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ハルグラドに来た商人から話を聞いてみましょう

 なんて男というのは単純な生き物なんだろうと思う。

 多分、今のボクは昨日と違って随分と晴れやかな表情をしていると思う。

 勇者ルースに持っていた意味のわからない嫉妬みたいな感情も、『お互い初めてだから、上手くいかないね。』みたいな一言で霧散した気がする。

 まぁ、前を向けるようになったから、良しとしとこうか。


 御者の爺さんがなんか安心したような顔でボクを見てるな。

 あの爺さんが気を利かせてくれたんだろうな。

 まぁ、その他の面々はちょっと下衆い顔で見てくるけど、気にしないでおこう。


 今日も馬車の荷台で魔核を魔石に変えながら思考にふける。

 今日からは少し前向きだけど。


 陽菜のしたことは第三者からみれば、当然赦されるべき事ではない。

 ただ、ボクと一緒に旅する間、ボクに向けてくれた気持ちやハルグラドで被災した人たちを労る気持ちは嘘ではなかったと思う。

 そもそも、陽菜のためにボクは作られたんだから、陽菜がボクのことを想うのは当然なんだけど。

 二面性といえばいいのか、この世界を自分のために作り変えた陽菜も、ボクと一緒に魔物の大発生から人々を守ろうとした陽菜もどちらも本物なのだ。

 まぁ、陽菜がボクに抱いてる気持ちは、贖罪と母性も入り混じったものだったんだけど。


 陽菜だって被害者だったんだよな。

 そして、この世界の変革は『神』となった陽菜が生きるためにしたことなんだよな。

 だけど、今は贖罪の気持ちは持っている。

 陽菜はボクに殺されようとしてたけど、それは自分のしてきたことを罪と思っているから。

 ただ、陽菜のしてきたこと、同級生をこの世界に復讐のために殺して連れて来て、また殺したことは取り返しの付くようなことじゃない。

 だけど、陽菜がそこまで追い詰められ、生きるための術を求めたことを素直に否定できないと思う。

 ボクはもう迷わない。

 陽菜とも話し合って決めた。

 陽菜を守りながら、彼女の贖罪と、それに彼女を人間に戻すために前に進む。



 途中でゴブリンと盗賊に出会ったものの予定通り10日で廃砦に戻ってきた。

 6人の盗賊たちは綱で馬車に曳かれているけど。

「ニコライさん!ニコライさん!」

 砦跡に着くとまず、ニコライの姿を探す。

 規模は大きくないものの、商隊が砦跡に来ていた。

 その商隊の所からニコライが歩いてきた。

 手は振ってはいるが、返事ぐらいしてくれよ。

 仕方が無いのでボクからニコライの所に向かう。

「彼らは?」

「トリキアから来てくれた商人だ。そして、向こうがその護衛の傭兵団『銀灰の翼』だ。」

 トリキアは辺境伯が治めるこの地方の中心都市だったと思う。

 紹介された傭兵らしき男たちは、巨大な鍋で粥を炊いている。

「『炊き出し』ですか?」

「何だいその『炊き出し』ってのは?パンティアの使徒も同じ事を言っていたんだが。」

 『炊き出し』という単語を話すときのニコライの口元は、日本語の『炊き出し』になっている。

 パンティアの言葉で相当する言葉が無いのだろう。

「災害に遭って困っている人々に食事を施すことです。」

「なるほどな。」

 商隊から、男の子が出てきた。

「あなた方がカレンの使徒ですか?」

「ええ。」

「トリキアの肉屋の従業員で、ヴィネフだ。」

「彼らの商会が最初に食料を売りに来てくれた。魔獣の毛皮なんだが、彼らが買い取ってくれて、何とかしばらくやっていけるだけの現金を工面できたんだ。」

「何で現金が?」

「そりゃそうだろ。食料も毛布も道具も無けりゃ生活できん。」

「ああ、そうか。」

 現代の日本みたいに、被災者への支援という文化自体が無いんだ。

 近代になってもヨーロッパじゃ、貴金属や宝石は持ち歩ける資産と考えるらしい。

 そして、緊急時にはそれを使う。

 土地や家が一番の資産という感覚の日本人には分かりにくい感覚だけど。

 当然、避難する人たちは、財産を持っていてそれを使う。

 そして、金が尽きた者から死んでいく、と言ったところなんだろう。

「アンタがユウか?それで、そこの背の高い女性がヒナさん?」

「ああ。」

「ココロさんと同じぐらいだと聞いてたけど、随分と背が伸びたんだな。」

「?!」

 なぜボクらのことを知っている?

「そんな顔すんなよ。アンタらの元の仲間だったココロさんがウチで働いてるんだよ。」

 努めて考えないようにしていたパーティーメンバーの話題が出て、つい動揺してしまう。

 だけど、相手はあまり気にしていなかったようだ。

「オレもちゃんと食って、鍛えたら、アンタみたいに大きくなれるかな?」

「君は幾つなの?」

「14歳だ。確かアンタは15歳だったよな。」

「つい最近、16歳になったところだよ。そういや、肉屋で働いてるって言ってたよね。肉は食べさせてもらってるの?」

「ああ。アニキが大きくなるために食えっていっていつも腹いっぱい食わせてくれてる。有り難い。」

「良い兄貴分だね。その人の言うとおり、成長期にしっかりと栄養をとってしっかり体を動かせば、まだまだ伸びると思うよ。」

「確かに体も無理矢理動かさされてるな…」

 ボクの年齢なんてあって無いようなものだから、変な感じがする。

 肉体年齢でいうと、やはり16歳だから、まだ伸びてもおかしくないのかな?

「そうだ。ココロさんに会いに来るか?」

「いや。彼女には彼女の人生がある。居場所が分かっただけでも有り難いよ。何かあれば、訪ねに行くよ。」

「そうか。」

「へぇ、お前らん所は使徒まで雇ってるのか。その話、パンティアの連中にはしてなかったな。」

 何かニコライが納得気な表情をしている。

「ああ。香草を扱うことのできる人間を探してたら、ココロさんが来たんだよ。」

「ああ、こころさんのジョブは『薬草師』たったから、確かに適任だね。」

 というか、オーバースペックだよな。

「学者先生だけあって、字もすぐに覚えたし、計算も早いし、それに優しいしさ。」

 学者じゃないって、ジョブだって。

 まぁ、義務教育を受けた現代の日本人なら、当然だけど。

「こころさんって、今は何の仕事をしてるの?」

「最近はトリキアから王都の定期便を任されてるよ。」

「定期便?肉屋じゃなかったのか?」

「あっ。もう話して良かったんだっけ…」

「大丈夫だよ。他言しないから。」

「良いヤツだな。とりあえず、アニキはスゲーんだよ。商売の天才だ。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
こちらもご覧ください。


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