そして気持ちを切り替え、メルはテルミラを守る為、そしてコマチと再会する為に鉄格子の中から外へ出ると。
「おい、待て! 悪いがここを通すわけにはいかねえんだ」
半ば忘れ去られていたハイオッドが突如三人の前に立ち塞がる。
「竜人の嬢ちゃんが抜け出したというだけで俺はもう終わりだ。粛清と称して殺されるだろう。だが、それに加えて『大魔導士』のあんたまで逃げられたら、俺の首一つじゃ足りねえんだ」
三人に恨みなどない。しかしハイオッドは止めなくてはならない理由があった。
彼には娘二人と、息子がいた。自分の子ではない、テルミラと同じ孤児である。
「ここで逃げられたら、俺の大事なガキ達が奴隷にされ、俺の失態を償う為に死ぬまでこき使われる」
この、決して誇れる職場ではない場所で、非情になりきれない男の良心が揺り動かされ、なけなしの金をはたいてその子供達を買ったのだ。
「あいつらには未来があるんだ! 何も親らしい事をしてやれなかったが、せめてあいつらには幸せに生きていてほしい。……身勝手なのは重々承知している。だが、頼む! ここから出ないでくれっ!」
ハイオッドは涙ながらに剣を構え、決死の覚悟で道を阻む。
それを黙って聞いていたメルはスティオラに一つ尋ねた。
「ねえスティ男君、アタシもリルと一緒にここ、潰しちゃっていいかな?」
少し考えながらスティオラは。
「お二人の安全が最優先なのですが……本音を言えば僕も同じ気持ちです。諸悪の根源を叩く事が、ひいては僕が仕えている国を守る事に繋がりますので」
と、控え目に賛同した。
「テルちゃん、アタシが必ず守るから、もう少しだけ付き合ってくれる?」
メルのお願いにテルミラも「もちろん」と頷く。
方針が固まり、迷いがなくなったメルは再びハイオッドと向き直る。
今にも押し通りそうな三人に向け、ハイオッドは剣先を向けた。
「おい待てよ! 本気で言ってんのか! 行くなら俺を殺してから行け。言っとくがタダで死んでやるつもりは――」
男が言い切る前に、メルは強化された体で瞬時に男の懐にしがみつく。
「やっぱりおじさん悪い人じゃないね。ちょっと待っててね、アタシがここを潰しておじさんを自由にしてあげるから」
そして、吸血鬼の女店主、エーテラルからもらったスキルを放つ。
「【アブソーブ・エナジー】」
「おぅ? お……」
不意に体力を奪われたハイオッドは力が抜け落ち、その場に倒れた。
「出来るだけ苦しめないで気絶させるにはこれが一番いいかも」
「その……なんか卑猥なスキルですね」
スティオラは頬をそめながら自前の帽子で視界を隠し、気まずそうに言った。
「体力を吸収して骨抜きにする技だしね。子供にはまだ早かったか」
「だから僕を子供扱いしないでください!」
未だ自分を下で見るメルに不機嫌になるスティオラ。だが気にせずメルはこれからの行き先を決める。
「それじゃあまずは、アタシの荷物を取り戻さないと。いつまでもこの不衛生な服じゃ嫌だし」
メルは自らの衣類を両手でグイグイ伸び縮みさせる。
「なら最初に保管庫へ向かいましょう。彼らはそこで奴隷が身に着けていた物を売れる物と売れない物に仕分けているんです。僕も愛用の杖を取り戻したいので」
こうして、三人は一先ず保管庫へ向かう事に。
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