復興計画の打ち合わせを終わらせましょう
「狩人たちに機動力を与えることができれば少ない人数でも対応可能だと考えています。」
ボクらだけじゃ人数は少ないけど、監視は男爵の兵や市民からの情報提供に任せ、こちらを実働部隊と兵站に分けて編成すれば、領内全域の範囲をカバーできるんじゃないかと思ってる。
そのためには馬も数を揃える必要はあるけど。
「それでお主は何を得る。」
「功徳を積むためです。人を助けて功徳を積み、神からの祝福を得る。それがボクらの目的です。」
これは本音だ。
善行で名を知らしめることに、二つの意味がある。
このシステムでは、感謝や尊敬も経験として扱われる。
これは、いわゆる勇者補正を行うとともに、女神への信仰を集める必要があるためで、そのためのサービスポイントとなっている。
当然、その信仰自体が陽菜(女神)の力になる。
この世界での大きな目的の一つが、信仰を集め、七不思議から神へ至ることだ。
そこで、ボクらが名を明かすことで、上手くいけば、陽菜本体でなく、ボクと一緒にいる陽菜へ信仰を集めることができるかも知れない。
その辺りは、これからいろいろ検証や準備が必要なんだけど。
それに、手に入れたスキル『スケールアップ』。
これ自身、陽菜が望んでいたスキルであり、発動させれば、恐らく白兵戦で陽菜に敵うものはいなくなる。
「功徳とな。」
「ええ。殺めるのと同じように救うことでも力を得ることができるんです。」
「聞いたことはあるが…」
「確かに殺めることに比べれば微々たるものかも知れませんが、ボクらはその道を選ぶことにしたんです。」
「お主らは教会に入るのか?」
確かに教会でも多少の慈善事業はしている。
「ああ、そう思われても仕方ない言い方でしたね。ボクらは教会とは関わる予定はありません。」
「教会とは別で行動するということか?」
「はい。陽菜と二人で。」
しばらく黙って聞いていた遥人が聞いてくる。
「実際、これからどうする積もりだ?」
「ここが落ち着いてから、次を考えます。」
「陽菜ちゃん、君はそれで良いのか?」
「はい。」
「ウチでカレンのアレみたいな事されても困るんだけどな。」
もうパンティアは自分のモノ扱いか?
そう言えば、カレンで人権運動をする組織があると聞いたことがある。
それに協力する団体がパンティアにもあると。
ただ、パンティアでの活動は確認されておらず、そういったものがあるのかどうかも疑わしいらしい。
「まぁ、心配してるような事はしませんよ。」
カレンでは野放しになった過去の使徒が技術革新に取り組んだ結果、他の二国と比べれば農村部がそれなりに裕福ではある。
それに、規模の大きな街は教会に寺子屋的な場所があるところもあり、識字率も他より高い。
さらに、大陸の殆どを占める3つの大国間で戦争が起こらないという平和な状況が長く続いてるうえ、魔境と海を隔てるカレンは魔物も少ないため、その分国力を蓄えることができている。
そういった背景と使徒との交流から、人権意識が芽生え始めているのだと思う。
この世界は宗教と王権が結びついており、それは人外の戦力を備えることから、きちんと仕事をこなしていれば自然と尊敬を集めることになる訳で、特にパンティアは王族の人気が高い。
ガルティアは領内の小国や東側に帝国に組み込まれていない小国が残っているらしいので、一般的な軍備が必要らしいけど。
そういう状況なので、遥人が王族側に付だろうから、今の世情だと充分に抑えきれるとは思うんだけど。
それに、今は遥人とも、王族とも敵対したくないし、する意味もない。
ただ、元の世界とは全く異なる環境なので、知っている歴史や常識が通用しない可能性が高いので、どう転ぶか分からないところはあるんだけど。
というか、その状況を認識しながら、使徒を野へ放つカレンは一体何を考えているんだろう。
「まぁ、この国は大丈夫だと思うんだがな。」
遥人の声で思考に埋もれていた意識を引き上げる。
「そうでしょうね。そう言えば、カレンの活動家ってどこまで主張してるんですかね?」
「詳しくは知らないけど、議会の設置とかも訴えてたような気がするな。」
「自由民権運動ですか?」
「さあね。と言うか、カレンは君らの国だろ?」
「カレンじゃ使徒なんて商業ギルドのライバル扱いでしかありませんから。」
多分、国が正面切って潰しにかからないのは、面倒ながらも技術の発展を享受したいという思惑なんだろうと思っている。
「まぁ、横道に逸れるのは、これぐらいにしとこうか。」
遥人の軌道修正でボクらは復興計画の打ち合わせに戻っていった。
話し合いは深夜に及んだが、概ね方針は決定できた。
その後、陽菜、ニコライと3人で砦跡まで戻ると、既に寝静まっていたので、大人しく休むことにする。
ニコライだけじゃなく、砦跡にいるみんながに気を遣ってくれて、ボクらにテントを用意してくれていた。
他のみんなは瓦礫や運び込んだ木材で大きな天幕を張って雑魚寝なので少し気が引けるけど。
「今日だけはみんなの好意に甘えるかな。」
しばらくして落ち着いてから、陽菜と今後の話をし始める。
テントから顔を出し、誰も近くにいないことを確かめる。
少しばかり汗ばんだ身体に冷えた夜の空気が心地よく感じる。
「いまさら?」
陽菜が苦笑いしているのが、月明かりで幽かに見える。
「いや、えっと、今からの話の方が聞かれたらまずいし。」
「冗談だよ。」
つい、我を忘れて陽菜を求めてしまっていたみたい。
ボクだって正常な、お年頃の男の子なんだし、陽菜だって嫌そうな素振りはなかったし。
多分…。
「もう、そんな意地悪…」
陽菜に唇を塞がれ、テントの外に倒れてしまい、結局、その日は話ができなくなってしまった。