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美羽さんに会いに行きましょう

「美羽さんもこっちで頑張ってたんだね。」

「こっちじゃ、頑張らないと生きてはいけないから。」

 陽菜はあんまり美羽に良い感情を持ってなかったのか。

 ずっと避けてた話だから、聞けずじまいだったんだけど。

 こっちの『陽菜』は意外と言って良いのか分からないけど、正義感は強い。

 それと、何故かボクの意見を尊重する傾向がある。

 それが原因だと思うんだけど、もしかすると他の原因もあるのかな?

 偶然が重なり、結果として人々を助けられることにはなったけど、今思えば、自分たちの実力を弁えた美羽の判断が正しかった気がする。

 あと、陽菜は女神の権能を使えば何とかなるって思ってたのもあって、余裕があったみたいなんだけど、それは誰にも言えないし。

 そう考えると、やっぱり美羽が正しい判断をしていたような気がする。

 冒険者ギルドを出て、木田から聞いた工房を探す。

 美羽は様々な道具などを作っているらしい工房にいるとはきいていたけど。

 巨大な煙突が伸びるその建物は、工房ではなく【工場】と呼ぶべきものだった。



「すみません。美羽さんはいますか?」

 工場の入り口で呼び掛けてみる。

 ただ、騒音で聞こえてるようには思えない。

 おや?

 絶え間なくリズムを刻む空気が抜けるような音と、金属の擦れる音や叩きつけられる音が聞こえる。

 まるで現代の工場のようだ。

「コレってやっぱり工場だよね?」

「うん。」

「コレって蒸気機関だよね?」

「うん。」

 そのうち、ギャギャギャと金属を削る音が聞こえ始める。

「何か時代間違ってるよね?」

「そうは言っても現代日本人がいるんだから、実現する人もいるとは思うけど…」


 そっと入り口から覗くと奥に人がいるのが見えたので、近づいていく。

 なんと、蒸気機関で動く機械に2人の人間が貼り付き、大きな火花を散らしている。

 美羽の方は、男から何かを教わっているように見える。

 ちょっと真剣に作業をしてるみたいなので、非常に声をかけづらい。

 しばらく待ってみるが、まだ終わる気配はない。

 少し陽菜がイライラし始めてきている。

 あれ、だんだん、視線をボクの方に向けてきたぞ。

 居た堪れないので、仕方なく2人に声を掛けてみる。

「すみません!美羽さんに会いに来た優と陽菜です!」

「あ、優に陽菜。」

 2人はやっとボクらに気がつき、手を止めた。

 男の方はそのまま作業を続け、美羽がこちらに近づいてくる。

「ごめんだけど、こっちで待ってて。」

 美羽に案内された場所に置いてある質素だが真新しいソファで待つ。

 よく見ると工場自体が真新しい。

 泥炭の煙とオイルの匂い。

 それに止まることなくリズミカルに空気が抜けるが続いている。

 工場、それも明治時代だとこんな感じだったんだろうか?

 教科書に載ってた富岡製糸場とかは、蚕の繭を湯がいたりしないといけないから、もっと蒸し蒸ししてただろうし、もっと違う匂いがしてたんだろうな。

 作業を続ける2人の様子を眺めている。

 男が防護サングラスに厚手の革手袋で金属の塊を機械の回転部分に押し付けると、火花が大きく飛び散る。

 いわゆるグラインダーというやつなんだろう。

 その男は生白い肌ではあるが、腕も太く恰幅がいい。

 防護グラスとマスクのため顔が見えないので確かなことは言えないけど、肌の色から考えると、ボクらと同じ日本人じゃないんだろうか?

「あの男の人、使徒だよね?ちょっと見てみてよ。」

「ホイホイと鑑定を使うのもちょっと。自己紹介してくれるだろうし。」

 鑑定スキルで名前でも確認すれば、使徒であるかはすぐに分かるんだけど、むやみに使うと敵対行動ととられることもある。

 まぁ、事前に情報を得ようとしたいのは分からないでもないけど。

 現在の陽菜は、このシステムへ直接アクセスするための権限が取り上げられており、新たに今の肉体が調整されて以降の情報は全く持っていないらしい。

 そうこうしている間に、機械音が止み、美羽と男が防護グラスを外しながらこちらに向かってきていた。

 ピコピコと身体を揺らした歩き方は、彼の右足が無いためで、映画に出てくる海賊のように棒切れが覗いている。

 それと、彼はボクらと同じ黒い瞳をしていた。

 「どうも、はじめまして。梅田 優です。」

 彼はこちらから差し出した手はなんの抵抗もなく受け入れてくれた。

「俺は崎田さきた まこと。前々回の使徒だ。」

「前々回というと、木田さんと同期ですか?」

「ああ。」

 木田も崎田も四十初めぐらいだが、二人とも若々しく見えるな。

 少しワイルドな感じはあるけど、それなりに男前だ。

「ハイベル島での件は聞いてはいる。思うところはあるかも知れないか、どうか協力してほしいことがある。」

「ボクとしては、美羽の行動も間違ったことじゃないと思ってますし、気にしてないどころか、ボクらが美羽さんを置き去りにしてしまいましたから。」

「そう言ってくれるとありがたい。」

 陽菜の表情を窺うのは止めておこう。

「話を受けるのかどうかは、聞いてからですから、まだ感謝は早いと思います。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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