精霊の子鬼と涙の月
一枚の絵から物語ができました。
ここには何もありません。
あるものといえば砂くらいです。
夜 空に輝く黄 色い月は、みんなを照らしています。
みんなとは違うから、ぼくは一人でした。
ぼくの頭には角が生えていて、みんなにはありません。
月は一人でいるぼくも見守ってくれています。
一 粒の雫が月から落ちてきました。
その雫を食べると、とってもしょっぱい味がします。
まるで月から流れた涙のようでした。
しょっぱい味から悲しい想いを感じます。
けれどぼくは、この味は嫌いではありません。
いくつもの雫が落ちてきて、辺りの砂に染みができます。
染みが乾くと、見 渡す限りただの砂がいつまでも続いているように見えました。
前までは森があった場所は、砂だけになっていました。
うん。
このしょっぱい涙のせいで砂になるのなら、全 部ぼくが食べよう。
ぼくは夢 中になって月から落ちてくる涙を食べます。
月は終わる事のない涙をこぼしています。
まるで本当に泣いているようでした。
なぐさめてあげることができないから、せめて全部ぼくが食べよう。
ぼくは涙を食べ続けました。
食べ続けていると、ぼくの角に変化がありました。
角の先から透 明な水がシャボン玉のように大きくなっています。
手と同じくらいの大きさの水は、ぼくのまわりにたくさん浮かんでいました。
その水を見ていると、一 斉にはじけて砂の上に落ちました。
そこには小さな水 溜まりができて、草が生えてきました。
月から落ちる涙は止まりません。
ぼくは涙 を食べることしかできないから、残さないように全 部食べます。
気がつけば、いくつもの小さな水 溜まりができていました。
周りには角が生えていない、ぼくと同じ 姿 の精 霊が涙を流していました。
月から落ちる涙で、彼らは住んでいた森が枯れ果てしまったのです。
涙を食べられるのは、ぼくだけだ。
ぼくはみんなの分 も 涙 をたくさん食べました。
そのおかげで、ぼくの角から大 量の水が振りまかれました。
草は木になり、木はやがて森になりました。
精 霊たちは 喜 び、みんなで踊り出します。
それを遠くから見ていると、精霊たちがぼくの手を引いて踊りの輪に入れてくれました。
仲 間に入れてもらったぼくは、みんなと楽しく踊りました。
それからは月から涙が落ちなくなりました。
月はひとりだったぼくに涙を流していたのかもしれません。
ぼくは月に手を振りました。
月は最 後に一 粒の雫を落としました。
ぼくは月にありがとうと言って、その雫を食べました。
短編は初めて書きました。
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