見張り当番を決めましょう
村長の家の裏の倉庫はかなり大きなもので、倉庫の中に小部屋が3つあり、そのうちの2つには既に荷物が置かれている。
農機具だけでなく、催事に使用する様々なものを置くためにもかなりの広さが必要だったのだろう。
よく分からない木組みの物が所狭しと詰め込まれている。
「4人目の部屋はどうする積りだったのよ。」
美羽の言葉を聞き流しながら、倉庫の奥を見ると、荷物と板で仕切りがされたスペースがあるのを見つけたので、指をさしてみる。
「まさか、アレ?」
「ドア代わりに馬車の幌が吊るしてあるから、その積りだったんだよ。元々、パーティーとかで来るのを想定してただろうから、仮設の部屋までは使う気は無かったんじゃないかな。」
「それは良いけど、どうしよ?」
美羽が不安そうにしている。
既に来ている冒険者は二人とも男なので、女の子独りになるのは不安だろう。
「美羽さんは女の子独りになるから、ドアのある部屋を使っても良いんじゃない?」
鍵が無いとはいえ、支えをするとかすれば、なんとかドアを開かないようにするのはできるだろうし。
「一緒じゃダメ?」
美羽から言い出すとは思わなかったな。
陽菜から不機嫌なオーラが出ているのを感じるが気にしないでおこう。
美羽と行動するようになってから、2人の時間をとれてない気がするんだよな。
「見張りの交代もあるし、ずっと3人で詰めてるわけでもないし。それにそんなに長くここに居る訳でもないし。良いんじゃないかな?それにローテーションでボクと美羽さんが一緒になることはないし。」
「まぁ、仕方ないかな。」
「さてと、そうと決まれば、荷物を置こうよ。」
「うん。」
陽菜はさっさと荷物を部屋に運び込む。
荷物を持ったまま美羽がボクに話しかけてきた。
「ごめんね。優。」
「美羽さんに何かあったら、崎田さんに申し訳が立たないよ。」
実のところ2人の関係は詳しく聞いていないけど、恋愛関係とかじゃなくても知り合いの女の子が酷い目に遭って平然とできる人間なんていないだろうし。
「ありがと。」
それだけ言い残すと美羽も陽菜に続いて部屋に入っていった。
陽菜と美羽が荷物を置いて、部屋の様子を見終わるのを待って、見張りのローテーションの打ち合わせのために、隣の部屋に向かう。
真ん中の部屋をノックするが、返事がない。
入り口の部屋をノックするも、こちらも返事が無かった。
「ケインさん!新しく依頼で来た優といいます!」
改めて叩き起こす気で入り口の部屋を拳を振り上げたところで、真ん中の部屋から男が出てきた。
縦にも横にも大きい男が気怠そうに部屋から出てきた。
「初めまして。新しく依頼で来た優といいます。そしてこちらが陽菜と美羽です。」
「ああ。ケインだ。」
「お休みのところ申し訳ありません。早速なんですが、人数が増えましたので、見張りの順番の話をしたいんです。もちろん、トムさんとも一緒に。」
「ああ?そんなの適当で良い。」
「いや、適当って…」
「増えた人数分、順番が回ってくるのが遅くなるだけだろ。今日の晩飯ん時でも、いつ順番が来るか教えてくれ。」
そう言うと、ケインは部屋に戻ろうとする。
「もう、良いんじゃない?」
美羽が追いすがろうとするボクを止める。
「分かりました。それじゃ、夕食の時にお話します。」
「ああ。もう寝るわ。」
結局ケインはそのまま置いておき、陽菜と美羽を連れて村の入り口の門に向かう。
「あ、ケインはやっぱり来なかったか。」
「ええ、決まったら教えてくれって言ってました。」
「まぁ、変わった奴だが、腕は確かだから。」
「彼のことを知っているんですか?」
「いや、ここで会ったのが初めてなんだが、何度かアイツがゴブリンを倒しているのを見ただけなんだけど、2・3匹ぐらいあっという間に片付けてたぜ。」
おいおい、キミの実力が不安になるな。
「オレはただの鉱夫だからな。」
「えっ?どうしてここに来たんですか?」
「オレの生まれた村だからな。しばらく働いていた鉱山なんだが、管理者が代わってから居づらくなってな。次の場所を探してたら今回の話を聞いて、いても立ってもいられなくなってさ。」
「そ、そうだったんですか。」
「まぁ、アイツみたいに傭兵上がりなんてそんなに居るもんでもないからな。」
そういや、トムさんの言うとおりだよな。
「あれ?そういえば、トムさんも倉庫に泊まってますよね?」
「もう、親父も死んじまったし、兄貴も結婚して子どももいるからな。」
あんまり聞かない方が良かったかな?
「すみません。無駄話をしてしまって。そろそろ、本題に入りましょうか。」
「ああ。」
トムさんとケインはしばらく番をするのが続いていただろうから、ボクらが今日の夜から優先的に見張りに入ることになる。
ついでに見張りの時間を一日に2交代から3交代に変える。
今晩ボクが見張りに入り、翌朝から陽菜、午後から深夜まで美羽、次にトムということだ。
「それじゃ、早速、今晩から頼む。」
「はい。」