144 斎藤のイタズラ ~ その2 ~
「ほらな、ちゃんと戻ってきたじゃないか」
斎藤は自分の予想通りだと言わんばかりにモニターを見ている。
「内情を知っているだけに何ですけど、戻ってきた理由は斎藤さんのものとはかなり違いましたけどねぇー」
「そうなのか?まぁいいじゃないか。イベントが進行してくれればそれでいい」
第二陣のスタートも上々だったこともあり、機嫌がいい。
とりあえず、当初予定のイーチマに一日間足止めするってことはできたから、面目は保てたと思っている。
「また、”チョーさん”ってNPCが現れましたが?」
「なんだそれ?」
「例のコンシェルジュでしたっけ、情報屋のクランで雇われたようです」
「あーそういうこと。で、誰がモデルなの?鈴さん」
プレイヤーチェックをしていた担当が斎藤に報告している。
また新たなNPCを放り込んだようだ。
「そのままですよぉー。長澤社長ですぅー」
「え、俺?」
近くでモニターを眺めながらコーヒーを飲んでいた社長が振り向く。
髭があるので、どうかとは思ったが、その髭を隠すと確かに社長そっくりだ。
「ちょっと前に、社長もたまには中に入りたいなぁとか仰ってましたよねぇー」
「あー、そういや言ったような気がする」
「なので、作っておいたのですが、早速雇われたようですねぇー」
「社長が雇われるというのもなんだが、それはそれでいいな。これは俺が入ればそのまま会話できるのか?」
「出来ますよぉー。コミュニケーション取ってくださいねぇー」
「それは面白そうだな。ちょっと時間作って遊ぶことにするよ」
社長も見ているだけじゃつまらなかったようだ。鈴さんがそれを察してキャラを作ったらしい。
「ということは、もしかして俺もあるのか?」
「まだ作ってませんけど、どうしますぅー?」
「欲しいような、欲しくないような」
「あ、僕の作ってもらえません?」
横で聞いていた開発担当が言ってきた。
「そんな暇があるのか?」
「中に入ってみて解る事もあると思うんですけど?」
「まぁそれはそうだが……仕事に差し支えないようにな」
「ありがとうございます!」
そんな感じで許可したものだから、五人くらい我も我もとNPC志望がでてきた。
「あまり一気に言わないでくださいぃー。これ作るの大変なんですからぁー」
困った顔をしながら、なにかニヤニヤしてる鈴さんを見ていると、また何かやりそうな気がしなくもない。
「それはそうと、ダンジョンのボスモンス、おかしくないですかぁー?」
「あ、それ、僕も言おうと思ってました」
「何がだ?」
鈴さんと監視担当が斎藤に確認している。
「第二フィールドなのに、無茶苦茶強いのが出現してますけど」
「そうですよぉー。私の雇用主なんて、帰ってきて酷くご立腹だったんですよぉー」
「その分、見返りもあったろ?」
「喜び半分、怒り半分でしたねぇー」
そもそも、スタート直後の街の近くは弱いモンスばかり、ダンジョンもレベルアップのため、みたいなのは面白くない、と常々斎藤は思っていた。
このダンジョンはこのボス、みたいな固定もどうかと思っていたわけだ。
第二フィールドのダンジョンも、簡単だろうと高をくくって挑むプレイヤーにお灸を据えるべく、ビックリ箱ならぬ、ビックリダンジョンにしてあるのだ。
といっても、単にボスモンスのシャッフルをしているだけだが。
50%はレベル相応、30%は2割増、10%は5割増、5%は3割減、そして残る5%にトンデモボスモンスが現れるということになっている。
あくまでもランダムで登場するようにしてあるから、たまたまトンデモに当たれば運が悪かったと言うことだ。
しかし、その分見返りもある。ソロ初討伐だとユニーク装備、パーティー初討伐なら高額報酬、初討伐でなくてもそれ相応の報酬を獲得できるわけだ。
加えて、超レアボスモンスも用意してあるから、ダンジョン攻略といっても、飽きずに何度も訪れることができる。
時間のある時はレベリングすればいいし、なにか武具が欲しければ、一人でチャレンジすればいい。
出てくるボスが違うのはそれなりの刺激になっていいだろう。
「それででしょうか。結構ダンジョンに潜るパーティが増えてきてますね」
「そうだろ。イベントも必要だろうけど、それ以外に楽しみを少しは作っておかないとな」
「じゃあこの後もなにかいろいろ仕組んでいるんですか?」
「そうだな、第二第三はまだヌルイ仕様だが、第四からは地獄を見せてみようかと……」
「へぇ、そんな案があるんですね」
「構想だけで中身はまだないがな」
斎藤はこれから考えるよ、といって笑ってごまかしていた。
横で鈴さんが、何か考えているのは気のせいということにしておこう。
「じゃあ、楽しみにしておきます。鈴さんも僕のキャラ作っておいてくださいね」
スタッフまで楽しめているのはいいことだと思う。
作っていて苦しみのゲームは、やはり売れない。作り手も楽しめてのゲームなのだ。
「やはり私のキャラも作っておいてもらえるかな?鈴さん」
「承りぃ!」
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