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百ある世界の片隅で〜幼馴染みと共に世界を救う物語〜  作者: 若取キエフ
動乱の大監獄編 (コマチルート)
23/72

23話 欲が集まる谷の中


 次々と襲い来るガルムの群れに、コマチとメヴィカは必死で応戦していた。


「コマチさん、う、後ろからも来ましたよ!」

「分かってる! 【ペネトレイト・ショット】!」


 コマチの弓引く手は一射一射全身全霊。ガルムの身体を貫通させ、勢いのまま後方にもその矢で貫く。


「ぅうう、もう来ないでぇえええ!」


 メヴィカも涙目になりながら、荷物から取り出したサブマシンガンのような銃を乱射しガルムを次々とハチの巣に変えていった。


 乱射、乱射、乱射……、襲い来る群れに残弾数を気にせずひたすら撃つ。

 とにかく目の前のガルムに必死だった。


 そんな時、コマチにある異変が起きる。


(あれ、また今急に……頭の中で新しい記憶が流れてくる……)


 以前もあった謎の現象。戦いの最中さなかで自ら学んだ事のないスキルの使い方、身体の動かし方が脳内で更新される感覚。


 それはコマチの世界で言うところの、レベリングシステム。


 経験に応じて自分の戦闘スタイルである『シャドウ・オブ・ラーカー』のレベルが自動で上がっていることを、コマチはまだ知らない。


(理由は分かんねえけど、使えるもんはなんでも使わせてもらう!)


 異変の正体は知らないが、今の窮地を脱するには好都合だったコマチは、上空に向け一本の光る矢を飛ばし、覚えたてのスキルを唱えた。


「【ミリアドコメット】!」


 すると、上空に向けて放たれた矢は突然飛散し、それは眩い光弾となりて周囲に降り注ぐ。

 辺りのガルムを一掃出来る程の威力を揮った光弾は、地面に幾つものクレーターを残し消えていった。


「すごい……コマチさん、そんな隠し玉持ってたんですね。なんでもっと早く使わなかったんですか?」


 興奮しながらメヴィカは問うが、コマチ自身初めて使ったとは言えず、言葉を濁した。


「いや、まあ……魔力の消費が大きいし、な。それより道が開けたぞ、そのまま突っ切れ」


 はぐらかすようにメヴィカに指示を出し、馬車は奥に見える『空間ゲート』まで駆け抜けた。


『今です、鍵をかざして下さい』


 そしてゲートの元まで接近し、スティオラに言われた通りペンダントをかざすと、突如コマチ一行は馬車ごと別の空間へ転移した。









 気がつくと、そこは仄暗い洞窟のような場所に変わっていた。


「メヴィカ、大丈夫か?」


「なんとか……。それにしても、ここはどこに位置しているんでしょう?」


 メヴィカは辺りを見渡しながら、あまり気分の良くない光景に息を呑む。


『どうやらここは、先程の峡谷より程近い岩山内部のようです。地上からも空中からも大規模な襲撃は不可能で、いざとなれば山ごと爆破して証拠をもみ消せる……。闇取引をするにはなかなか都合がいい場所ですね』


 かろうじて日の光は差し込んでくるが、ほとんどが天上まで岩に囲まれた湿気の多い空間だった。

 ランプの明かりに照らされ、道に連なる出店。湿った空気と、ガラの悪い連中が道なりに列を作りながら、裏ルートで入手したアイテムを吟味している。


 禁止された魔道具、奪われた名のある武具、劇薬など、表ではそうそう手に入らない品を多く扱っていた。


 そして中でも安定して取引されるのが奴隷売買。

 世界の法が通用しない、欲が渦巻く無秩序な市場。それが『強欲の巣』である。


『大監獄があるのは市場の中心地だと思います。出来るだけ怪しまれないように歩いて下さい』


 と、スティオラが釘を刺すと、メヴィカはコマチを見ながら言った。


「ならコマチさん、服、脱いで下さい」


「なっ、えっ?」


 突然の脱衣命令に困惑するコマチ。


「なんでだよ、影に溶け込むように揃えた闇コーデだぞ?」


「黒ズボンに黒コート、そしてインナーも黒だと逆に目立ってます。あと、純粋にコマチさんに似合ってないので装備の変更を要求します」


「え…………そう、なの?」


 ちょっと自分の中で格好いいと思っていただけに、コマチは内心ショックを受けていた。


(そういえば以前メルにも厨二病とか言われたな……え、そんなにダメなの?)


 モヤモヤするコマチを他所に、メヴィカは荷物からフード付きの衣類を取り出した。


「あとで私がコマチさんのお洋服新調してあげますから、一先ず黒コートの代わりにこれを着て下さい。旅人用のベーシックなポンチョです」


 渋りながらも、コマチはメヴィカの言う通り上着を旅人用ポンチョへ変更した。


『準備は整ったようですね。あと、馬車は目立たない所に停車しておいたほうが良いでしょう。見慣れない馬車は怪しまれますから。……ああ、それと――』


 念入りにアドバイスを加えるスティオラは突然。


『いましたよ、黒髪の女の子』


 と、コマチの肩で囁く。


「本当か?」


『ええ、僕が捕まっている牢とそれほど離れていません。つい先ほど看守と口喧嘩をしながら収監されていました。……メルさん、でしたよね?』


 その言葉に、コマチは安堵の息を漏らす。ここにまで来たことが無駄ではなかったと、メルがまだ生きていると、かすかな希望が持てたからだ。


「よかった……本当に……、すぐにそっちに向かう。もう少し待っててくれ」


 と、やる気に満ちたコマチだが。


『……すみません、たった今僕にお客さんが現れたようなので一度意識を遮断しますね』


 突然スティオラはくようにして意識を遮断しようとする。


「え、待てよ。突入はどうしたらいい? あと、メルは無事なのか?」


『コマチさんの判断に任せます。……それから、メルさんについてもおそらく問題ないかと。同部屋にすごく強い方がいらっしゃるので』


 それだけ言うと、小鳥から発せられたスティオラの声は聞こえなくなった。


「……どうします?」

「…………とりあえず歩こう」


 何にせよ、メルとスティオラが収監されている場所を見つけなければいけない。

 そう思い、コマチとメヴィカは慣れない市場で気配を消しながら探し始めた。





ご覧頂き有難うございます。

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