第1章第四話
吾輩は、天才である、名前は天馬 才ノ目。俺ほどの天才となれば敵組織から逃げつつ目的の場所に行くことは造作もないわけだが、今俺の横にいるこの小娘は生意気にもこの俺の天才すぎる運転によって眠ってしまったようだ、全く世話が焼ける。え?それは気絶じゃないかって?ご冗談を、もし気絶しているとしてもこれは俺の運転が天才的なだけで例えば敵組織の車に無理やりこの車をぶつけてスリップ、のちに大破させたり、この小娘がいる方の壁と高速に着いていた壁で敵組織の車をサンドしてぶっ壊したりして逃げたというかどちらかというと倒したに近いことをしたからショックで気絶してるとかじゃない。決してない!
「全く、世話の焼ける娘だ。はぁ。」
「…何が『はぁ』だ。この野郎…。」
「お、起きてたか小娘。」
「えぇ、あなたのおかげで無事死にかけました。」
「おいおい、俺をあんまり甘くみるなよ?俺はちゃんと加減はした。」
「そりゃまた随分と大雑把な。」
「いやいやいや、かなり精密だぞ?お前みたいなクソ生意気な小娘がショックで気絶はするが死なない程度に加減したんだからな。」
うむ、この素晴らしく天才的な運転技術にこの雌猿はもっと感謝すべきである。みんなもそう思うだろう?いやみんなって誰だよ。
「この人にこれから自分の人生預けるって思うとなんだか不安で仕方ないです。」
「そこら辺は問題ない、今まで君を利用してきた全てのものより最適に君を使いこなすと約束するさ。」
「まだその話は早い。みたいなことは言わないんですね。」
「馬鹿か?お前。この俺だぞ?この世界一の頭脳を持ち、人間の限界点である俺が組んだこの作戦にただの人間如きが破れるわけがないだろ?アホなことをぬかすな。」
「っふふ。そうですね。貴方は完璧なんですもんね。」
「違うぞ。」
「え?」
「俺は確かに天才と言ったが、何も完璧とまではいかない。精精人間の中では完璧だな、本当の完璧っていうのは、本当の完璧の称号を持つあの人は。俺なんかより遥か上、神様なんかも通り越して誰にも追い付けないところにいる。それに比べたら俺なんてただの凡人だ、そう考えるとお前ら凡人は猿みたいなもんだな。いや、もっと低俗なー、サイとか?」
「あはは。」
このガキ俺の発言にひきやがった。まぁ精精ひいてるといいさ、のちに痛い目見るのはあっちだ。
「そういえばここってどこなんですか?」
「ん?あぁ、今は高速を降りて裏路地を右往左往しながら目的地に向かってる途中、順調に進めばあと一時間もありゃつくな。」
「えらく早いですね。あー高速に乗ったからか。」
「まぁ、そういうこっちゃな。、、、さてと。」
「何かやるんですか?」
「あぁ、まぁな。」
そう言うと才ノ目は結衣を車から無理矢理下ろした。
「いきなり何するんですか。」
「何って、後ろを見ろよ。」
そう言われて結衣は振り返ると、後ろには和服を着た見慣れた男がいた。
「お父さん。何で、、」
「お前を引き取ってもらうように俺が呼んだ。言ったろ?俺がお前を誰よりも上手く利用してやるって。お前さ、死ねよ。」
「え、、」
「おいおいそんな顔するなよな、こっちだって必死なんだよ。やらなくて済む戦闘はやらないにこしたことないだろ?お前の親父さんだってそうしたいはずだ。なぁ親父さん、死者は少ない方がいいだろ?」
「あぁ、それについては私も承知している。全く恐ろしいやつだな君は、自分が数十人という敵から狙われているというのに、恐るどころか脅してくるとは。、、その勇気に免じてこれ以降の戦闘をしないと約束しよう。」
「そうかい、それなら安心だ。さて、話も済んだことだしさっさと行ってくれるかい?うちの社員がまだこの状況を理解してない状態でこちらに向かっている。戦闘はしたくないんだろ?」
「、あぁ。ではこれで。」
「ちょっと待てよ、オイ!天馬 才ノ目!」
結衣の父親の取り巻きたちに、彼の車に押し込まれそうになりながら彼女は叫ぶ。
「俺はここにいるさ、お前が勝手に離れていくんだろ?」
「この、、裏切り者がぁ!貴方は、貴方達は私の味方になってくれるって信じてたのに!」
「だったらつぎの人生に活かせよ?『無闇に人を信用しない』ってな。」
それを聞き、彼女は声にならない叫びを上げながら開き切った瞳孔をこちらに向ける。
「ごめんな、小娘。」
バタン、ドアが閉まる。何やら叫び声は微かに聞こえるが次になったエンジンの音に消されてしまった。
車が見えなくなって数秒後
「俺を見張る監視はいないと、、、。じゃあやりますか。」
数十分後、、、
「電!大変だ!あの小娘が!」
俺は取り敢えず全身に血糊(極限まで他に似せた奴)を体に纏わせ電にしがみ付いた。いやーそれにしても長かった。俺うつ伏せになってここで十分くらい倒れてたんだよ?もーコンクリが肉に刺さって痛かったー。
「結衣が、、、何?」
「俺は抵抗したんだ、だけど、、すまん。」
「連れて行かれたと、、分かった。ここからは俺が1人でやる。」
ふぅ、これで取り敢えずは俺の仕事は終わりかな。それにしても電、すげぇ顔してんな。これはガチで切れてる顔だ。こえぇ。
「じゃあさっさと仕事終わらせてくる。」
「あぁ、後から行く。」
「三日月流第一の構基礎の型『爆速』」
左足に溜められた巨大なエネルギーは足先に集中、爆発。コンクリートの破片が散るのをやめた頃にはもう彼はいなかった。
「はえぇ。」
さて、俺も早く車に乗りますかね。
ミニバンに乗ると、急いで行こうとしたのだが、やっぱりのんびり進むことにした。
『三日月流』とは、カウンター技を主流とする流派の一つである。その技の多くはエネルギーを多用し、彼らはそれを『気流』という。彼らはエネルギーを最も理解し、利用し、また利用されていると言われている。三日月流は世界一の流派である。が、その力を使える者は限られている。一流以上の武術の才能。それを極限まで鍛え上げる胆力。そして何より、自身の持つエネルギーの量が重要とされている。例えば先程電が使っていた『爆速』は、自身の持つエネルギーを拇指球に集中し圧縮、一気に爆発する事で、レースカーよろしくなスピードで移動できる技なのだが、実はこの技相当危ない。一般人は勿論、並の達人でさえ溜めたエネルギーに耐え切れず、粉々に砕け散る。全く、うちの社員は化け物だな。
「はぁ、全く人外ってのは、羨ましいね、少し。」
木造平家の大きな屋敷が私の家、いや、私の父の家なのだろうか。昔から私を物としてしか見ておらず。実際今もこうやって、すがった人たちに裏切られ、見捨てられ、1人部屋に閉じ込められている。ここは独房だ。この窓も光もない部屋だけじゃない。この屋敷が大きな独房だ。
「おい、時間だオヤジが呼んでる。出ろ。」
「…」
「何ダァ?その目は、早く出ろって言ってんだろ!?」
そう言いながらその男は私を無理矢理部屋から出す。もう抵抗する気などない。ここで終わりだ。全て。奇跡なんて、起こらない。
「あぁ、お前に奇跡なんて起こらない。」
三人の男達に連れられ、私は父のいる大きな部屋に出た。辺りは畳しか無く、無駄に広く感じるこの部屋は、まるで処刑場だ。
「お父さん…。」
「お前ら、この部屋を出ろ。」
「「「はい、失礼します!」」」
そう言って男達は部屋を出た、1人を除いて。
「おい、出ろって言ったのが聞こえなかったか?」
「…えか。」
「あ?」
「お前が結衣の、父親か。」
「お前、誰だ?」
目元までかぶっていたキャップを取ると彼は言った。
「天津 電、何でも屋だ。」
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