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11話 異世界の夜


 吸血鬼の女王の末裔、エーテラル。彼女達吸血鬼は人間の体内に溜まるエネルギーを糧にして生き永らえる存在である。


 エーテラルの話しを聞くと、昨今では吸血鬼も魔物と同じ扱いをされ、国の騎士や冒険家などに命を狙われ絶滅の危機に瀕しているという。

 肩身の狭くなった彼女達は人間の住む町に紛れ、討伐隊の目を掻い潜りながら、人間の血を吸わせてもらっていた。


 元々平和主義者の彼女は人間を襲った事はなく、その甲斐あってか、幸い事情を知っている町の人間達からの助力もあり、人間達と共存関係にあるらしい。


 そして現在、今は亡き人間との間に生まれた子を養って生活しなければならず……。


「だから、今国の騎士に正体がバレると命が危ないの。せめてこの子だけでも見逃してもらえないかしら? いっぱいサービスするから、ね?」


 と、目を潤ませながらコマチにせがむ。


「危害を加えないなら別に……よそ者の俺達が口を出す事じゃないけど……」


 涙ぐみながら懇願する女性と、その隣で純真無垢な瞳で見つめてくる少女に、コマチはこれ以上強くは言えず、頬をかきながらなし崩し的に彼女の黙認を承諾する。


 と、横にいたメルは「あ、そうだ」と思い立ったようにエーテラルに言った。


「ふっふっふっ、黙っててあげてもいいけど一つ条件があるのだぜ」


「なんだお前その喋り方……丸く収まりそうな感じなのになんだ急にお前」


「なんだなんだうっさいなコマちゃん。勿論タダとは言わないよ。聞いてくれたらアタシとコマちゃんの血を分け与えようじゃないか」


 そんな条件を出したメルにエーテラルは目を輝かせ。


「ぜひっ! お願いします!」


 迷う事なく聞き入れた。


「んっ? 待って、なんでさり気なく俺の血も提供する話になってんの?」


 そんなコマチの疑問に聞く耳を持たない二人は、ウィンウィンの条件の下、血を差し出す代わりにメルのお願いとやらを叶える事となった。








 その後、輸血と見返りを済ませた二人はエーテラルに案内されるまま部屋へ案内された。


「う……体が重い、なんで俺まで……」


 噛まれた首元を押さえながら、コマチは予想以上のエネルギーの消費に全身から疲労感が滲み出る。


「おお~結構広い。あ、アタシ窓際のベッドがいい!」


 そんなコマチとは逆に、メルは修学旅行に来た学生のようにはしゃいでいた。


「お前血吸われた後なのによくそんな元気あるな」

「んひひ~新技を覚えたからね」


 メルの出した条件とは、吸血鬼の持つスキルをコピーするというもの。

 その中でメルが目を付けたスキルは、吸収能力と死霊操作だった。


 相手から体力や魔力を吸収する事で自身のステータスを回復させる吸収スキルと、倒れた生物の霊魂を操作し、復活させたり自身の下僕にするスキル。


 加えて、ヴァンパイアクイーンであるエーテラルの能力は、他の種族とは比べものにならない程強力である。


 死霊操作は魔力消費が大きく何度も使えないが、魔力を必要としない吸収スキルは、元の能力値が低いメルにとってはこの上なく相性の良いスキルだった。


「まあ、自己防衛手段は多いほうがいいけどさ」


 そう言いながら、ベッドでゴロゴロするメルの下であぐらをかき、自分の荷物から持ち物を並べる。


「ねえコマちゃん、昔よくお互いの家を行き来してお泊り会したよね」


「小学生の時な。それが?」


 メルの話を聞き流し半分に、コマチはパルカから貰った『アイテム図鑑』を見ながら装備や小道具の使い方を調べていた。


「ふふ、なんか昔を思い出しちゃって」


 旅先で泊まる宿がやたらと嬉しいのか、先ほどから上機嫌でコマチにちょっかいをかけながら読書の邪魔をする。

 そんなテンションでじゃれてくるメルに溜息を吐きながらコマチは警告をするが。


「浮かれるのも結構だがな、ここは日本じゃなくて異世界だ。今でも信じられないが異世界らしい。で、ここは日本の法律なんか露ほども適用されない無法地帯。加えてゲームの世界みたく魔物もそこら辺を縦横無尽に跋扈している極めて危険な場所だ。死亡率は日本と比べるまでもなく跳ね上がって波線グラフを振り切るだろう。つまりはだ、俺もお前もこの世界に詳しくない以上、どんな時でも油断をするなと俺は言いたいわけで……おい聞いてんのか?」


「見てコマちゃん、あっちのほうすごい賑わってるよ。夜も遅いのにアクティブな街だねえ~」


「聞いちゃいねえよ!」


 コマチの説教も空しく、メルは窓から身を乗り出し遠くに見える大通りを指差しながら目をキラキラさせ眺めていた。

 そんなメルに再び溜息を漏らし、もはや説得は無理だと諦める。


「いつか危ない目に遭っても知らないからな」


 ボソッと呟くコマチの愚痴。

 それを聞いたメルは、再びコマチに向き直り言うのだ。


「コマちゃんがいるから大丈夫だよ」


 それは先ほどの浮かれた様子ではなく、静かに、本心で言った。


「アタシ、コマちゃんが一緒に来てくれてホントに嬉しかった」


「……ん?」


「正直一人は不安だったから。それに……」


 にへらと笑いながら。


「コマちゃんは、文句を言いながらも何だかんだで助けてくれる主人公キャラだから」


 心から、コマチを称賛するのだった。


 だが、コマチは胸の内で否定する。

 自分はメルの抱くようなヒーローなどではないと。

 これはただの罪滅ぼしだから、と。


「……そろそろ寝よう。明日につかえるからな」


 照れくさ半分で話を逸らしながら、コマチは早々に布団に潜った。

 エルマラントの夜は更けてゆく。





ご覧頂き有難うございます。

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