100 壁耳組の窮地
『おい、ミミー聞こえてるか?なにか攻略情報はないのか!!』
ミミーにF/Cで厳しい言葉を投げている主はアルデヒド。β版のクラン”ケミカル”のクラマスだ。
場所はニーマニの西、砂漠地帯のど真ん中。暑さもあり、かなり苛立っている。
情報料はきっちり取るのに、第二フィールドのエリアボスの情報すら仕入れられない、そういう思いから声も大きくなるというものだ。
『こちらも精一杯集めてるわよ。突破組からは、ごり押しでいけるとしか言わないのよ!』
『お前が情報料をケチってるから、肝心なところを出してもらえないんじゃないのか?最初のクエストと同じでなにかカギになるようなものがあるのだろうとは思わんのか?』
『それも含めてちゃんと交渉してるわよ。舐めないでよね。そりゃ現金が無くて借りばかりなので出し惜しみされても文句は言えないけどさ……』
『そういうのは最初は肝心だろうが。この前のも買い叩いたんじゃねーのか。向こうの言い値で支払ったのかよ!』
『……こちらからの提示額でいいって言われたから。確かにマズったかもしれないけどさ。でも向こうも納得でサインしたわけだし……』
ミミーは困り果てていた。これじゃ情報屋として面目丸潰れだ。イーチマ脱出のクエストは上手く捌けたし、一応面目は保てたと思っていた。
しかしながら、クランを作るための直前、第二フィールドのエリアボスでこんなにも手間取るとは誰も思わないじゃないか。
それも手練れのβ版のメンバーでだ。それが軒並み突破できないってどういうことだ。
ニーマキの北門でミミーとメアリーが相談している。
そこに、壁耳組攻略班リーダーのショージが帰ってきた。またもや死に戻りをしたようだ。
「こりゃダメでござるよ」
既に10回以上パーティ全滅を繰り返している。
「どうやっても、きっかけすら見つからないでござる」
レベルやスキルを考えても、あのリオンのところとそう変わるとは思えない。それなのに、惜敗というレベルではない、完敗なのだ。
どうやって突破したのだと、バトル動画を見せてほしいくらいの状況になっている。
戦略を立てても、毎回行動パタンが変わってくるという。それも巧妙な連携での攻撃だ。
前衛が押すと、すぐさま後衛がズタズタにやられる。かといって後衛を守る陣形を取ると一点突破するように突っ込んでくる。
タンク役にヘイトを集めても、攻撃力が半端なく盾の役目を果たさない。魔法職をそろえてもダメ。戦士職だけの力押しもダメ。バランス型もダメ。
それこそいろいろなパタンで挑んでいるが、すべて跳ね返されている。
他のパーティも同じだそうだ。もう情報料とか言ってられないから、いくつかのクラン予備軍と連携して情報交換をしているが、これという効果がない。
「どうしたらいいんだろ……」
「リオン殿からはこれ以上情報は無理でござるか?」
「何度か聞いたんだけどね。特に難しくないよーってばかり。しかも東はメンバー入れ替えて三回勝ってるんだって」
「三回……でござるか?」
「そう。せめてパーティ構成教えてほしいところなんだけど、こういうのって本当の最終手段じゃない。当然スキルなどもってことになるから、情報料も7桁は用意しないとダメだろうし」
「難しいところでござるな」
「何かアイテム系だったら楽なんだけどね。それだったら、前と同じだから向こうも隠すことなく教えてくれてるだろうし……あーどうすりゃいいのかわかんないわ」
ミミーが頭を抱えて悩んでいる。
タイミングが良いというのか悪いというのか、例のメッセージが流れてきた。
「…………」
言葉なく突っ伏したミミー。
「大丈夫でござるか?ミミー殿、ミミー殿――――」
ショージの声が響き渡る。
「他のパーティかもしれないでござる。気を確かに。情報を集めるでござるよ」
「……そうね、情報を集めてナンボの壁耳組だわね。まさかと思うけど一応リオンに聞いてみるわ」
『……リオンさん、今よろしいでしょうか?』
『ちょっと待って。今ドロップ品集めてるから!』
ミミーはがっくり項垂れた。またもやリオンが突破したらしい。
他のパーティならなんとか攻略法を仕入れることができるかもしれないと思った。
しかしリオンだと、返ってくる言葉は同じでしかないだろう。
『……また後ほど連絡します』
これを言うのが精一杯のミミーであった。
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