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王家に筋は通しておきましょう


「極端に高価な物とか、情報の輸送を考えてるんじゃないかな?現金の輸送とかも考えられるかな?」

「現金の輸送って意味有るの?」

「その時使える現金の有無は商談の成立の可否に関わるよ。」

「そう言われてみればそうなんだけど。」

「もしかして、手形を考えているのかも知れない。」

「手形?」

 言葉は聞いたことがあるけど、実際のところはよく分からないな。

 ボクの理解の至っていない顔を見て、諦めた陽菜はそのまま言葉を続ける。

「手形の決済には情報も必要になるし、状況に応じて現金の輸送も発生すると思うの。」

「鉄道に比べてリスクが高い気がするんだけど。鉄道なら屈強な護衛をつけて輸送することも簡単だけど。」

「保守的な貴族の多いパンティアで鉄道の普及を待つなんて現実的じゃないよ。なら、自前で足を確保するしかない。」

「1台や2台でできるようなことじゃないね。」

「実現できるかどうか、実地で試したいのかもね。それに、蒸気船を欲しがらなかったから、国内での事業か自ら外に出ないで良いものに目が行ってると思うから。」

「なるほど。」

「カレン王家の方はどうするの?」

「事業の進捗は全く見えてないけど、王家には早めに話を通してた方が良いと思うんだ。」

「うん。」

「あ、執事のハメリンさんって、衛兵に話せばハメリンさんまではすぐに話を通してくれるって言ってたよね。」

「うん。そこから、まずは耳に入れておくことにしましょうか。」

 王家は形式上は使徒と積極的に関わらないということにしてるが、執事のハメリンさんには話ができるということにしている?

 それって、いつでも王家がボクら使徒の話を聞くって準備をしているってことなのかな。

 まぁ、とりあえず、悪い方向に転がるような気はしないので、ハメリンさんから情報を入れておくようにはしておこう。

「優くん、夕食は?」

「あの場所で摂る気は起きなかったんで、まだ少しは空いてるな?」

「今日は下で食べようか?」

「うん。」

 話を切り上げて、2人で宿の食堂に向かうことにした。



 翌日、王城の衛兵の詰所に向かい、ハメリンさんを呼び出してもらう。

 衛兵の詰め所にある会議室のような場所に案内されると、既にハメリンさんが座って待っていた。

「ご無沙汰しています。お忙しいところ、急にお呼び出ししてしまい、申し訳ありません。今日はアポイントメントだけで、後日改めてと思っていたのですが。」

「いえ、ちょうど私も手が空いていた時間でしたから。」

「早速なんですが、お話したかったことと言うのは、いま、ケアールドでパンティアから来られた使徒の崎田さんと一緒に蒸気機関という技術の開発を進めていまして。」

「蒸気機関?」

「蒸気とはお湯を沸かすときに出る湯気です。高い金属加工技術があれば、その湯気を使って高度な魔道具のように様々なものを動かすことができるようになるんです。」

「ほう。」

 小一時間かけてハメリンさんに簡単な蒸気機関の説明、ボクらの財団が出資をして基礎技術の開発を進めようとしていること、そして蒸気機関で何ができるのかを説明した。

「非常に興味深い話ですが、何故、情報をお持ちいただいたのでしょうか。」

「かなり大きな事業となりますから、大きな利権も動きます。後から非難されるのも困りますんで、情報の提供はさせていただきたいんです。」

「それは、鉄道を含めた蒸気機関の技術を優先的にカレンへ売ってもらえると思っても良いのですね。」

「売るというよりも、カレン発祥の技術になります。鉄道については、今後、産業と経済を発展させるために必要なものなので、どこかの時点で技術の確立が必要だと思っていたのですが、パンティアでは受け入れられないと思いますし、帝国とは伝手がありませんから。それに帝国なら軍事的な利用が優先されるんでしょうが、カレンはそうではないでしょう?」

「それは私が判断することではありませんね。」

「いえいえ、カレンで軍事的な利用をする意味がありませんからね。」

 帝国では併呑した小国の治安維持のため、国内で軍および関連物資の移動の必要がある。

 カレン、特にガードニー島においては、そういった心配は全くなく、鉄道は専ら産業・経済の発展のために利用されるだろう。

 ただし、既に世界一の海軍力を誇っているカレンに蒸気船の技術を渡すというのは怖い。

 なので、蒸気船については、財団から出資をして技術独占ができるようにしたいとは思っている。

「鉄道事業を実施するとなれば、線路を確保するために広大な土地が必要になります。鉄道を敷設するには、複数の領地を横切ることになりますから、こちらへの報告はしておかないといけないでしょう。」

「そうですね。ただ、使徒様からの情報提供は非常に有り難いのですが…」

「そもそも、揉めたくないのが主な理由ですけど、技術自体は崎田さんの工房のものですから。ボクはただの代理ですよ。」

「何か聞きたいことがあった場合、どうさせていただいたらよろしいでしょう?」

「しばらくはカレンに居る予定ですし、直接、崎田さんと話をしていただいても結構ですよ。」

「アナタはどこを見てらっしゃるのか?」

「直近としてはハルグラドの復興ですね。魔石の輸入のために来ているのは知っておられるでしょうけど、ハルグラドの産業として確立させたいんです。」

「将来的には?」

「豊かな世界。ですね。復興させるハルグラドだけでなく、この世界全体です。産業・技術革新の中枢に成り得る場所はカレンなんですから。」

「それは、聖書にある兵器技術発展の禁止に触れませんか?」

「恐らく大丈夫です。盲目的に使徒から齎される技術を忌避するルースやパンティアでは受け入れられないでしょうが、元々の目的はそういった物ではないでしょうし、民を含め豊かさを作り出すためのものですから。」

 この辺りは、陽菜(女神本人)にも確認しているから大丈夫だ。

「左様で。希望通り話についてはちゃんと預かりましょう。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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