108 エリアボス戦
≪おめでとうございます。第二フィールド(N) エリアボスモンスター(ビッグ・レッド・フォックスとビッグ・ホワイト・フォックス)が初討伐されました≫
≪おめでとうございます。第二フィールド 全エリアボスモンスターが初討伐されました≫
≪これにより、次のシステムを解放します≫
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≪続いて、第二回イベントの発表を行います≫
≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫
「ふぅ、まぁいつも通りか……」
リオンが戦闘を終えて息を吐く。
「そうですね。早速サンマキの街に行きましょう!」
シラヌイが声を掛け、六人がサンマキに向かう。
アルデヒドとミミーは黙ったままだ。
楽勝過ぎないか?このメンバーはなんなんだ?今までの苦労はどういうことだ?二人とも頭の中を???が駆け巡る。
動画を撮ってあるので、これの振り返りをしなければならない。
「おつかれさん。じゃあこれでパーティ解除でいいか?」
リオンが二人に問いかける。
「はい……ありがとうございました」
力なくミミーが答える。
「じゃあ後二人迎えに行ってくるから。それまで待っててくれ」
パーティ解除とクランメンバーの解除をしながら再び門をくぐっていく四人。
「おい、どういうことだか解るか?」
「ちょっとあり得ない戦闘でしたから……混乱してますね。動画見ながら振り返りませんか?」
アルデヒドとミミーは外に仲間を待たせていることも忘れていた。
「小さいのを殺るのはまだ理解できる。この次だ、デカいのを……スノウって言ったっけ、コイツが食い止めるんだよな」
「普通、この状況なら一発で吹っ飛ぶよね」
「あぁ、見たところ大した装備でもないだろ。スキルを使っているようにも見えない。いや防御UPくらいは使っているか」
「それでも耐えられるのはちょっと信じられない」
「でもこうやってデカいのを一匹でも食い止められれば勝機はあるな」
アルデヒドとミミーは振り返りながらスノウのタンクっぷりに驚きを隠せない。
「いやいや、それでも小さいのの連携は止められませんけど」
「司令塔、シラヌイの指示が上手い。相手に回り込まれないように動きを牽制しているな。それに幻系のスキルか、惑わしている」
「スノウ君、弓持ってタンクやってますよね。防御もおかしいですけど、弓で攻撃したときに一発で小さいのが吹っ飛んでますね」
「これって初期弓だぞ。これで一撃ってあり得んわ」
「バフ系は普通ですね。ヒール系も……あ、スノウ君が自分で使ってますね」
「相当ダメージ食らっているように見えるが……ステ極振りって出来たっけ?」
「いえ、最初のチュートリアルで決められますからそれは無いはず。しかもスノウ君って最初"Liar"でしたよ」
「"Liar"外れたらステ伸びまくるとか?」
「うちのメアリーは普通でしたね。特筆するところはなかったはずです」
振り返るほど、不思議なことが多くなっている。二人とも頭の整理が追いつかない。
『ミミー殿、ミミー殿、どうなったでござるか?』
ショージがサンマキからミミーが出てこないので、F/Cを飛ばしてきた。
『あぁ、ごめんごめん、今解析してるからもう少し待って。あ、他のクランにもそう伝えて頂戴』
『解ったでござる。皆待っているのでできるだけ早くでござる』
「うーむ、これは困ったな。この内容を真似しろと言われてもちょっと無理な話だぞ」
「そうですね。あの大きいのを食い止めるなんて、どこのタンクができるのかということになりますね」
「しかし、ごり押しってのは事実だったようだな。誤魔化しでもなんでもなかったわけだ」
「どのように突破するか、全然イメージができないんですけど、どうしましょう」
「ワシのところはまだしも、お前は情報屋として期待されておるだろ。出て言った瞬間に囲まれるぞ」
「うーん、これは困ったわね。これじゃ外に出たところで言うことが同じでしかない。袋叩きに合うのが目に見えるわ」
アルデヒドとミミーは戦闘に加わった手前、この内容をもとに他のパーティメンバーに作戦の落とし込みをしなければならない。
言わば、これでエリアボスを倒さなければ、何もならないわけだ。
それなのに、どうしようもない状況に再び追い込まれた。しかも、まだ設立できていないとはいえ、クランマスター二人が、だ。
「ミミー、まだいたのか?」
リオンが帰ってきた。帰ってきたというのは正しいのだろうか。入れ替えてもらった二人を加え、再びあのエリアボスを突破してきたのだ。
「お帰りなさい」
ミミーもどう言えばいいのかわからず、思いついた言葉で出迎えをする。
「度々申し訳ない、少し質問は許されるだろうか?」
アルデヒドがリオンに話しかける。
どうやら、先ほどのエリアボス戦を振り返り、いくつか聞きたいとのことだ。
お金をもらった手前、無下に断ることもできない。
まずスノウのことだった。あの大きい二頭に対峙できる理由が聞きたいとのこと。
差し支えない程度でいいので、ということだったので、数値は言わず解ってる範囲のことだけ教えた。
"Liar"の称号を書き換え、そこからレベルアップしたときに異常とも思える数値成長をしたということ。
スキルで防御UPをしているので、さらに耐えられるということ。
なぜ異常成長したかは不明。ギルドにも確認を取ったが正常と判断された。
これだけじゃ、アルデヒドとミミーは納得できない。もちろんリオンも理解はできていない。
しかし、正常と言われ、そのチート化したスノウが居ることも事実。それ以上でもそれ以下でもないとしか言いようがない。
ミミーとアルデヒドはこのことを、先般の念書に含むことを了承した。口外は一切しないということだ。
ミミーとしてはこれを解明し、情報としたいが、詳細がわからないことには売ることはできない。
万一、今後何かわかった場合には、きっかけを作ったスノウに一定の対価を払うことを約束した。
「さて、それでは以上でいいかな。そろそろ私たちは行かせてもらいたいのだが」
リオンが二人に断りを入れる。
「忘れておりました。成功報酬の200万ギニーです。証文しかお渡しできないのが申し訳ないのですが」
「まだ時間があるからそれまでに用意してくれればいい」
これで、クラン”ジュピター”と仮クラン”壁耳組”の債務は750万ギニーに膨れ上がった。
「おい、お前のところ大丈夫なのか?」
アルデヒドが他人事とは思いながらもミミーの懐を心配する。
「大丈夫じゃないわね。エリアボス討伐も初討伐なら30万ギニー入るところが、二番手だと3万ギニーにしかならない。メンバー30人総動員しても15万ギニーにしかならないわね」
そうだ、と思い出したようにミミーがリオンに言う。
「すみません。討伐報酬ですが、5万ギニーになっていました。無理を聞いて頂きメンバー交代をしていただいたわけですから、この5万ギニーはお返しいたします」
「おぅ、ワシもそうなるな。これは貰ったらダメな報酬だ」
「差額で二人合計9万ギニーだろ。先ほど謝礼も貰ってるし、構わんよ」
リオンは単に面倒くさかった。細かいやり取りをするくらいなら、まとめて300万ほど返してほしいとも思っていたからだ。
「そうか……リオン殿は切符がいいというか、男前だな。これからもよろしく付き合っていただきたい」
「私は女だぞ。まぁ誉め言葉として貰っておこう。何かあったときにはこちらこそよろしくな。クラン設立頑張ってな」
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