30話 脱獄の兆し
突然の侵入者にフロアは騒然。
「な……この大監獄に侵入者? 数は?」
「二人だけだ。だが奴ら、ワイバーンの檻をぶち壊しやがった! 今上のフロアを滅茶苦茶に暴れてこっちに向かって来ているらしい。十数人がかりで麻酔矢を放ってるがビクともしねえとか……。おっさんも早く来てくれ!」
「え、お、おう」
上の階で暴れている飛竜。
彼は元々リルテスタと『強欲の巣』へ偵察に来ていたのだが、二人は不意打ちに遭いこの大監獄へ捕らえられてしまった。
飛竜を彼らの手中に収められたリルテスタはやむなく投降し、現在に至る。
だが、今この瞬間、謎の侵入者の手によって彼女の友である飛竜は自由の身となった。
もはや大人しく捕まっている理由がなくなったリルテスタはニヤリとほくそ笑み。
「……意外と早く時が来たのう」
この好機を逃す術はないと、ゆっくりと立ち上がる。
そして、この異変に気付いたペストレシアも上の階にいた監視員に近づき、落ち着いた対応で警備の男に命令を下した。
「状況は分かったわ、私が対処しましょう。一応アストにも声をかけておいて」
そしてリルテスタをチラリと見て。
「すみませんが、リルテスタ様のお連れのワイバーンがお冠のようですので、私が行って沈めてきます。悪く思わないで下さいね?」
笑みを崩さず、これから荒事を起こす気でいるペストレシアは、形だけの承認をリルテスタに乞う。
「ハイオッドさん、あなたはここにいて下さい。見張りが不在だと心もとないので」
「はっ! かしこまりました」
ハイオッドに待機命令を出したペストレシアは警備の男と共に上の階へと向かって行った。
残されたハイオッドは、肩を撫で下ろし安堵のため息を吐く。
「よかった~、俺もドラゴンの相手をさせられるかと思って内心ヒヤヒヤしたぜ……っておい、あんた、何してんの?」
その安心しきった表情も束の間。リルテスタは自らの両手両足に着けられている拘束具の鎖をギチギチと限界まで引っ張っていた。
「いやいや、無理だから! それミスリル合金で出来てる上に魔力無効化の刻印も刻まれてるんだぞ? 魔法も効かないのにどうやって引き千切るんだよ!」
焦り出すハイオッドに向け、余裕の笑みを見せるリルテスタ。
「魔法? そんなもの必要ないわ」
全身に力を入れたリルテスタに、拘束具は悲鳴を上げるようにピシピシとヒビ割れる。
「確かに並の人間には無理じゃろうな。じゃが、竜人の、しかも、よりによってわしの身体を縛るには、ちと簡易的過ぎるじゃろう」
そして「ふんっ!」と一声発すると同時に、リルテスタを縛っていた拘束具はバラバラに砕け散った。
「はっ? ……えええええ!」
ありえないという状況に驚愕するハイオッド。
「こんなもの、力づくでどうとでもなる」
拘束具の破片をパラパラと掌から振り落とし、その光景をまじまじと見ていたメルに視線を向ける。
「メル。そなたスキルコピーが出来ると言っていたな? なら、今からスキルを一つ見せてやろう」
リルテスタはメルとテルミラに装着していた拘束具をせんべいを割るようにパキパキ壊すと、全身に気を巡らせる態勢をとり。
「【ドラゴン・フォース】」
リルテスタが一言唱えると同時に、それを見ていたメルの脳裏に新しい記憶が刻まれる。
「おお~、肉体強化のバフが付くのか。これはアタシにうってつけなスキルだね」
一瞬で、メルは技の効果を把握した。ちなみに『バフ』とはステータス上昇効果を表すネット用語である。
そして、すかさずメルも同じように力を溜めるポーズをとり。
「【ドラゴン・フォース】!」
同じようにスキルの名を唱えると、メルの全身に力が湧いてくるのを感じた。
「ん? あれ?」
そしてメルは自らの変化に気づく。
「右足が動く……立てるっ! 歩ける! 飛べる!」
肉体強化のスキルによって、動かなかった右足に再び神経が宿ったのだ。
「うそ……夢みたい」
一時的ではあるが、自分の力で地面を踏みしめられることに嬉し涙を滴らせ、その場で足踏みしたりジャンプしたりと、無邪気にはしゃいでいた。
「リル、ありがとう! アタシ今期一番の歓喜に満ち溢れてるよ。もう満ち溢れすぎて満ち有りふれてるよ!」
「良い。気にムラがあり粗削りじゃが、しかし竜人の強化スキルをこうも簡単に習得するか……。やはりそなたは面白い奴じゃのう」
それを見たリルテスタは満足気に笑い、正面にある鉄格子に向け正拳突きの構えをとる。
「すまんが小僧、時間がないので押し通るぞ」
突風の如く突き付けた拳は、鉄格子に触れた瞬間――。
ミスリル製の金属だけでなく、風圧による衝撃で周辺の壁や地面が一瞬のうちに削られ、吹き飛んだ。
リルテスタの前方周囲に、まるで巨大なミサイルでも撃ち込んだかのような跡が残る。
そんな爆風をスレスレで横切られたハイオッドは開いた口が塞がらず、遅れて来た冷や汗滴り、死を覚悟した。
「よし、開いたぞ。メル、そなたはテルミラを安全な場所まで連れてゆけ」
「リルはどうするの?」
「わしはまだやる事が残っておるのでな、仲間と合流した後、少しこの内部を調べるとしよう。それから――」
リルテスタは奥の牢に視線を向け、中の人間に聞こえるように叫んだ。
「そなたはどうする? 先程ペストレシアに言い寄られていたじゃろう? ここで大人しく時を待つか、あの小娘に協力するのか、はたまた……わしと共にここの団体を壊滅させるか、選ぶがよい」
その者は、リルテスタを見ながらクスリと笑った。
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