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何でも屋は何でもする  作者: 阿須野夢見
1.5章
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第1.5章第五話

「行くぞ、結衣。」

「はい!…ん?今結衣って言いました?言いましたよね!やっと小娘とか馬鹿とか言われなくなったんだ!いやっほーい!」

「ん?、あ、ほんとだ。なんで俺おまえの名前言ったんだ?俺。あ、そっか。お前の能力か。」

「能力…え、まじっすか。私そんなことのために私能力使ったんですか?」

「そうだな馬鹿女。そうじゃなきゃこの世界一の大天才様である俺がお前の呼び方を間違える訳がないだろ。」

「あーはいはいそーですねー。」

「棒読みやめろ。まぁでも馬鹿女。気ぃ引き締めとけよ。ここは旧渋谷。高田馬場ほどではないにしろここも大気は汚れ、相当荒れている。今回目的のぬえ以外にも大量の化け物が潜んでたりするからな。ほら、そこにも。」

 社長の指差した先に、動く何かが見える。

「鼬?鎌?なんですかあれ?」

「鎌鼬。俗に言う怪異の一種だ。気ぃ抜いてると足切られるぞー。」

「え⁉︎」

 私はその場に蹲る

「まぁ切るっつっても切り傷程度で済むだろうが。」

「ちょっびっくりさせないで下さいよ!」

「お前が怪異の知識が疎いのが悪い。…あ。センサーが反応したってことは、、、。」

「来ますか?」

「あぁ。マスクつけとけ。」

「はい。」

 

 周囲に黒雲が立ち込める「ヒョーヒョー」と言う声が聞こえる。ぬえ特有のトラミツグに似た声。とある歴史に、この雲に矢を放つことでぬえを撃ち落とした例がある。その時もぬえの幼体でそして今この場にいるのも幼体だ。だったら俺は…

「おい小娘!耳塞げ!」

「え?はい!」

他にある手榴弾の栓を抜き空中に投げ、後ろを向いて耳を塞ぐ。途端空中で破裂した手榴弾は黒雲の悲鳴を引き出した。「ヒョーヒョー」。先程が威嚇だとすれば今のは悲鳴だろうか。後退りしながら実体を見せる。猿の顔。狸の体。虎の手と尻尾に生える蛇。間違いない。

「ぬえだ。」

「で?こっからどうするんですか。」

「どうするって…こうする。」

 ぬえの胴体、首に巻きつく突如として現れた大量の鎖。

「α。そのまま締め上げろ。」

 ぬえはもがく。が、次第に力がなくなっていく。その様を見ながらこのバカは言う。

「あの。いつも思うんですけど。このαって機械、なんでこんなにすぐに色んなものになれるんですか?すごい小さい鉄が集まって作ってるっていうのは分かるんですけど。」

「前にお前に話したが、これは俺の1番強く想像したものに変化する。そしてこのαは俺の脳電波の感度をマックスにしている。だから想像が完了するのとほぼ同タイミングでαの構築が終了する訳だな。」

「でもそれって社長が他のこと想像したらそれが作られちゃうってことですよね。」

「は?凡人は黙ってろよ。さっきも言ったろ?1番強く想像したものに反応するんだ。人間ってのは常時想像する生き物だ。だがその想像には優先順位があってだな、俺はそれを意図的に操作してるんだよ。ま、そんなこと。俺しかできないだろうがな。…あと終わったぞ。死んだ。あとはこれを依頼主に渡して、終わりだな。」

「意外とあっさり終わりましたね。」

「そうだな。まぁでも、こんなもんだろ。」

 今は逢魔時。俺じゃ対処しきれないことが起きる可能性がある。早く帰ろうと振り向き、一歩目を踏み込んだ時。背中を舐められるような悪寒が体に襲いかかる。俺が予期できてない。予想外の出来事が起きた?つまり、人以上の何かが狙ってる。くそ、フラグ回収速ぇー。

「おい馬鹿!逃げるぞ!」

「は、はい!」

 この馬鹿。完全に体が固まってる。いっそのこと気絶させてαに運ばせるか?いや、それはダメだ。αはぬえの運搬用と俺たちの護衛用に使う必要がある。だったらβを、、いや、あれも今はダメだ。天才で逃げる未来を選択できればいいが。今はまだ不確定要素が多すぎる。せめてその人以上の何かが現れれば…

 途端、空中から巨大な影が目前に落ちる。立ち込める煙、飛び散るコンクリートの中に見える禍々しい二本の角。赤身がかった筋肉質の全長3メートルを超える体。そして何より、こちらが食われる側だということを脳裏に焼き付けさせるプレッシャー。

「鬼か、しかも日本のタイプ。」

 日本の鬼は、怪物というより神として崇められるケースの方が多い。こうなると戦況は絶望的。でもこれで…

 口にフリフクを一錠放り投げ叫ぶ。

「『天才』」

 ここは無限の荒野。目前に広がるは未来という旗。その数は八百万。俺が選ぶ未来は『ここから逃げ出す未来』なのだが、ない。か…取り敢えずここは『より長く生き残れる未来』。

 「おい馬鹿、お前はまっすぐ振り返らず、車を目指せ。いいな、じゃあ、、行け!」

「はい!」

 よし、そうだ、馬鹿が逃げるぞ。追いたいよなぁ追いたいよなぁ!

「グルァア!」

 鬼は逃げる少女に体を向け、その体にそぐわないスピードで少女の前に回り込む。

「っ⁉︎」

 鬼の体を鎖が巻きつく。

「グラァアアア!!」

 拘束を解こうともがく鬼の咆哮に馬鹿の腰が抜ける。絶体絶命。だからこそ。

「2回目の『天才』‼︎」

 選ぶのは、『天ノ河 結衣の能力が使われる未来』。

 才ノ目は力尽きるように倒れる。

 クソ、2回目の反動か。こうなるとαはもう使えない。頼むぞ馬鹿女。お前の奇跡にかける。

 αの拘束が解けた。


 不味い。まずいまずいまずいまずい!これ、死ぬ。

 死を目の前に涙、汗を流している暇などなく。だが心音はいつもより煩く脳内に響く。これが、命。

 鬼の太く、そして屈強な腕が巨大な金棒を持ち上げ、その影が私を隠す。これで殴られたら、私の体はどうなってしまうのだろう。想像なんてしたくもない。いやだ、まだ生きていたい。

 体は怯え、動かぬ肺で僅かに叫ぶ。自分の『能力かのうせい』を信じて。

「死にたくない。」

 

 鬼の金棒が振り下ろされる。激しい地響き、巻き上がる煙、うちの社員のピンチに動けねぇなんて…情けねぇ。

「そんなこともないんじゃないかしら。code:Genius。」

「グルルゥ…‼︎」

「三日月流基礎の構攻の型『覇拳』」

 鬼の胴体は撃ち抜かれ、それでも有り余る力に、鬼は空中に吹っ飛ばされた。そして鬼がいた場所には、一人の馬鹿が立っていた。少なくともその場に三日月流を使えるような者は居なかった。いや、一人いる。

「ふぅ、この体はダメですね。まさか覇拳一発で腕が折れるとは…。」

「待てよ。一つ確認させてくれ。あんた。『結衣姉』でいいんだよな。」

「ええ、この体の持ち主の能力ね。私の能力と違っていい力だわ。」

「あんたはその分その技があるだろ。若干15にして三日月流元師範。」

「そうね、少なくとも彼女よりは私は強いわ。そんなことより、彼は元気?」

「生きてはいるよ。あんたを失った悲しみを抱えて。今度はその体の本当の持ち主を守るって、今一歩づつ歩き出したよ。」

「そ。」

 少し頬を緩めた。

「で、あんたはその体を乗っ取るのか?あんたの能力はそれが出来るはずだ。もしそうならば、俺はお前を止めないといけない。」

「その形で?立ってるだけでやったじゃない。それに天才を二回も使ったのでしょう?それでは私に絶対に勝てないわ。悪いけど私も手加減できないの。」

「それは俺もだよ姉さん。うちの大事な社員にその馬鹿を守れって言われてんだ。守んのはお前じゃねぇ。」

 とは言ってもきついぞーこれ。右腕が折れてるとは言っても俺は今戦えるような体じゃないからな。それに今表に出てるのは姉さんだが体はあの馬鹿だ。傷つけたりしたら電に殺される。使うか?後一回の天才。

「顔が焦ってるわよ?二回も能力を使ったせいで最高の天才からただの天才になっちゃったかしら。でもごめんなさい。私も甘くはない。邪魔するならあなたを殺すわ。今なら簡単でしょう。」

「させねーよ。」

 迷ってる暇はねぇ。

 「『天才』‼︎」

 選ぶのはー

「どうせ私の能力が使えないとかでしょう?だったらあなたを殺すだけ。」

「三日月流第一の構基礎の型『爆速』」

 彼女の完璧な爆速は、音も煙もなく。ただ凄まじいスピードでこちらに向かってくる。が。

「バーカ。」

 空中から、何かが降ってくる。

「俺が選んだ未来はそんな未来じゃない。もっと可能性のある未来だ。あとは頼むぞ。」

「これは一体。…まさか。」

「あぁ、ずっと会いたかった。あなたを愛していた。今でもずっと愛している。」

 見つめ合う二人。一人は歓びに溢れ、一人はただただ、暗い。

「『三日月みかづき じん貴方を愛しています。」

 彼の名前は三日月 神。又の名を、天津 電という。

てーすーとーきーかーんー

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