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精霊の子鬼と涙の月

作者: うららぎ
掲載日:2019/06/08

一枚の絵から物語ができました。


 ここには何(なに)もありません。

 あるものといえば砂(すな)くらいです。


 夜 空(よぞら)に輝(かがや)く黄 色(きいろ)い月(つき)は、みんなを照(て)らしています。


 みんなとは違(ちが)うから、ぼくは一人(ひとり)でした。

 ぼくの頭(あたま)には角(つの)が生(は)えていて、みんなにはありません。

 月(つき)は一人(ひとり)でいるぼくも見守(みまも)ってくれています。


 一 粒(ひとつぶ)の雫(しずく)が月(つき)から落(お)ちてきました。

 その雫(しずく)を食(た)べると、とってもしょっぱい味(あじ)がします。


 まるで月(つき)から流(なが)れた涙(なみだ)のようでした。

 しょっぱい味(あじ)から悲(かな)しい想(おも)いを感(かん)じます。

 けれどぼくは、この味(あじ)は嫌(きら)いではありません。


 いくつもの雫(しずく)が落ちてきて、辺(あた)りの砂(すな)に染(し)みができます。

 染(し)みが乾(かわ)くと、見 渡(みわた)す限(かぎ)りただの砂(すな)がいつまでも続(つづ)いているように見(み)えました。

 前(まえ)までは森(もり)があった場所(ばしょ)は、砂(すな)だけになっていました。


 うん。


 このしょっぱい涙(なみだ)のせいで砂(すな)になるのなら、全 部(ぜんぶ)ぼくが食(た)べよう。

 ぼくは夢 中(むちゅう)になって月(つき)から落(お)ちてくる涙(なみだ)を食(た)べます。


 月(つき)は終(お)わる事(こと)のない涙(なみだ)をこぼしています。

 まるで本当(ほんとう)に泣(な)いているようでした。


 なぐさめてあげることができないから、せめて全部(ぜんぶ)ぼくが食(た)べよう。

 ぼくは涙(なみだ)を食(た)べ続(つづ)けました。


 食(た)べ続(つづ)けていると、ぼくの角(つの)に変化(へんか)がありました。

 角(つの)の先(さき)から透 明(とうめい)な水(みず)がシャボン玉(だま)のように大(おお)きくなっています。


 手(て)と同(おな)じくらいの大(おお)きさの水(みず)は、ぼくのまわりにたくさん浮(う)かんでいました。

 その水(みず)を見ていると、一 斉(いっせい)にはじけて砂(すな)の上(うえ)に落(お)ちました。

 そこには小(ちい)さな水 溜(みずた)まりができて、草(くさ)が生(は)えてきました。


 月(つき)から落(お)ちる涙(なみだ)は止まりません。

 ぼくは涙(なみだ) を食(た)べることしかできないから、残(のこ)さないように全 部(ぜんぶ)食(た)べます。


 気(き)がつけば、いくつもの小さな水 溜(みずた)まりができていました。

 周(まわ)りには角(つの)が生えていない、ぼくと同(おな)じ 姿(すがた) の精 霊(せいれい)が涙(なみだ)を流(なが)していました。


 月(つき)から落ちる涙(なみだ)で、彼(かれ)らは住(す)んでいた森(もり)が枯(か)れ果《は》てしまったのです。

 涙(なみだ)を食(た)べられるのは、ぼくだけだ。


 ぼくはみんなの分(ぶん) も 涙(なみだ) をたくさん食(た)べました。

 そのおかげで、ぼくの角(つの)から大 量(たいりょう)の水(みず)が振(ふ)りまかれました。


 草(くさ)は木(き)になり、木(き)はやがて森(もり)になりました。

 精 霊(せいれい)たちは 喜(よろこ) び、みんなで踊(おど)り出(だ)します。


 それを遠(とお)くから見(み)ていると、精霊(せいれい)たちがぼくの手(て)を引(ひ)いて踊(おど)りの輪(わ)に入(い)れてくれました。

 仲 間(なかま)に入(い)れてもらったぼくは、みんなと楽(たの)しく踊(おど)りました。


 それからは月(つき)から涙(なみだ)が落(お)ちなくなりました。

 月(つき)はひとりだったぼくに涙(なみだ)を流(なが)していたのかもしれません。


 ぼくは月(つき)に手(て)を振(ふ)りました。

 月(つき)は最 後(さいご)に一 粒(ひとつぶ)の雫(しずく)を落(お)としました。


 ぼくは月(つき)にありがとうと言(い)って、その雫(しずく)を食(た)べました。



短編は初めて書きました。

よかったら、評価を押してもらえると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 詩のような絵本のような、静かな優しい雰囲気に引き込まれました。 好き!
2024/01/01 12:06 退会済み
管理
[良い点] なんかとてもステキなお話だったので、4歳の娘に読み聞かせました。 角のあるボクと月の関係がとてもかわいらしくて、ほっこりしました☺︎ 娘も最後まで集中して聞いてましたね。 嬉しかったようで…
[良い点] 小鬼のために涙する月、月を慰める代わりに涙を食べ続ける小鬼の優しさが胸にぽっと火を灯すような温かい作品にしていました。 絵本として読み聞かせたいような、小鬼の視点による平易な文章と敬語とが…
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