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ジャンさんに蒸気機関車のメリット教えてみましょう

 ボクはジャンさんを個室のある宿に呼び出して、2人で財団の運営を含めた相談をしていた。

 パンティアで唯一魔石の販売経路を持つたて、無理矢理巻き込んだのだ。

 カレンではジャンさんは魔石の輸出交渉の矢面に立ってもらう予定だったのだが、蒸気機関の開発に着手することになったため、概要を説明するために来てもらった。

「その、蒸気機関車というのは本当に役に立つんですか?」

「線路の敷設にはかなりの費用と時間がかかるけど、大量の人も物もそれも高速に運ぶことができるようになります。鉄鉱石などの重量物もです。」

「高速とはいうものの、具体的にはどのくらい短縮できるものなんでしょう?」

「具体的に言えば、ラブニアの港から王都まで朝に出て夕方には着くでしょうか。」

 徒歩や荷馬車で2週間弱ぐらいで、東京からだと名古屋は充分に超える距離はあるだろうか。

「それは本当にですか!?」

「もしかしたら、もう少しかかる可能性があるかも知れませんが、順調に稼働すれば、2日かかるということは無いはずです。」

「それで運べる荷はどのくらいまで?」

「荷物なら一頭立ての馬車の軽く70から80倍くらい、人間なら400から500人ぐらいでしょうか?」

 想定している最低ラインの4両編成だとざっとこんなものだと思う。

「蒸気機関車というものは、それ程の物なんですね。」

「その代わり、莫大な初期投資が必要ですけどね。」

 前日、ボクらに遅れてやってきたジャンさんを特別に借りた個室のある宿で話をしている。

 この個室は、まあ、その、女の子を呼んで何やらするための部屋みたいだけど、こういった話し合いによく使うと木田から教えてもらったのだ。

 酒も料理も出るし、調度品もそれなりの物を揃えてあるので、確かに使い勝手は悪くはない。

「おや、お酒は苦手ですか?」

 ジャンさんにはワインを用意していたが、ボクのところには果実水が置いてあったからだ。

「故郷ではお酒は20歳からということになってまして、まぁ、まだ飲んだことがないもので。」

「そうですか。無理に勧める気もありませんし、私の方も商談中に判断力が鈍るのであまり多くは飲みません。」

「なら、果実水を用意しましょうか?」

「ありがとうございます。」

 ボクは部屋を出て、果実水の追加を頼む。

「さて、カレンの王室を巻き込んで、どれくらい利権を確保できるかですね。」

「彼らをパンティアに招くのはやはり難しいんですよね?」

「ええ。前にもお話しましたが、王室全体かが使徒が持ち込んだ技術や思想に批判的ですから。カレンや帝国で成功し、普及してから王室主導で導入するという手法を取ると思います。それに、これだけの物が齎す恩恵とそれに伴う思想の変化はパンティアですんなりと受け入れられるとは思えません。国民たちも同じでしょう。」

「やはり、カレンはそういった物を受け入れる素地があると思いますか?」

「ええ。技術も思想も新しい物も変わったものも受け入れられる気風があるようにみうけられますね。」

「表立ってはいませんが、王室がそういった気風を育てているように見えるんですが、ジャンさんにはどう見えてますか?」

「ユウさんのおっしゃるとおりだと思います。軍事的な権限は王室に集中しながらも、各領地の裁量はかなりのものが与えられています。それが気風に現れているのでしょう。パンティアでは、未だに貢納こうのうが大半を占めていますが、カレンではほとんどが貨幣地代となっています。領主たちはそれに順応する者だけでなく、主導している方も見受けられますね。ただ主導するのではなく、現金化が容易な産業の振興も合わせて実施しています。似たような状況の領地が幾つか見受けられますから、おそらく王室からの指導があるのでしょう。カレンの王室は恐ろしいほどの手腕を持っていると考えられますね。」

「やはりジャンさんから見てもそう思いますか。」

「それと、カレン王室は海運を始めとした収益事業を幾つか持っています。税収に頼るパンティアと比べれば、民衆が富むことを恐れていない。それどころか、重商主義ともいうべき体制ですから、王室は更に富みます。」

 ジャンさんは、いつの間にカレンの情報をこれだけ集めてたんだろうか。

 既にボクより詳しいじゃないか。

「若くともさすがは使徒ですね。」

「いや、ジャンさんの情報収集能力と思慮には恐れ入ります。」

「情報は我ら商人の生命線ですから。」

「話を戻しますが、蒸気機関車や蒸気船はパンティアなら王家主導じゃないと動かないということですよね。その気はありませんけど。」

「恐らく。」

「蒸気機関の件はボクの方から王室に話を通しておくようにします。」

「ありがとうございます。魔石輸出の件は予定どおり私から魔術師ギルドへ交渉をさせていただきます。それから、もう一つお願いがあるんですが。」

「何でしょう?」

「この蒸気機関開発のもう一つの目的は、金属加工技術の発展なんです。この蒸気機関には、高度な技術が必要になります。今ならパンティアへ技術を持ち帰ることも可能なんです。それで、パンティアで新しい技術を覚えたい人を募って欲しいんです。」

「もしかして、ハルグラドに技術者の拠点でも作られる気ですか?」

「はぁ、バレバレですね。ハルグラドはパンティア中南部の鉱山からそう遠くもない。物流は少し北のトリキアを経由すれば、王都への物流も可能です。」

「鍛冶師は王都を中心に募ってみますが、どれほどの人数が必要になりますか?」

「集まれば集まるだけで。多ければ多い方が良いですね。」

「都市部で職にあぶれた職人の次男以下なんて溢れかえっますから。100人程度はすぐに集まるでしょうね。」

「とりあえず、100人を目安にしましょうか。」

「そうですね。先程お話に出てました魔石バイクとやら、私の方に都合できませんか?今回の砲手として。」

「まだ試作すらできていないものですから、実現できるかどうかも分かりませんし、燃費、つまり運用するためにどのくらいの魔石が必要になるかも分かりません。そのうえ、荷を運ぶ量も非常に少ない。」

「人しか運べないものであっても、かなりの速度が出るのは間違いないですよね?」

「鉄道ではなく、街道を走ることになるので、恐らく蒸気機関車の半分ぐらいの運行速度しか実現できないと思いますよ。」

「鉄道というのは走るためだけでなく、運用の効率化も担っているのですね。運行速度が半分でも、鉄道が敷かれていない場所まで行けるのは魅力的ですし、パンティアで鉄道の普及を待つ時間が惜しい。」

「パンティア王家がどのような反応をするのかも心配ですが。」

「確かにその心配はありますが、リスクを冒すメリットはあると思います。」

「ボクの依頼した試作ができるのも半年後になりますので、それから先方と掛け合ってみましょう。」

「よろしくお願いします。それでは、その魔石バイクとやらのためにも、気合を入れて頑張らさせてもらいますよ。」

「こちらこそお願いします。」

 料理の残りはそのままに、2人とも個室を出て、それぞれの宿に戻る。

 ジャンさんが魔石バイクに興味を持つなんて意外だったな。

 いや、ジャンさんのことだから、なにか考えがあるんだろうけど。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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