24話 奴隷収容施設
「じゃあちょっと行ってくるからね。何かあったらすぐ逃げるのよ」
近くの茂みに馬車を停車したメヴィカは、二頭の馬に付いていた手綱とハミを外し自由にした。
「いいの? 野放しにして。逃げちゃうんじゃねえの?」
「自由にしてあげないと、もし私に何かあった場合、死ぬまでここで待ち続けなきゃいけないんですよ? そんなの、可哀想じゃないですか」
干し草と水を与えながら、最後かもしれない馬達を優しく撫でるメヴィカ。
「それはともかくコマチさん、そのボウガン担いで人混みを抜けるつもりですか?」
メヴィカはコマチの弓矢セットを見つめながら指摘したそうに問い詰めた。
「え、いや、これはいいだろ別に。弓がなかったら俺、短剣でチクチク戦うしかないんだけど」
コマチがそう言うと、メヴィカは予想通りというように大きく溜息を吐く。
「ここは法律の適用されない場所です。人を殺しても法で裁かれない無法地帯です。そんな場所で堂々と武器を持っていたら皆警戒しますよ。周りを見て下さい」
と言われてコマチも茂み越しから辺りを見渡すと、道行く者は皆武器を持ち歩いてはいないのだ。
無秩序の領域で、人は自由を手にする代わりに、いつ襲われるか分からないという恐怖を抱く。
そんな思いを払拭し信用を得る為には、いかに自分が無害かを見せる努力が必要だ。
つまりあからさまに武器を所持している今のコマチは、この市場においては要注意人物となり得る。
「でも、主要武器がないとこの先不安なんだけど……」
メヴィカの言い分に異を唱えるコマチ。するとメヴィカは、荷物袋から片腕の籠手を取り出し、「これをどうぞ」とコマチに放り投げた。
「……っと。なんだこれ、籠手? 何かくっついてるけど」
「装着して、手の甲の辺りにあるボタンを押してくれます?」
コマチは言われた通りにボタンを押すと、腕の部分から左右に湾曲した棒が広がり、その端と端には弦が張られていた。
「ビックリした……これ、クロスボウってやつ?」
「『ガントレットボウガン』です。ワンプッシュで弓が構えられるうえ、コンパクトで持ち運びも便利、さらに矢への魔力伝導率も高く、魔法スキルに相乗効果が得られます」
コマチは説明の半分以上を理解出来なかったが、一応接近戦と後方支援どちらのスタイルも使う自分にとっては都合の良い武器だと、装備した籠手をまんざらでもない様子で眺めた。
「コマチさんの射撃精度だったら容易く扱えると思うので使って下さい。私の自信作です」
「ありがとう……って、これメヴィカの自作なの? クオリティーヤバない?」
「クラフトが私の特技ですから。鍛冶や調合、料理まで、幅広い分野でお役に立てますよ」
ちょこんと小さな力こぶを作り、ドヤ顔で自身の特技を語るメヴィカ。
慣れない世界、慣れない場所で、コマチは内心彼女がいてくれたことにこの上なく安心感を覚えるのだった。
その後、人混みに紛れながら辺りを探索していた二人は、『奴隷収容施設』と書かれた看板を見つける。
それを頼りに怪しまれないようひっそり歩いていくと、その先には巨大な塔が聳え立っていた。
「ここにメルが……」
ようやくここまで辿り着いたコマチだが、近くの木陰で足が止まる。
「しかし、ここからどうするか……」
奴隷収容施設の正面口は予想以上に監視の目が多く、なかなか入る隙がない。
「困りましたね……コマチさん、何か便利なスキル持ってないですか?」
コマチは【サーチ】で周辺の生体反応を調べながら推測する。
(この施設、上よりも下の階に空間が広がっている。奴隷が簡単に逃げられないようにする為か?)
そしてコマチは先ほどのメヴィカの問いに答えた。
「一応体を透明化させるスキルならあるんだけど、効果時間は一分ももたない。正面突破は出来るが、【サーチ】で感知する限りでも中に敵兵が十数人はいるうえに、だだっ広い空間が地下に通じて広がっているみたいだ。ここからじゃまともに侵入は出来ないな」
と、コマチは冷静に状況を分析する。
「すると、じゃあ……」
メヴィカが呟くと共に、二人は揃って上空を見上げた。
「遠回りですけど上から入って地下に向かいますか?」
「うん、通気口があればそこから侵入出来るかも」
合意の上、二人は忍び足で監視の目の届かない壁際へ向かう。
「……上から行くとは言ったものの、これどうやって登ろう?」
改めて見る高い壁は、突っ掛け場もなくスマートに立ちはだかる鉄製の壁。フック付きの縄でも届かない程天辺はそそり立っていた。
コマチは壁をコンコン叩きながら打開策を考えていると、メヴィカは肩に下げていたショルダーバッグから野球グローブサイズの大きめな手袋を取り出した。
「これを使って下さい」
「なんスか? それ」
「難攻不落の城壁でもお手軽に登れちゃう『イボックスグローブ』です」
「もう一回言うね。なんスか? それ」
よく見ると平の部分に細い棘のようなモノがびっしりと生えており、勧められるままに装着したコマチは試しに凹凸部分皆無の鉄製の壁に触れてみる。
するとグローブはマジックテープのようにぴったりとくっつき、少し力を加えれば簡単に剥がせるという、不思議でお手軽な仕様に思わずコマチは「おお……」と声を漏らした。
「それじゃあコマチさん、スカートの中を覗かれたくないのでお先にどうぞ」
メヴィカはわざとらしくスパッツの上に穿いているスカートを手で押さえながらコマチに先を譲る。
「覗かないよ! お先に行かせてもらうけどさ!」
あらぬ疑いをかけられたくないコマチは気を紛らすようにしてクライミングを開始した。
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