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百ある世界の片隅で〜幼馴染みと共に世界を救う物語〜  作者: 若取キエフ
動乱の大監獄編 (メルルート)
28/72

28話 かつて平和を願った少女


 それからしばらく。


「おいメルよ、そなた一体何をしとるんじゃ?」


 リルテスタとテルミラがまじまじとメルの動向を窺っている。

 牢に入れられてからというもの、メルはあちこち壁を叩いたり食事用のスプーンで地面を削ったりと、どうにかして脱出する手立てがないかと模索していた。


 そして今は壁の天井付近に設置してある通気口をいじくるメル。


「いや~、この道を通ればワンチャン地上に出れないかなって」


 通気口の入り口に建て付けられた小さな鉄格子をガチャガチャと揺さぶってみるが、メルの力ではビクともしない。


「無理じゃよ。この柵はミスリル合金で出来ておる。錆びない上に頑丈じゃ。仮に柵を越えてもそこから地上へ出られる保証もない。逃げ出すなら別の方法を見つけるんじゃの」


「ダメか~……それなら」


 通気口からの脱出を諦めたメルは、部屋の前にいる監視員の元へ近づくと。


「ねえおじさん、今すぐここから脱獄したいんだけど、その腰に下げてる鍵をアタシにクレメンス」


 ストレートな思いの丈を監視員にぶつけた。


「ええええ……ウソだろ? 目の前で監視してる俺に堂々と言うか? 普通」


 メルの突飛もないお願いに困惑する監視員。


 ちなみにこの監視員は先程この部屋へメルを連れて来た男である。

 元々いた監視役の男はリルテスタの威圧による恐怖心から今も病室で寝込んでおり、代わりにこの男が監視を任される事となった。


「あのな~別にお前に恨みがあるわけじゃないんだがよお、一応俺も生活がかかってるんだ。奴隷を逃がしたなんて失態を犯したらその場で俺の首が飛んじまうよ」


 男は勘弁してくれと言うように、頭を抱えながらメルに納得のいくよう説明する。


「ちぇっ、ここら辺の輩にしては話の分かる男だと思ったのに、ガッカリだよ全く」


「なんで奴隷なのにそんなに強気なの? ビックリだよホント」


 他の奴隷と比べて、メルのあまりにも平常運転な態度に感心さえ覚える男。


「だいたいこの牢屋から出たところで、上に何人警備する奴がいると――」


 言いかけて、男は後ろから聞こえるヒールの足音に急ぎめに口を閉じる。


「あら、ずいぶんと仲がよろしいのね、ハイオッドさん?」


 現れた黒装束の女性は、にこやかにハイオッドと呼ぶ監視員の男に笑いかけた。


「はっ! これは申し訳ございやせん、ペストレシア様!」


 見た目はハイオッドのほうが十も二十も年上のように見えるが、ペストレシアと呼ぶ女性に声をかけられた途端、急に物腰低く謝罪をする。


「別に謝らなくてもいいのよ? 悪い事をしているわけではないのだから」


 ペストレシアはあまりの必死な対応に嘲笑した後。


「それに……私もそこにいる方にお話しをしにきたの」


 ジッと、リルテスタを見つめていた。

 それに気づいたリルテスタは、目を細め、ペストレシアを凝視する。


「リルテスタ様。私を覚えておいでではありませんか?」


「……これはどういうことじゃ? お前は八十年も前に亡くなったと聞き及んでおる。であるならば偽物か……もしくは双子の姉妹か?」


 するとペストレシアはクスクスと笑い。


「正真正銘あなたの知っているペストレシアですよ。元魔王討伐部隊の、ね」


 リルテスタに身のうちを明かす。


「もっとも、あの頃と姿は同じでも、今の私は到底人間と呼べはしませんけど」


 ペストレシアの言葉に、リルテスタはピクリと眉をしかめる。


「禁術、【レイズデッド】を使ったな。それも自分自身に」


 リルテスタの言う【レイズデッド】とは、死体や死者の魂を操る呪術の一種である。


「さすがですね。私の家系は代々、死霊使ネクロマンサーいとしての才がありましたのでやむなく使わせて頂きました」


「その家柄を嫌っていたのは、他でもないお前じゃったろうに……」


 リルテスタはかつて世界平和を純粋に願っていた彼女を思い出しながら、今のペストレシアを憂いていた。


「昔、一部の王や貴族達に命を狙われましてね……って、リルテスタ様はご存知でしたね」


 まるで挑発するように、ペストレシアは鋭い眼光を向け笑って見せた。


「言い訳はせん。貴族共の暗躍を止められなかったのは事実じゃからな……」


「本当ですか? ご自分の立場が危うくならないように見て見ぬフリをなさったのでは?」


「…………好きに疑え」


 リルテスタは溜息を吐きながら、今の彼女に何を言っても通じないと思い、しばし口を閉じる。

 そんな折、メルはハイオッドに耳打ちを立てるように小声で質問する。


「ねえおじさん、ネクロマンサーってゾンビとか操る魔導士だよね? あの人がそうなの?」


 あくまでメルの知識はテレビゲームで覚えた浅慮浅学なハリボテ知識である。


「ペストレシア様の素性は俺も良く知らねえが、どうやらそういう事らしいな。しかしお前、若いのによく禁術の事知ってんな~」


「ふっふっふ~何を隠そうアタシも同じ力を使えるもんでね。伊達に幾多の世界を救ってないわけよ~」


 あくまでメルの言う『世界』とはゲームの中での話である。

 それを聞いたハイオッドは、嘘だと思いながらも大人の余裕を見せ、メルに合わせる。


「へえ~そりゃすげえや。只者じゃないってことかよ」


 メルの自慢を軽く受け流すハイオッド。そんな二人を他所に、再びリルテスタは口を開いた。


「それで、わしに何用かの? まさかこんな場所で思い出話をしに来たわけでもあるまい?」


 話しを変えるリルテスタに、ペストレシアも「そうですね」と不毛な言い合いを避け話しを続けた。


「では、本題に入ります。リルテスタ様、私に協力してくれませんか?」


 単刀直入に、ペストレシアは協力を仰ぐ。


「それは取引かの?」


「そう思って頂いてもかまいません。もし協力して頂けるのであれば、今すぐにでもここから解放して差し上げますよ? もちろん、お友達のワイバーンも一緒に」


 ペストレシアの言葉を聞き、ギリっ、と、歯を食いしばる。


「貴様っ……」


「すみません。怒らせるつもりはありませんでしたが、こう言ったほうがやる気になってくれるかと思い……」


「…………」


 リルテスタの様子を窺いながら、ペストレシアは続けて囁く。


「悪い話ではないはずですが? あなたがこの施設に侵入して、機密情報を探ろうとした行為に目をつむるのですから」


 そこまで聞いて、リルテスタは一呼吸入れると。


「それで、協力とは具体的に何をすればいいのじゃ?」


 渋々ながら、取引の内容を聞く。


「あなたの地位、世に名高い女公爵にして竜人女王の側近である、リルテスタ・フォン・ティアマト公爵としての権力をお借りしたいのです」


 妖艶な笑みを浮かべながら、彼女はそう言った。



ご覧頂き有難うございます。

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