13話 魔物討伐の裏で
それから数刻経った頃、三組に分かれた討伐隊は各々決められた場所へ赴き、そのポイントに襲い来るレッサーデビルの掃討に当たった。
「この……いい加減落ちろ!」
上空で翼をはためかせる黒い悪魔、その一体に向けてコマチは弓矢を連射し、ようやく地上へ落とす事に成功する。
レッサーデビルは獣のような咆哮を上げながら、四足歩行でコマチの元へ向かってくるが。
「後は俺達に任せろ!」
地上で構えていた現役冒険者達の敵ではなかった。
斧を持った男と剣士風の男はそれぞれ息の合ったタイミングでレッサーデビルを斬り付け、人型サイズの悪魔はその場で息絶えた。
「おう坊主、お前さんの狙撃、なかなか良いセンスしてるな。分かるぜ、相当鍛錬積んだってのがよ。若いのに頑張るじゃねえか」
と、斧を持った中年男性はコマチを称賛するが。
「あ、いや~……ども」
しかしこれはパルカの恩恵によるものであり、自分自身弓矢を握ったのはこの世界が初めてなのだが、空気的に本音を吐けず、真実はコマチの心の中に閉まった。
そんな中、コマチの隣ではメルが頬を膨らませながら不服そうな表情を浮かべる。
「アタシの出番が皆無なわけだが?」
コマチの袖を指先で引っ張りながら不満を漏らす。
「安全に仕事を終えられていいじゃねえか」
と、コマチの返しに便乗し。
「そうだとも、若き淑女を危険な目に遭わせるなど剣士の恥である」
「おうよ、荒っぽい仕事は男の俺達に任せて、嬢ちゃんは後方でサポートしてくれ」
メルと仲良くなった二人も格好をつけたいが為に、活躍したがるメルをなだめるのだ。
そんな男衆にさらに頬を膨らませている中、コマチは地図を広げ、次の行動を問う。
「ここのポイントはもう退治したし、次は他の隊の援護に向かいますか?」
「そうだな、レッサーデビルは単体では大した強さじゃないが、油断すれば中堅冒険者でも鋭い爪で即死する。一度様子を見に行ったほうがいいだろうよ」
二人の冒険者はコマチの案を採用し、他のポイントに分かれた隊の援護に向かった。
ポイントの場所へ到着すると、そこには四人の冒険者とレッサーデビルが血だらけで倒れていた。
「な……相打ち?」
コマチは倒れている冒険者に駆け寄り、生存確認をすると。
「……まだ息がある」
そう呟き、ポーチに入れていた回復ポーションを飲ませ、布などで傷口を塞ぎ冒険者達の一命を取り留める。
一先ずは安堵の溜息を漏らすコマチだが、剣士の男が倒れた冒険者の傷口を確認すると、男は途端にいぶかし気な表情を浮かべた。
「これはレッサーデビルにやられたものではないな……、傷跡から見るに、おそらく剣によるものだ」
その言葉に、周囲は凍り付く。
「おう、じゃあ何か? あの隊の中の誰かがやったってのか?」
「もしくは他の盗賊か何かに襲われたか……。いずれにせよ、この者の傷は人の手によって付けられたのだろう」
魔物討伐の裏で、突如起こる不穏な空気。
と、その時だった。
「いやだ! 助けて!」
皆が声のほうへ視線を向けると、上空でレッサーデビルに捕まった子供が泣き叫んでいる。
「おい、ありゃあ牧場主んとこの坊主だ! あいつ、人間を巣に持ち帰る気か?」
中年の男が指を差しながら叫ぶ中、コマチは即座に弓矢を構え、レッサーデビルに標準を合わせる。
だが、高度が高く、コマチの射程距離をすでに越えていた。
「くそっ、このままじゃ子供が……」
下手に撃っても子供に当たる危険性がある。しかし今止めなければ子供は遠くへ連れ去られてしまう。悩んでいる暇はコマチにはなかった。
そんな時、コマチの横でメルは息絶えたレッサーデビルに向けて自身の手の平を押し当てると、突然魔力を使いスキルを発動する。
「【ネクロマンシフト】!」
それはエーテラルから教わった死霊操作のスキル。一度身体から離れた霊魂を呼び戻し、自分の意のままに動くように使役する魔法だった。
すると、倒れていたレッサーデビルはむくりと起き上がり、メルの元で姿勢を低めた。
メルはその背に乗ると、上空にいるレッサーデビルを指差す。
「あの子を追って!」
メルの声により、使役されたレッサーデビルは翼を大きく広げ、子供を抱えたレッサーデビルに向けて全速力で突進した。
そして、あっという間に追いついたメルは、子供を掴んでいるレッサーデビルに飛び乗り。
「アタシに魔力を分けてもらおう!」
がっしり全身を密着させ、エーテラルから教わったもう一つのスキルを放つ。
「【アブソーブ・マナ】!」
強力な魔力吸収スキルによって、レッサーデビルの魔力を根こそぎ吸い取り。
「【アブソーブ・エナジー】!」
さらに体力をも吸い取ってゆく。メルに魔力と体力を吸い上げられたレッサーデビルは次第に動きが鈍くなり、だんだんと高度が下がっていった。
そして力がなくなったレッサーデビルは掴んでいた子供を手放すと、メルが使役しているほうのレッサーデビルがキャッチし、安全に地上へ送り届ける。
なおも体力を吸収してくるメルに、レッサーデビルは翼の力もなくなり、徐々にコマチの近くまで下降すると、メルはコマチに向け、「頭を狙え」とジェスチャーを加える。
コマチは「だ~もう!」と頭を掻きながら投げやりな言葉を吐くと、力強く弓矢を構えレッサーデビルの脳天目掛け矢を放った。
「【ペネトレイト・ショット】!」
脳を射貫かれた悪魔はついに絶命し、真っ直ぐ地上へ落下する。
地面にぶつかる直前、メルはレッサーデビルの背から飛び降り、駆け付けたコマチがスライディングをしながらメルをキャッチした。
「いや~間一髪でしたわ」
「無茶な指示出しやがって……間違ってお前に当たったらどうすんだよ」
と、コマチはメルの突発的な行動に文句を漏らすが。
「えひひ~、さーせん。でもアタシはコマちゃんを信じてたから」
屈託のないメルの笑みにコマチは論ずる言葉をなくし、一先ずはメルの無事に安堵するのだった。
これで今回の依頼である三体のレッサーデビルを討伐したが、しかし問題は消えていない。
この場に倒れる冒険者達は誰にやられたものなのか……。そしてもう一つの隊は無事なのか。
一向は三つ目のポイント、牧場付近へと急いだ。
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