29話 公爵様の考察
「はっ! わし程度の力で何が出来る?」
リルテスタはペストレシアの話しを一蹴した。
「ご謙遜を。あなたの名前を出すだけで各国の権力者があなたの為に動きましょう。それだけで私共は仕事がしやすくなりますので」
しかしなおも食い下がる彼女に、再びリルテスタは無言のまま思考する。
「私は他にも回る所がありますのでここで失礼させて頂きます。リルテスタ様、良いお返事を期待してますね」
早急な答えは無理だと理解したペストレシアは一旦引き、別の牢獄へと移動した。
話が終わるのを見計らい、メルはリルテスタへ詰め寄る。
「リル、さっきの人って誰? テルちゃんがずっと怯えたままアタシから離れないんだけど」
リルテスタは奥で別の囚人と話しているペストレシアを眺めながら呟く。
「昔の、人知れず魔王を倒した者の仲間じゃよ。昔あやつに魔術を教えてやった事があってな」
「昔って……さっきの人もそうだけど、リルってば今いくつ?」
「ほっほっ、百を越えた辺りからよう覚えておらんわ」
笑いながらメルの質問を受け流すリルテスタ。
そこでメルがぼそりと――。
「俗に言うロリババアか……」
その意味は分からずとも、何か馬鹿にされたような一言に、リルテスタはメルにメンチを効かせるように睨み付ける。
「おいこらメル! 今すごく失礼な事言ったじゃろ?」
「いやいやいや、貴重なステータスを拝んでるんだよ! その手の愛好家達にはたまらない萌え属性だし!」
「いらんわそんなもん! …………ったく。そんな事よりも、おい小僧」
リルテスタは話を変えるべく不意打ちで鉄格子の外にいるハイオッドを呼びつけた。
「えっ、俺のこと? いや、さすがにこの中年体型で小僧は無理あるだろ」
突然小僧呼ばわりされたハイオッドは何とも複雑な気持ちになり、自虐を漏らしながらも手招きする彼女の元へ渋々近寄る。
「わしからしたらメルもお前も大して変わらんわい。そんな事はどうでもよい。ペストレシアはいつからこの仕事をしておるのじゃ?」
雑な扱いを受けるハイオッドは「なんでここの奴隷はみんな俺に強く当たるんだ?」と呟きながらも、リルテスタの質問に返答する。
「最近この『強欲の巣』の元締めである会長が傭兵として雇ったんだよ。ペストレシア様ともう一人、アストって人がいてな。狂戦士って言うのか? 戦う事が生きがいみたいな。いや、ホントさ、メルって言ったか? お前逃げ出すとか易々と言うもんじゃないぜ。簡単に消されちまうからよ」
興奮気味に話すハイオッドにやや不機嫌になるメル。その横で、リルテスタは「なるほどあやつもか……」と、顎に手を添えながら呟く。
(あの二人が絡んでいるという事はもう一人の……)
リルテスタは思考を張り巡らせながら、奥の牢獄でペストレシアと話している、魔導士のような格好の少年を見やる。
(あやつの兄も動いておるのじゃろうな。……やれやれ、早急にここから出て女王に報告せにゃならんが、抜け出すにはもう少し人手がほしいのう)
虎視眈々と、彼女は作戦を練るのだ。
「リル? どうしたの、さっきから黙っちゃって」
そんなリルテスタの表情にメルが心配そうに見つめる。
「ん、いや何でもない。時にメルよ、そなた実戦経験はあるか?」
リルテスタの質問に、メルは上を見ながら考える。
「ん~、食人花に小悪魔に……あと山賊? ボチボチのエンカウント率ですな~。脳内妄想では今頃モンスターをばったばった倒して屍の山を築いていたはずなんだけど」
経験は浅い、そうリルテスタは判断するが、しかしメルの内に秘める潜在能力を彼女は見抜いていた。
「そうか、お前には何か隠れた力がある気がしたんじゃがのう」
「おっと、お目が高い、アタシ他人のスキルをコピーする力があるんすわ。実戦経験はなくとも他人のリスペクト技があるから多分主力で戦えると思うよ」
THE・根拠のない自信。それでもメルの迷いなき眼を見て、リルテスタは可能性に賭ける決心をした。
「それは頼もしいな。なら、いざとなったらテルミラを守ってみせよ」
「えっ? うん、それはいいけど、そのいざとなった場合、リルも一緒に守らないの?」
「わしは根元を叩く。その間、お前にはこの子を守ってほしい」
真剣な顔をしたリルテスタに「……うん」と少し畏縮しながらメルは返事をする。
と、そんな時だった。
上の階から壮大な地響きと共に、一人の監視員が慌ててやって来た。
「侵入者だ! 直ちに応援を要請する!」
息を切らして現れた男にハイオッドはびくりと反応し、予期せぬ緊急事態にあたふたしだす。
ご覧頂き有難うございます。




