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悪魔の娘の幸福論  作者: 朝日菜
第二章 キングドラゴン
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第三話 二人の旅立ち

 シャルムやアンリと別れた後、俺たちはなんとなく城内を歩く。二人に出逢う前もこうして二人で歩いていたが、その理由は特にない。

 ただ、アイオンが歩くから俺もアイオンについて行く。それだけだった。俺がこの国に来てやりたいと思えることは何一つなく、一人で生きているシャルムとは違い魔女のアイオンから離れられなかった。


「……あ、ディーノ」


 身構えるが、ディーノは気にした様子もなく足を止めた。


「アポロ王子、アイオン。……どうしたんだ? 暗い顔をしているが」


 俺たちは顔を見合わせる。ディーノの表情が険しくなったが、このことをディーノに言ってもいいのだろうか。


「シャルロットから聞きました」


 瞬間、アイオンが口を開いた。


「聞いた? 何を」


「シャルロット自身の話をです」


「……なんだと?」


 ディーノが警戒心を顕にする。なんでそこまで過剰反応をするのかはわからないが、ディーノとシャルムは何か特別な縁で結ばれている。そう思わざるを得なかった。


「本当にシャルムが二人に話したのか」


「祖国からビギナに連れ去られたこと。ビギナでホワイトドラゴンとアトラスに救われたこと。そこからアリシアに来たことをです」


 警戒心が何故か解かれる。なんで解かれたのかはわからないが、聞かれたら不味いことをシャルムが話していないという証拠だった。

 それがなんなのかはわからなかった。


「教えてください、ディーノ。シャルロットを連行した黄色と青の兵士はアルゼオナ国の者ですね。そして、シャルロットをビギナに連行しろと――シャルロットをビギナで処刑しろと命令したのは、リトポス教の者ですね」


「そこまで知っていて何故俺に聞く。《古の魔女》、アイオン」


「貴方も私を知っているのですね。《人殺し魔女》の息子、ディーノ・アシュクロフト」


「…………」


 ディーノは黙る。彼が醸し出す雰囲気は普通の人のものではなく、俺は慌ててアイオンを小突く。だが、アイオンは何も聞かなかった。


「お前はアトラス王が呼んだ魔女だ。俺は、今はまだ仲間だと思っている」


「そうですか。ですが、私は永久に一人ぼっちです。今さら仲間など不要です」


「アイオン! お前なんでそんなこと言うんだよ……! ごめんなディーノ、アイオンのこういうところは一生直らないと思うんだけどほんとごめん!」


 代わりに謝る身にもなってほしい。

 ディーノは俺の謝罪をまともに受け取らず、「部外者は黙ってくれ」と一蹴した。魔法使いではない俺は、多分一生部外者だった。


「一人ぼっちの人間などこの世にはいない。シャルムが一人ではないようにな」


「シャルロットは本当に一人ではないのですか? メイドにもなれず、魔法騎士団にもなれず、王族にもなれないあの子が」


「俺が傍にいる。アイオン、お前にはアポロ王子が傍にいるように」


 アイオンがようやく口を閉ざす。ディーノは俺たちの横を通り過ぎた。


「……アイオン、なんであんなこと言うんだよ」


「私は、シャルロットを救いたい。彼女が十年前に悪魔と契約を交わした民族の生き残りだという証明はなされました。後はあの子の中の悪意をどう取り除くかです」


「……悪魔と、契約?」


「そうです、アポロ。シャルロットは〝悪魔の娘〟です」


 鈍器で殴られたかのように頭が痛む。頭を抑えても痛みはとれない。

 まさか、あいつが俺の国を滅ぼした悪魔と繋がっていたなんて。


「じゃあ、魔女じゃないシャルムがこの国にいる理由は……」


「再び世界を覆った悪魔の脅威に対抗する為、アトラスが手元に置きたがったのでしょう。アトラスは悪魔を追い払った者の子孫です。周りの期待に応えようと彼自身も必死なのでしょう。……きっと、彼の一族は永遠に悪魔を根絶やしにする運命を背負っているのでしょうね」


 シャルムは、その運命と共に在る為に生かされた。

 俺は、祖国を滅ぼされた時に悪魔を滅ぼすと民に誓った。アイオンがアトラス王の元にいると聞いた時、運命だと思った。悪魔を追い払った英雄の子孫の元にいることはこれ以上ない幸福だったのに、何故だか物凄く息苦しかった。




 翌日、アトラス王に呼ばれた俺とアイオンはアトラス王に魔法学校に行くよう頼まれた。魔法学校――それは、空に浮かぶあの城のことを言っているのだろうか。

 魔法使いに生まれた者ならば誰もが行くであろう学校。けれど、自らの意思で師を選んだ者は見向きもしない閉鎖的な世界だと俺はアイオンから聞かされていた。


 アトラス王を慕う魔法騎士団の人たちは後者で、この中で唯一魔法学校を卒業したアイオンに自らの代わりに赴いてほしいということだった。


「アトラスは行かないのですか」


「今忙しい!」


「そうですか」


「この魔法教えるから、向こうでちゃちゃっと教えてあげてほしいんだ。まぁ、アイオンなら習わなくても特別講師になると思うがな」


 アトラス王は笑っているが、どうしてその中に俺が入っているのだろう。

 視線を上げると、アトラス王の傍らに立っていたディーノと目が合った。……これは、どう考えてもディーノがアトラス王にそうさせたのだろう。


 そのことは別にどうでも良かった。ただ、気になるのはシャルムだった。


「アポロ、アイオン。何してるの?」


「ッ!?」


 振り返ると、シャルムがいた。


「シャルロット」


「実は……魔法学校に特別講師として行くことになったんだ」


「ッ!」


 シャルムの小さな空色の瞳が大きくなる。


「……私も行きたい」


 そして予想通りの言葉を吐き、そのまま俺たちの後ろにいるアトラス王を見上げた。


「アトラス、今度こそ私も行きたい!」


「駄目だ」


 ぎゅっと、シャルムが服の裾を掴む。ディーノに味方してもらおうと思っているのか彼を見上げているけれど、ディーノも険しそうな表情をしていた。

 アトラス王に視線を戻すと、少し冷たいエメラルド色の瞳をしていた。


「俺からもお願いします!」


「ッ!?」


 前に出てシャルムと並ぶ。


「俺が絶対に守りますから! だから……!」


「アポロ……」


「アポロ王子がなんと言おうと駄目だ」


「……ディーノ!」


「シャルムを守りたいのはアポロ王子だけではない」


「え?」


「俺は、シャルムに嫌な思いをしてほしくないんだ。出先で何かあった時、周りにどう思われてもいいのか?」


「そ、れは……」


 シャルムが口を噤んだ。それは、悪魔の力が暴走した時の話だろうか。誰も〝悪魔の娘〟の存在を知らないのなら、シャルムを殺そうとする動きがあってもおかしくはない。

 特に、ベルニアが滅ぼされて悪魔に怯えて暮らしている今は。


「それに、俺との稽古もまだだろう」


「え?」


 見上げると、ディーノが僅かに微笑んでいた。


「自分の力をコントロールできていない以上はまだ外出させられないが……自分を守る為に、ディーノからきちんと学べ」


 アトラス王も、優しい瞳で笑っていた。


「……わかった。今回は諦める」


 シャルムもそれで納得した。

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