25話 囚われの飛竜(ワイバーン)
そして頂上に着いた二人は、煙突のような作りの通気口まで足を運ぶ。
「ここから下に行けそうだな……ん?」
コマチは【サーチ】を使い、下層の様子を窺いながら中の安全確認をしていた。
その時、コマチの背筋が凍り付くような、強大な力を持った生命反応を感知した。
「んんんん~! なんだあいつ、人間じゃない、魔物? ここって魔物も使役してんの?」
一人冷や汗を拭うコマチにメヴィカは首を傾げる。
「魔物? 上空からの侵入に備えて迎撃用に飼っているんでしょうか?」
「分からないけど、結構デカい。そして強い」
と、怖気ずくコマチに、突如脳に直接響くような声が聞こえた。
『そこの人間よ、わしをここから出してはくれんか?』
「痛っつ……なんだ今の?」
頭痛にも似た脳が揺れる感覚に怯んでいると、再びコマチに向け声が届く。
『そなたに直接念話で話しておる。すまんが下まで降りてきてくれんかの?』
そして再び脳が揺れる感覚。
向こうに届くか分からないが、コマチはおそらく下にいるであろう声の主に返事を返す。
「……降りた瞬間お前が襲ってくるかもしれないだろう。襲わない保証はあるか?」
「え、なんですか? コマチさん」
メヴィカにその声は届いていないようで、突然喋りだしたコマチに首を傾げる。
しばし声の主は沈黙する。そして――。
『ずいぶんと慎重な小僧じゃな。困った事に安全を証明出来るものがない。強いて言うなら下にいるわしが首輪で繋がれ身動きが取れない事くらいじゃ』
「お前も捕まっているのか?」
『いかにも。そしてわしが囚われている所為で、ここよりさらに下層にいる我が友までも自由に動けぬ身での……。どうか人助けと思って協力してくれぬか? ああ、わしは人ではないがの』
囚われの身であるらしい声の主は微笑したような声色で話す。
未だ警戒した様子のコマチだが、どのみち通気口から下に向かう以外道はない為、覚悟を決めて下へ飛び降りた。
「えっ、ちょっと……コマチさん?」
いきなり飛び降りるコマチにキョどりながら、続けてメヴィカもフック付きロープを使って下へ潜る。
通気口の下は開けた大広間になっており、コマチが降りた先は巨大な檻の中。
そしてその中で横たわる声の主……。
「って、ドラゴンかよ!」
コマチより一回りも二回りも大きな飛竜が鎖に繋がれていた。
両腕の巨大な翼をはためかせると、さらにその姿に威圧感が増す。
唖然としながらコマチとメヴィカは飛竜の前で立ち尽くしていると向こうから、今度はメヴィカにも向けて念話を飛ばした。
『よく来たな、我が名はラジエ。永き時を生きるしがないワイバーンじゃ』
「いった~! 頭に響く……」
メヴィカは先程のコマチ同様、脳の揺れに苦しむ。すると。
『すまんすまん、そなたら人間とは念話でしか意思の疎通が出来ぬのでの』
表情からは分からないが、ラジエは軽い冗談のようなノリで二人に謝罪した。
『そこの小僧よ、いきなりで悪いが、わしの首輪を外してほしいのじゃが頼めんかの?』
そして、コマチに自身の開放を要求するのだ。
「ホントいきなりだな……。俺は仲間を助ける用があってここに潜入したからさ。悪いけどお前を檻から出す時間と余裕はないんだよ」
と、申し訳なさそうに断りを入れるコマチ。
『勿論タダとは言わん。うぬらにもメリットはあるぞ? わしを解放すれば強大な戦力となろう。その仲間とやらも我が友と一緒に助けてやろうではないか。どうじゃ? 悪い話ではないじゃろ』
だが条件を付けて食い下がるラジエに悩むコマチ。
そして、渋々『ガントレットボウガン』を構え、貫通スキルを放つ。
「……やるだけやってみるよ。【ペネトレイト・ショット】」
しかし、ラジエに繋がれた鎖はビクともしない。
さらにコマチはガルム戦で幾つか覚えたスキルのうちの一つ、短剣による斬撃も試みる。
「【コンプレッション・エッジ】!」
刃に圧縮した空気を付与し、物体を斬り裂くスキルで鎖に叩きつけるが。
だが、魔法で鍛えられたミスリル製の鎖は傷一つ付かなかった。
『無駄じゃよ。力技でちぎれるならとっくにやっておるわい』
「くそぅ、素直に鍵を見つけなきゃいけないのか?」
不服そうに肩を落とすコマチ。その様子を見て、メヴィカはショルダーバッグから小型のライフル銃を取り出した。
「これ、使ってみましょうか?」
「なあメヴィカ、お前の鞄の中ってどういう作りしてんの? 外見から見ると明らかにキャパオーバーな量のアイテム積んでるよね」
「企業秘密です」
メヴィカはウィンクと共に口元に人差し指を添え、コマチの問いを受け流す。
物騒な武器を構えたメヴィカは銃口を鎖に向け。
「コマチさん、危ないので私の真後ろにいて下さい」
コマチを後方に誘導させ、トリガーを引く。
銃口から放たれたものは弾ではなく、電流を凝縮して太い線状に放ったレーザー。
その威力は凄まじく、レーザーに触れたミスリル製の鎖は一瞬にして塵と化した。
「ぶふぁっ!」
しかし、絶大な威力をほこる銃は反動も大きく、衝撃でメヴィカはエビ反りになりながら後方へ吹き飛ぶ。
そして真後ろにいたコマチも同時に後方に倒れ、メヴィカの衝撃吸収の犠牲となった。
「お前……危ないから後ろにいろって言ったじゃん!」
「ええ、ですから反動で私が吹き飛んじゃうので、危ないから私の支えになって下さいという意味です」
「お前が危ないって事かよ!」
言葉足らずなメヴィカに色々と物申したいコマチではあるが、結果的にラジエの鎖を破壊する事に成功した為、これ以上野暮な事は言わず「助かったけど……」と一言添えた。
『よくぞわしを解放してくれた。感謝するぞ、人間の娘よ』
晴れて自由の身となったラジエは間延びするように翼を大きく広げた後。
『さて、反撃といこうかの。二人とも、わしに乗るがいい』
頭を下げ、二人が背中に乗りやすい態勢を取る。
「えっ、飛ぶの? 俺達地下に行きたいんだけど……」
『分かっておるわい。我が友もここより遥か下層におるでな。それより早う乗れ』
ラジエに催促されるまま、二人はゴツゴツした硬い背中に乗った。
「どうやって行くんだよ。お前の体格じゃ人間サイズの通路なんて通れないだろ?」
『笑止。わざわざ道に従って進んでやる必要がないのでな』
そう言うと、ラジエは両の翼を一振りし、檻を突き破ると、天井目掛けて上昇する。
そしてそのまま半回転し、天井に足を付けると。
『このまま岩盤をぶち破る』
天井の壁が砕ける程助走を付けて、勢い良く地面に突進した。
「「うあああああああああああああ!」」
突然の出来事に、二人は悲鳴を上げながら必死でラジエにしがみ付く。
危険なアトラクションと化したラジエのなすがまま、強引に施設の下層へダイブして行った。
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