007 サービス開始 ~ 杠葉雅人と杠葉三奈 ~
「おにぃ、そろそろ始まるよ」
「おう」
「意外に冷静だね、もっと興奮してるのかと思ったけど」
「まぁな」
本当は昨日からほとんど寝られないくらい興奮してる。
小学生の遠足前夜再び、いやそれ以上のワクワク感が数日前からある。
実は我が家にはVR機器がなかった。興味がなかったというか、必要性に迫られてなかったのと、自分もゲームより日本刀に興味あったからだ。
妹の三奈は前から欲しがっていたみたいだ。なんでも趣味の料理がやりたかったらしい。中学生にそこまでのお金はなく、かといって我儘も言いたくなかったみたいだ。
そこで、今回のゲームを兄に吹っ掛けて二人がかりで親を説得するという作戦にしたようだ。まんまと自分がそれに嵌った、というわけではないが両親の説得を二人ですることになった。
単に欲しいってだけでは高額すぎてダメと言われる可能性がある。外堀を埋めるがごとくVRの利点を調べて、説得することにした。
調べてすぐわかったのだが、DIY関連が意外に多いことに気づいた。さまざまな機械の使い方、いろいろなモノをVRで作れる。買わなくても工具の練習ができる、使い心地が試せる、ものづくりを失敗してもやり直せる。工具メーカーやホームセンターがタイアップしてそういうDIY教室があるのだ。
これで父親は落とせる、次は母親だ。
ところが母は言葉には出していなかったのだが、VRの料理教室に通いたかったらしい。元来料理が好きで、その影響で三奈に子供のころから料理を教えていたようだ。
俺がノコギリと金槌を持っていたように、妹は物心ついた時には包丁とフライパンを持っていた。
三奈からの電話のあと、即刻両親を説得した結果、一昨日ハードウェア一式が届き、ソフトウェアも手に入れた。
しかもヘッドセットは家族全員分揃ってる。
父親が本体を購入、母、自分、妹がそれぞれヘッドセットを購入ということでお金を出し合った。お年玉残しておいてよかった。
昨夜、父がDIYをやったみたいだ。今朝のテンションはすごかったと母が笑っていた。
自分はといえば、昨日事前登録をしていたわけだが、意外に時間がかかってしまった。資料を入れることでステータスが変わると書いてあったので、手持ちの日本刀の資料を全部読み込ませていたからだ。
この時点ですでにテンションマックスだったのは秘密だ。
三奈は料理関連のレシピ集などを読み込ませていた。
兄妹揃って何やってんだろ。
「おにぃのプレイヤーネームは何?」
「そのまんまミヤビにした、三奈は?」
「ひっくり返してナミ」
「了解、向こうではナミと呼べばいいんだな」
「じゃあミヤにぃって呼ぶね」
「兄妹バレになるぞ」
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