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2話 崩壊する町


 翌朝、世間では休日と呼ばれる土曜日。

 特筆する程目立った名産も名物もない、強いて言うならば、町の中心に建てられた大きな時計塔がある程度ののどかな風景。それが二人の住む町だった。


 晴天の朝、町が活気づくには少し早い時間帯に、コマチとメルはコンクリートで整備された坂道を上っていく。

 メルが楽しみにしていたシリーズ物のロールプレイングゲーム、その新作の発売日である本日、コマチはメルに付き合い市街のゲームショップへ行く約束をしていた。

 その道中。


「なあメル、どこかで休憩してく?」


「大丈夫。そんなことしてる間にお店開いちゃうよ」


 右足に補助器具を付けながら、コマチの歩幅に必死に追いつこうとメルは松葉杖を大きく動かし足早に歩を進める。


「今更だけど、ネット予約したならそのまま家に配送してもらえばよかったんじゃね?」


「チッチッ、己の足で店に赴くのがファンのたしなみよ……」


「いや知らんけどさ……、じゃあ、おぶろうか?」


「気づかいは無用だぜコマちゃん。アタシは自分の力でソフトを手にすることを制作会社への感謝の印としてるのさ」


「お前も制作会社も特にメリットないけどね、その行為」


 軽く息切れしながらも自分のこだわりを重視するメルに、だいぶ無駄な行動だと思いながらもコマチはしぶしぶ付き合っていた。


「っしょっと! コマちゃん、ペースが落ちてるよ。早く早く!」


 そしていつの間にかメルはコマチを追い越し、グイグイ先へ進んでいく。


「ああ。まあどうせすぐ追いつくけどね」


 メルに続いて坂を上り切ると、コマチは何気なく、見慣れたノスタルジックな街並みを坂の天辺から見下ろす。

 流れるように視線を変え、ふと、遠くに見える時計塔を眺めていると……。


「……っ!」


 一瞬視界を覆うような、強烈な光が遥か遠くで瞬いた。

 その数秒後、突如地面が大きく揺れる。


「なっ……!」

「ふえ? 地震だ! すっごい大きい」


 突然の出来事に二人は態勢を崩し、その場に倒れた。

 強い振動にそのまま立ち上がれずにいると、二人は遥か遠くに、白く光る巨大な何かが現れる瞬間を目撃する。


 その物体は形こそ人型であるが、高層ビル程の大きさで顔のパーツが無い、のっぺらぼうの化け物だった。

 そして巨人は突如、自身の人差し指から直線状に伸びる光線を放つ。



 それは、平穏な日常に終わりを告げる光だった。



 巨人の指から放たれた光線は、触れた物を一瞬にして破壊する威力があり、二人の近くにあった建造物は、瞬きをした時には瓦礫と化していた。


「なんだ……あれ」


 未だ状況が掴めないコマチだったが、次の瞬間、指の矛先がコマチとメルが住んでいる場所に焦点を合わせた事に気づき、理解した。


「あっちは俺達のっ!」


 コマチは慌てて丘の上のガードレールから身を乗り出すが、何も出来ずにただ崩壊してゆく惨状を見ているしかなかった。


 理解はしても、止める術がなかった。

 今にも光線が放たれようとした時。


「お父さん……お母さん……」


 メルは片足飛びで自分の家の方角へ向かっていく。


 この日、メルの家族は皆家にいた。

 用事がない限り誰かが外出する事はない。

 それを知っていたメルは次第に歩を早め、自宅に向かって坂を下る。


「おい、メル! 戻れ!」


 コマチの言葉も耳に入らず、決して間に合わないと知りつつも足が勝手に動く。

 コマチはメルを止めようと後に続くが、度重なる振動で足がおぼつかず、伸ばした手はくうを切った。


 そして――。


「お姉ちゃあああああああん!」


 無情にも眩しく光る熱光線は、容易く二人の居場所を消滅させた。


 建物が崩れる振動でメルはそのまま横転し、そして、泣き崩れる。

 コマチもまた、力が抜けたようにその場に倒れ込み、現状を受け入れられずにいた。


 突如として起こった、あまりにも非現実的な惨状。

 夢なのかもしれない。

 しかし、光線が放たれた風圧で飛び散る建物の残骸がコマチの額にかすれ、滴る血を拭いながら、これは現実なのだと思い知らされる。


「なんだよこれ……なんなんだよ、あの化け物はっ!」


 絶望感に見舞われるコマチとメルだが、そんな感傷に浸る間もなく、化け物の指は二人がいる場所へ標準を合わせていた。


 コマチは咄嗟にメルの元へ駆け寄り、覆い被さる形でメルの盾となる。

 一本の指の先から、太陽よりも眩しく光る光線が二人の前で輝き。


 そして――放たれた。


 コマチは死を覚悟する。

 下にいる幼馴染を強く抱きしめ、せめてメルだけは、と……。


 そんな時だった。

 ゆっくりと目を開け、目の前の光景を見やると、そこには透明な盾のような物で熱光線を弾く、一人の青年が立っていた。

 攻撃を凌いだ青年は振り返り、二人に聞こえるように口を開く。


「あれは『次元ディメンション自動機兵・ゴーレム』。別世界から来た、殺戮兵器だ」





ご覧頂き有難うございます。

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