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105 山小屋

「ひっ!」

 音もなく扉が開いたもので、思わず声が出てしまった。


「どちらさんじゃ?……ここは常人には見えないようになっておったはずじゃが。迷い人かの?」

 中から初老の男性が出てきた。頭の上の表示からNPCということは解った。


「初めまして、突然申し訳ありません。自分はホークと申します。山の麓で採取をしていましたら、中腹にこの小屋が見えたもので尋ねた次第です」

 どういう人物かわからないので、丁寧に挨拶をする。

「ほぅ、この小屋が見えたと。お主達は何者じゃ?」


 ホークは他の五人を紹介し、今までの経緯を簡単に説明した。


「なるほどのぅ。たまたまというわけでもないみたいじゃの」


 初老NPCが言うには、ここは限られた者しか見えないように結界が張られているという。

 何かに秀でており、ここを必要として、ここに来るための資格がある者。そういう条件が整わないといくら探しても見えないという。


「ふむ、そういう意味ではその条件を満たしている者が集まっていたようじゃな。そのうち、ここを必要とするものが二人いるとはの」

 詳細な条件に付いては教えて貰えなかったものの、その二人とはミヤビとナミのことだという。


「お主らは今修行中のようだの。満足した修行はできておるのか?」

 二人はまだ修行を始めたばかりで、基礎を学んでいるところだと答える。


「素質と知識とやる気は十分あるようじゃな。ここで修行をするというのはどうじゃ?」

「自分は鍛冶、こちらのナミは料理なのですが、こちらで修行することができると言うことでしょうか?」

 ミヤビが尋ねる。


「そう言うことじゃ。若い者に教えるのは年寄りの義務じゃからの。お主らさえ良ければここでしばらく頑張ってみんか?」


 どうやら、生産職のための特別な修行場のようだ。

 ホークのスキル【遠目】がLv.5になったため見えるようになり、修行に値するプレイヤーとしてミヤビとナミが居たため、ここに辿り着いたのではないかと思われた。


「ホークさん、ここに残ってもいいですか?」

 ミヤビがホークに聞いてくる。ミヤビはここで修行をしたいということだろう。

「もちろん。二人がやる気あるならここで一人前になって欲しい」

「「ありがとうございます!!」」


 ミヤビとナミがホークに礼を言う。


「今からお願いしてもよろしいでしょうか」

 ミヤビが初老NPCに尋ねる。


「ここは厳しいが頑張るんじゃぞ」

 そう言って、奥に声を掛けると二人のNPCが出てきた。

 いかにも鍛冶職人って感じの厳ついNPCと、料理教室の先生と言わんばかりのエプロンをしたNPCだ。


「おいはゴロウと申す。そちはミヤビだな」

「はい。ゴロウ師匠と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします」

「うむ。すべてを教えるが故、しっかり修行するのだぞ」

 ミヤビが師匠と呼んでいる。本来の目的に近づいて嬉しいのだろう。


「私はナツミよ。あなたがナミさんね」

「はい。ナツミ先生と呼ばせていただきます。よろしくお願いします」

「元気な子ね。頑張っていきましょう」

 ナミも嬉しそうだ。


 とにかく、マイスタークラスの指導NPCと出会えたのは大きいだろう。

 生産職の二人にとってはこの上ない状況と言えるのではないだろうか。


 しかし、ここまで来るのに片道2時間以上は結構な距離ではある。

「お主らは専用の施設は持っておらぬのか?」


 思わぬ質問だ。持っていると返答すると、指導NPCは出張可能だという。

 転移装置、コンシェルジュが揃ってないとダメなのだが、幸いなことにこれらもクランハウス内にあるわけだ。

「ふむ、期せずしてすべての条件が整っておったわけじゃな。さすれば話は早い。そのクランハウスとやらに戻ったらコンシェルジュに話をすればよい。指導NPCの派遣はすぐにできるであろう」


 初老NPCが続ける。

「実はあまり言ってはいかんのじゃが、そこの三人も後々修行資格が与えられるようじゃ」

 その三人とはファーマーのロックとエイミー、それにオリヴィエだ。

 農業専門の大学教授NPCがいるらしく、時期が来れば教えることが可能だという。


 ファーマーはまだ生産職としてわかる。なぜオリヴィエもなのだろう。

「そこなの魔導士は【調薬】をもっておるじゃろ。もちろんこれも生産職の括りになるわけじゃ。精進すれば上のランクの調薬ができるようになるぞ」


 なるほど、それでオリヴィエも対象になるのか。

 いつから修行開始という、その条件は教えられないというからもどかしい。度々ここにきて、初老NPCに見て貰わないと判断ができないそうなので、採取がてら来ることにしよう。


 しかし、これはすごい情報だ。壁耳組に言うべきか言わざるべきか悩む程だ。

 ただ、誰かが見つけてしまえばそれは情報にならない。一番乗りこそ情報が売れるわけだ。

 相当高額情報として扱ってもらうことで、誰もかれもということは防げるかもしれない。ミミーに交渉次第だなと思うホークであった。


 :

 :


「思いがけない発見でしたね。山登りは大変でしたけど、心地よい疲れです」

 ナミが嬉しそうに言う。ミヤビも先ほどから顔がニヤケっぱなしだ。

 本当のところ、基礎ばかりでちゃんとした指導がいつになったら受けられるのだろうかと不安だったそうだ。

 ゲームを開始してすぐには教えて貰えるとは思ってはいないものの、何も手掛かりもなく、初日も街に閉じ込められるというスタートだっただけに、いろいろ思うところはあったみたいだ。

 それが一気に進展したわけだ。当人たちにとってはこれ以上の朗報はないだろう。顔がニヤケても仕方ない。


 そして、さすが指導NPCというべき情報まで入手できたらしい。

 今回はハーブ系を中心に採取できたようだが、まだ調味料の類は見つからなかった。

 胡椒やサトウキビなどは南にあることを教えて貰ったそうだ。それ以外にも麦や米などもどこにあるか教えて貰って、前途揚々というナミであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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