いつも通り
一章はせめて失踪しないで書ききりたい。
「はぁ………はぁ…………はぁ……」
少年が息を荒げながら佇む足元にはゴブリン、この世界で単体なら最弱クラスと言われる魔物が倒れていた。
少年の手には少年の拳より少し大きい石が二つ握られていた。
ゴブリンにやられたのか少年は傷だらけで、風でも吹けば何処かに飛ばされてしまいそうなほど弱弱しい。
けれど少年にとって見ればこれはいつものことだった、森に入り一人群れからはぐれたゴブリンを倒し、どうにかして魔石を取り出しそれをギルドで売る。
そんな事を半年は続けていた。
最弱クラスの魔物と言っても、それは体が出来た大人で、しかも武器を持った状態で取るに足らない相手ということであって……決してスキルも持たない子供がろくな武器も持たず戦うのは捨て身に近い。
ゴブリンの魔石は一つパン一個程度の価値しかない、育ち盛りの少年には全然足りないがそれでもどうにかして日々を生きていた。
何とか疲弊している体を動かしゴブリンから魔石を取ると、いつものように一度町に帰る。
十分も歩けば町の門の入り口で、いつもと同じ人が立っている。
何度もこうしてこの門潜るうちに顔を覚えられたのか、今は聞き取りすら行われくなった。
暫くして冒険者ギルドに着く、この朝と昼の丁度中間あたりの時間は冒険者は基本みんな依頼に行っているので、人は少なく、職員の人がせっせと書類を運んでいる姿が良く目立つ。
そんな職員の人たちを横目で見つつ、入り口から向かって左にある買取場所に向かう。
ゴブリンの魔石を一つ渡し、いつものようにパン一つ分のお金が渡される。
そしてその渡されたお金をもとにいつもの所でパンを買い、おまけでついてくる飲み物と一緒に流し込む。
腹ごしらえをした後、また少年は森に向かう。
ゴブリンを狩るほどの体力は残っていないが、薬草や食べ物など、ギルドで常時依頼されているものを採取する。
ここで少しでも稼いでおかないと靴も服もまともな武器も買えない。
親がいない孤児が一人でやっていこうと思うなら最低限の身なりはしていないといけない。
身なりが悪いとそれだけで対応が悪くなるし、最悪話を聞いてもらえない。
字が読めない自分にとってそれは死活問題だ、だから自分は武器よりも先に服と靴を買った。
もうそろそろ靴がダメになりそうだが、それよりもやっとあともう少しで武器を買う金がたまりそうだった、と言っても初級冒険者が剥ぎ取り用に持つやっすいナイフだが、石と比べればとんでもないほどの進歩だ。
もしかしたら一日二体のゴブリンを倒せるようになるかもしれない。
そうすれば教会で固有魔法を授かる為の金を貯める余裕が出来る。
あともう少し、あともう少しで現状が変わる。
そんな風に考えながら少年はいつものように薬草を探す。
勘違いしてはいけない。
この少年の生活は少年だから実現可能な物だ。
ろくな武器も持たず魔物と戦う勇気、教育を受けたわけでも無いのに自然と出来る現実的思考、栄養失調で倒れても何ら不思議が無いのに半年間もこの生活を繰り返すタフさ。
孤児になった時点で運がいいとは言えないが、少年は孤児でもまだましな方だった。
あと半年で少年は十三になる、そうすればやっとスキルが手に入れられる。
『ステータス』
〈名前〉 グラン
〈性別〉 男
〈スキル〉 無し
〈固有魔法〉 無し
〈称号〉 孤児
「ステータス」、そう口に出せばこんな感じに半透明の何かが表示される。
文字の読めない自分には理解できないがスキルや固有魔法について書いてあるらしい、誰か文字を理解する人が欲しい。
少年、いやグランは読めもしないステータスを消しまだ暫くの間薬草を探し回った。
グランはその日、夕方ごろまで薬草を探し切り上げることにした。
やることは変わらない、ギルドに魔石の代わりに取ってきた薬草などを渡すだけだ。
最近はやっとパン一つ分届くか届かないか程度まで稼げるようになった、薬草の見分けがつくようになり、生えている場所も経験則から大体当てられるようになってきた。
ただこの量の薬草を集めるのはとても時間がかかる、グランがゴブリンを倒すのにかかる時間が二、三分。はぐれてるゴブリンを探したり周りに本当に魔物がゴブリン以外いない確認するのに一時間程度、魔石を取り出すのに五分程度、合計一時間十分と仮定してすると……薬草は四時間でゴブリン一つ分あるかないかだ。
それに結局の所、採取だって魔物がいる森で行なう為危険性自体は大して変わらない。
グランは魔物に囲まれたらあっさり死ぬのだ、そんな日々死ぬかもしれないといったプレッシャーの中、グランは日々森に入っている。
ギルドを出ていつも寝ている裏路地に移動している途中、気が抜けたのか急に体の力が抜けてふらついた。
幸い人にぶつかることも倒れることもしなかったが、最近この現象が起こることが増えた。
ただグランにはそれを改善する術はなく、せめて森にいる時はやめてくれ。
そんな事を思いながら裏路地に急いだ。
裏路地は表通りと違って静かだ、人が倒れてるなんてよくあることでみんな目が虚ろだ。
酷い悪臭も今じゃそこまで気にならず、いつも自分が寝てる寝床に着いた。
この場所は袋小路になっていて風もあまり来ないし、太陽の光も入ってこず暑くない。
雨の日はギルドでなけなしの金で何か飲み物を買い朝になるまで二階の酒場で過ごす。
金が減るには最悪だが雨に一日中当たると次の日体が動かなくてもっと最悪なことになる。
グランはそう学びその日以降雨の日は金を払ってでも酒場に居座っている。
適当に落ちていた布を集めて作った簡易的なベットに寝っ転がり目をつむる、まだ夕方で一般的に寝る時間とは言い難いがグランは大体この時間になると疲れのせいで強烈な睡魔が襲ってくる。
グランは今日もまた、睡魔に逆らうことなく眠りにつくのだった。